第7話
優月視点
鬼人化したオックスさんは先程とは比べ物にならない速さでこちらに斬りかかってくる。僕は魔力での強化度合いはそのままでまた、回避をしていく。
(確かにさっきとは別人のように強いな、それに、キレもある。だけどこの程度か。
さて、もう見切ったし、攻撃に移るとしようか。)
そう考えをまとめると、大剣を手の甲でアッサリといなす。
それにより、体制の崩れたオックスさんの鳩尾へ魔力での強化度合いを一割程増した (合計三割程) 拳で殴る。それを受けたオックスさんは舞台の壁まで吹き飛んでいき、壁に激突する。
オックスさんは大剣を手放したがまだ結界から弾き出されてはいない。それを見た僕は、そこへさらに追撃を仕掛ける。そして、確実に殺すため、拳を貫手にし、喉目掛けて突く。首を貫通した手ごたえをすぐさま感じる。
すると、オックスさんは結界から弾き出される。
僕は魔力を解き、手の力を緩める。
「審判、コールを。」
そして、ボケーッとしている安藤さんへ声をかける。
「ハッ!す、すみません。
オックスが結界から弾き出されたため、
勝者 十六夜優月!」
僕の勝利判定が下されると外野から拍手が送られてくる。それに対して一礼すると、舞台から降りて、観客席へと行く。
観客席へ着くと。西条さんが満面の笑みで出迎えてくれた。
「お疲れ様。すごいじゃない!あのオックスに勝っただけでなく、"鬼人化"まで使わせて、さらにその状態でもダメージはゼロ。そしてほぼ一撃で意識を刈り取って、トドメを刺す。尋常じゃない強さだったわ。」
「ええ、私も見てて驚きましたよ。」
西条さんがそう僕を褒めちぎっているところへ安藤さんもやってくる。
「だから言ったでしょう。彼は強いと。私の剣を手で弾いたんですよ。強いに決まってるじゃないですか!」
するとロイさんも来てそう言う。
「確かに強かったわね。でもなんで刀を使わなかったの?あれが貴方の主武器でしょ?」
「確かに私もそれは見てて気になりましたね。刀を使った方がもっと速くに倒せたでしょうに。」
「それは、格闘だけでも十分だと判断したからですよ。さらに、格闘でも全力の半分も出してませんでしたし。」
「ッッ!! あれで全力ではないと、しかもその半分以下、貴方の全力が見てみたくなりますね。」
「それはいつか。僕が全力を出さざるを得ないときにでも。
それで、試験の結果はどうでしょうか?」
「文句無しにSランクですね。戦闘力は勿論十分ですし、剣聖からの推薦もありますしね。」
「あれ、ロイさん推薦なんてしてくれてたんですか?ありがとうございます。」
「いやいや、いいんだよ。私が君にその実力があると思ってやったことだから。」
「それでもです。本当にありがとうございます。」
「話の途中に悪いわね。だけど、一つ優月くんに聞きたいことが有るわ。
なぜ貴方はそこまで高ランクになりたがるの?なんとなく名誉とかじゃない気がするんだけど。」
そう西条さんが、僕とロイさんの会話に入って、聞いてくる。
「そうですね。自分の目的のために僕は今高い地位が欲しいんですよ。」
「ちなみにその目的とはなんですか?」
「復讐の相手を見つけるためです。」
「……復讐、ですか。しかし、地位が高い方が良いというのは、よく分からないのですが。確かに情報は多く得られますが。」
「地位が高い方が、相手を殺しても、揉み消しやすいじゃないですか。
ただそれだけですよ。」
「ッ!そうですか。」
「なんで復讐を考えたのよ?というか、何が原因なわけ?もちろん答えなくても良いわよ。」
「そうですね。すみませんが、それはまだ明かせません。」
「そう、ならいいわ。
それよりも、後で話があるわ。そうね、夜の7時に私たちがいる部屋へ来てちょうだい。そこで話すわ。
玲子、部屋の位置の確認するから、地図見せなさい。」
「ハァ、分かりましたよ。はいこれ。」
「ありがと。それじゃあ、優月くんこれ見てさっきのようにぱっぱと覚えて。」
「分かりました。ここでいいんですね。 覚えました。もういいですよ。」
「そう。玲子これありがと。さて、じゃあ私達は一旦戻るわね。
翁!オックス回収してから部屋へ戻るわよ!」
「ハァ、儂も少年と話があったんだがのう。」
「後でしなさい!それじゃあ行くわよ!優月くんまた後でね。」
そう言って西条さん達は去っていった。
「それでは私達は貴方の探索者カードを作りに行きましょうか。」
「はい、そうですね。よろしくお願いします。」
「それなら、私も一緒について行かせてもらおうかな。」
そうしてロイさんも加えて、僕たちも移動を開始する。
僕たちは闘技場から支部長の部屋へと行く。なんでもそこで僕のカードを発行するのだという。
少しすると部屋へ着いた。
「さぁ、それではちゃっちゃとやっちゃいましょうか。それではこの紙に必要事項を記入してください。」
そう言って渡された紙に目を通す。そこには名前、年齢、得意分野等と書かれてあった。それを僕は順番に記入していく。
「すみません。この所持スキルとか魔術というのは、必須事項ですか?」
「ああ、そこは任意でいいですよ。その欄に書いてある事は後でパーティーを組んだりする時に役に立ったりするだけですから。」
「へぇそうなんですか。それじゃあ僕は書かなくてもいいかな。」
暫くして書き終わりそれを安藤さんへ提出する。
「はい、確認しました。それではカードを発行します。暫くお待ちください。
………はい。終わりました。これがSランク探索者のカードです。それと一応規則とかも説明しますね。」
まぁ内容を整理するとこんな感じだ。
・探索者はG、F、E、D、C、B、A、Sというふうにランクが存在する。上のランクになる程難しい依頼となり、また、入れる迷宮も多くなる。
・依頼にもランクがあり、ランク付けは協会が行っている。依頼は自分のランクの一つ上まで受けられる。
例として、Dランクであれば、Cランクの依頼までを受けられるという事だ。
・迷宮にもランクによる制限がかかる。迷宮にもランクがあり、下からD、C、B、A、S、SSとなっている。
これも自分のランクの一つ上まで入れる。このシステムでいくと迷宮に入れるのはEランク以上となっているが、迷宮はそれほど厳しい場所であるのだ。だからこそ、駆け出しの探索者が死なないようにするための措置としてこのような制限を設けているのだ。
・探索者はその性質上武器の所持を認められているが、危険なので、街中では必ず武器が見えなくなるようにしなくてはならない。
また、勝手な決闘などの武器を使った争いが協会にある闘技場外で起きた場合は即刻除名処分とする。
・凶魔から手に入れた魔核や迷宮でのドロップアイテムは協会で基本的に買い取ることができる。
以上が大体の内容である。さらに細かく決まっているような部分もあるらしいが、基本的にこれらを知っていれば良いらしい。
「さて、それでは改めて、探索者協会へようこそ!これからは人類のため、そして貴方自身のため、戦ってください。そして貴方の成長を我々一同期待しております!」
「私からもおめでとうと言っておこう。
"世界で8人目の Sランク探索者に。"
これからは共に頑張ろうじゃないか!」
「ありがとうございます。これからよろしくお願いします。安藤さん、ロイさん。」
こうして僕は無事に探索者になることができた。
僕はカードを受け取って部屋を退出する。そして部屋へと戻り、西条さんとの約束の時間まで少し眠ることにする。
*********
数時間後、目が覚めた僕は身なりを正して西条さん達の元へ向かう。
部屋の前に着き、扉をノックする。
「十六夜です。」
「ああ、もう時間だったわね。入って良いわよ。」
「失礼します。」
そう言って中に入ると、部屋には西条さんの後ろで立っているオックスさんとソファに座っている古舘さん、そして中央の机に西条さんがいた。
「わざわざ呼んで済まなかったわね。私が貴方をここに呼んだのは貴方と話がしたかったからよ。この部屋は今、翁の魔術と魔術具で防音、さらに人払いの結界が張られているわ。」
「何か機密性のある話なんですか?」
「ええ、そうよ。これから話すのは蒼葉についてのことなの。蒼葉が情報を隠してるのは知ってるでしょ?」
「はい。それで、その話とは?」
「そうだな、単刀直入に言う。
十六夜 優月くん、君を我々蒼葉に迎え入れたい。」
「随分と急な話ですね。貴女の独断ですか?あと理由は?」
「これは私の独断ではなく、蒼葉の総意である。君の強さは先程証明され、私は君が"死神"であるということは認めた。そして、君は"絶影"であるとも聞いている。私たちは死神が本当ならば、絶影も本当なのではと考えた。今我々は隠密のできる者を欲していた。だからこそ我々は君をを蒼葉に迎え入れたいのだ。
理由を言ったところでもう一度言おう。
君を蒼葉に迎え入れたい。」
「なるほど、理由等は理解しました。少しこの場で考えさせてもいいでしょうか?」
「ああ、それで構わない。ゆっくりと考えてくれ。」
「ありがとうございます。」
(さて、どうしようか。
僕のメリットはこの国についてやシリウスの情報を得やすい。また、立場的にも第一席に入れるのは大きなメリットだ。さらに、強い人達と訓練できる。
このくらいかな。逆にデメリットは、
危険な依頼をこなさなくてはいけない。少し自由を奪われるくらいか。
あとは質問するか。)
「すみません。質問いいですか?」
「勿論構わないよ。」
「ありがとうございます。
聞きたいのは三つですが、先にこれに答えてください。
どのくらい質の良い情報が入手できるか。
任務の頻度。です。」
「そうだな、情報はこの国のはトップシークレットでもアクセスできるし、他国の情報も多く手に入る。質も良いと言って良いだろう。
次は任務の頻度だったな。基本的にはそんなに多くはない。逆に重要性の高いものや長期間のものがある。要は量より質の高いものが多いということだ。」
「なる程。では三つ目の質問です。貴女達は何があっても僕を裏切りませんか?」
「勿論だとも!我々は少数、故にメンバー間の絆はとても強い。君もその中に入るのだから、裏切るなんて有り得ないことだ!」
「そうですか。
………考えが纏まりました。」
「そうか、で返答は?」
「僕を貴女達蒼葉に入れて下さい。」
「ッッ!そうか!入ってくれるか!ありがとう。これからよろしくな優月くん。いやもう仲間だから優月でいいか?私のことも下の名前で呼んでいいから。」
「ええ、勿論です。春香さん。」
そう言うと春香さんは照れたようで顔を赤くしていた。
ここからが僕の新たなスタートだ。今までの人生とは違う自由で自分のしたいことをできる、そんな人生。それを遂に実現した。後はシリウスに復讐するだけ。
(だから、これからも一緒に生きていこう。リア、・グライ。)
そう僕は氷の結晶の形をしたネックレスと左手の人差し指にある淡い橙色の薔薇の花の指輪を握って思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます