第10話
優月視点
《狂化》と《魔剣化》を発動した王はまさに狂戦士といった風貌をしていた。僕はそれを見て、刀を構え《身体強化》の割合を七割にする。そして足に魔力を集中させ強化する。
‘ウガァァァァァ!’
王は発狂しながらこちらに迫ってくる。その速度は先程までの比ではなく、足が剣になっているとは思えないような動きだった。王の右からの横薙ぎをバックステップで避け、カウンター気味に『円月』を縦に放つ。しかしそれは左手の剣で防がれる。
その反動を利用して一度距離を大きく取り、納刀する。王はまたも突っ込んでくる。間合いに入った瞬間に『円月・断閃』を放つも受け止められる。
‘ガァァッ!’
しかし、王は威力に押されて後退するもすぐさま体制を立て直してこちらに向かってくる。
先程と同様かと、思ったが王は両手の剣を何もないところで上段から振り下ろす。
「なにを?」
そう僕が疑問に思った
危機感知 : 《感知》スキルに統合されているスキルの一つ。所有者に危機が迫っている時等に自動で発動して、危険を知らせる。
僕は《危機感知》に従ってサイドステップで右に大きく跳ぶ。その一瞬ののちに僕がいた空間が縦に割れる。
(空間属性魔法か。まさか剣を振って空間を切り取るなんてな。)
王は更に剣を振り回して空間を切り取ってくる。
(切り取った空間はすぐに元に戻るのか。しかし先程魔力は枯渇させた筈だが、《狂化》は魔力も回復させるのか……いや《魔剣化》の方か。いずれにしても厄介だ。魔力が減っている気配が無い。)
すると王の攻撃に変化が生じる。王は右手の剣を上段に構えて魔力を込めている。しかし左手の剣は先程同様にこちらを攻撃してきている。
(成る程。左で牽制しながら右で必殺の一撃か。そんなこと普通ならスケルトンなんかが出来ないはずなんだがな。)
並列操作 : それは超高難易度の魔力操作技術。魔力は一つのことに使っている間、特に魔法発動中は、他のことに使うことはできない。魔法の同時発動ならばまだしも、(これも高難易度技術だが)魔力を直接動かしてというのは。
いうなれば、人間でいうと両目を別々に動かすといったところだろう。そう、普通であれば無理なのだ。しかし思考能力が二つあれば可能になる。これが並列思考である。これがないと並列操作はできない。まぁ並列思考ができたとしても操作性が落ちるので難しいのだが。
そんなことを思いながら、僕は回避を続ける。流石に空間を切り取る魔法に対しては避ける以外の選択肢はない。しかも王に近づくほど、その速度が増す。よって近づけない。魔術銃では魔障壁を突破出来ず、魔力の無駄遣いとなるだけ。
(はぁ、やっぱりカウンター狙いでいくしか無いな。
王が必殺の一撃を繰り出した瞬間に技を叩き込んで連撃に持ち込み後はごり押しでいくか。ならば、《把握》で一挙一動を見て、タイミングを見計らいながらも強烈なのを入れるために《増幅》でチャージを行うのが今できるベストかな。)
僕は回避を続ける中、戦闘方針を決めその為の準備を進めていく。
数分間、王は必殺の一撃のチャージと牽制。僕は回避と強烈なカウンターのための準備。お互いが相手を殺すための準備をする。
そして遂にその時が訪れる。王のチャージが完了したのを見た僕は《把握》で王の一挙一動を見極める。牽制も止み、王が僕を殺すための一撃を繰り出すべく集中を高める。
‘グゥァァァァッ!!’
王の雄叫びと同時に上段から右手の剣を思いっ切り振り下ろす。
(来た。これを回避してカウンターを入れる。)
僕もその一撃を見極めるべく集中力を高め《把握》でその剣の軌道と此方への到達時間を見抜こうとする。
しかしここで些細な違和感に気づく。
(待て、なんで剣の切っ先が無い?剣は僕との戦闘では欠けていなかったはず。ならば何処へ?空間属性魔法は空間への干渉。
だとしたら、先程までの攻撃は?空間を切り取る斬撃を僕の元に送ったわけでは無いのか?あれが座標を指定して行う攻撃では無いとすれば、空間を切り取る斬撃を僕に直接当てるために僕と剣との間の空間に干渉してその距離を消していれば確かに可能になる。
そういうことなら納得できる。タイムラグが少しあったのは距離を消すための時間か。
だけど、そんなことまでできるのか。しかも王は今理性が無いはず。なのに、これか。いや、僕のこの世界への認識が甘かったのか。魔法についても無知過ぎた。魔術なんぞ、この世界の魔法には遠く及ばないという事実に気づけていなかった。この魔法には核が見えない。多分何処かには有るのだろうけど。
まぁいい。反省は後にしよう。これで種は明かせた。要は僕と王との距離を無くして剣先を僕の身体に直接当てて切り取る斬撃を発動させる、そしてそれは剣がかすりさえすればいいということか。チャージの理由は流石にこれだけの魔法には多大な魔力が必要になるからか。
だがもう見切った。ここからは僕の番だな。)
僕は刹那の間に思考をし、行動する。王の攻撃は《把握》で見切っておりそれを綺麗に回避して、
納刀していた刀に手をかける。そして隙だらけの王にカウンターを放つ。
月華天真流 轟天
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月華天真流 轟天
カウンター技。回避時に身体を捻ることでその回転力を威力に上乗せし、下段から相手の急所目掛けて撃ち上げる。天にも轟くという意味。
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技には先程からチャージしていた《増幅》によって増やされた膨大な魔力が乗せられその威力を倍以上に跳ね上げる。
狙う場所は王の両腕とその後ろにある左肩である。足は斬っても魔法により動ける可能性があるため、攻撃の主体となっている
両腕を狙う。肩はおまけだが、ノックバックを一応は狙っている。
僕の斬撃が王の右手に当たった瞬間王の右手は真っ二つに切断されその後ろの左手、左肩をも切断する。左腕は肩から下が斬り落とされ、右腕も肘より下の部分を落とすことに成功する。
‘ガァァアァァァァ!!’
王は痛みがあるのか、悲鳴を上げる。僕はそのまま『桜華』を放ち、王の核を曝け出していく。さらに『散華』を連鎖させて追撃する。そして完全に核が出てきた瞬間、王の回避行動よりも速く『閃華』を放ち核を砕く。
その瞬間、王と魔剣が別々に分かれる。魔剣は根元から折れており王の《狂化》も効果切れをして骨が白に戻っていく。それにより、理性を取り戻したのか、此方に話しかけてくる。
‘魔剣に身を委ねても負けるか。我が死ねばアルデビス王国もこれまでだな。我以外既に死んでいたのでな。良い国であった。民は皆笑顔で暮らし、我ら王族貴族も国を良くするために尽力し、発展させていった。その結果がこの大きな国だ。其方にはこの国があったことを覚えておいて貰いたいのだ。我が最後の願いだ。どうか叶えて貰いたい。さて時間のようであるし話ももう終わりだ。其方も達者でな。’
アルデビス王はそう言い残して光の粒子となり魔剣とともに消えていった。そして残ったのは彼のドロップアイテムのみであった……
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