第6話

優月視点



目が覚めると既に朝だった。僕は体を起こして具合を確認する。上等なベットで眠れたためか、調子が良いようだった。僕はいつのまにか着替えさせられていたようで、病院の入院服を着ていた。


(昨日武装を刀だけにしといて良かった。)


僕の服と刀はベットの横にあり、それを持って、部屋にあるお風呂に入る。そこでシャワーを浴びた後服に着替え、腰に刀を差す。



(今後について少し考えておこう。このまま日本で生きるのはいいが、復讐が最優先だ。これは絶対。だからこそ、それを実行できるだけの立場が必要になってくる。手っ取り早いのは、Sランク探索者になることだけど、十席の一席か、二席のどっちかに所属して地位を得るのも今後のためを考えると、有りだな。

まぁ、今ここで考えられるのも、このくらいか。後はここの支部長とか、上の偉い人たち次第だな。)



*********



ここで十席について簡単に説明しよう。


十席とは迷宮や凶魔の出現後に日本を守るためにできた、十の組織のことである。十席の組織にはそれぞれ数字があり、数が小さい方が強いとされている。


一席>二席……>十席


まぁ、分野が違う組織も存在するので一概に強いとは言えないが。


そんなこんなで、今の日本を支えている組織のトップ10が十席というわけである。


*********



と、丁度考えるのをやめたときにロイさんと知らない人2人の気配を察知する。


(どうやら、お偉いさんたちが来たようだね。)


コンコン、



「優月くん、私だ。入ってもいいかな?」



「はい、どうぞ。」



「失礼するよ。」



そう言ってロイさんが入ってくる。すると後ろに二人の男女がいた。


男性のほうは身長が190もあろうかというほどで、さらにバーチェスよりも発達した筋肉を備えていた。さらに大剣を背負っていることから、女性の方の護衛なのだと思われる。



女性の方は黒髪を肩まで伸ばしていて、背もすらりとしており、歳は20代後半くらいの、美人な人であった。おそらくこの人がお偉いさんなのだろう。



「優月くん、紹介しよう。彼女は「待って、自分でするわ。」っと、そうかい。わかったよ。」



「悪いわねロイ。

それでは改めて、


私の名前は西条 春香 よ。


十席の第一席『蒼葉そうよう』の隊長をしているものよ。隣にいるのはオックス、今日は私の付き添いを兼ねているわ。


ここへ来たのはロイがあの犯罪組織の生き残りが、"死神"であり、"絶影"でもあるというから興味があったのよ。」



*********



『蒼葉』


十席の第一席であり、ボス以外の構成メンバーはほぼ不明、(ボスはよく会議等で姿を見せているため)少数の組織でありながら、メンバー全員が最低Aランクの実力はあると言われている超凄腕集団。


先に構成メンバーはほぼ不明と言ったが、対外に明かしている者たちもいる。


また、不明なメンバーたちは数字のコードネームが付いており、任務の時はそれぞれの仮面を装着しているため、誰かは分からずとも、二つ名だけは付けられているということになっている。


*********



「あの蒼葉のボスに興味を持っていただけたのは嬉しいですね。それで、本題は?」



「あら、意外とせっかちね。まぁ、いいわ。用件は簡単なことよ。私はまだ、"死神"や"絶影"が貴方だと信じていないの。」



「まぁ、そうですよね。」



「ええ、実際に貴方と会って会話してるけど、強さがイマイチ読み取れない。だからこそ、提案 よ。」



「提案ですか?」



「そう、貴方はこれから探索者になるつもりよね?」



その問い掛けに対して軽く頷く。



「そこで探索者になるための試験と貴方のランク決めを兼ねて、ここにいるオックスと戦って欲しいの。ちなみに支部長の許可は出てるわ。」



「へぇ、オックスって、"鬼人おにびと"のオックスですよね。蒼葉のメンバーだったんですか?」



"鬼人"オックス Sランクに戦闘力では最も近いと言われているAランク探索者。彼の二つ名は彼の使うスキルは発動中、鬼のように体を変化させるため、その見た目から付けられたものだ。スキル発動中の彼はまさに鬼のような強さであると言われている。


「そうよ。オックスは探索者を主にしているけど、蒼葉に所属してるわ。結構働き者だから、今日も連れてきたの。それに強いし。それで返答は?」



「そうですよね。彼と戦えば僕の力も少しは示せそうですし、高い地位も欲しいので丁度いいですね。

その提案、お受けいたします。」



「そうこなくっちゃ!それじゃあ支部にある闘技場に行きましょうか。」



「あ、少し待ってください。僕は準備してないのでしてから向かいます。けれど、道がわからないので、地図を見せてくれませんか?」



「あら、そうだったの。案内役はいなくてもいいの?」



「はい。地図も今見せていただければそれで十分です。」



「地図をいま見るだけで大丈夫ってそんなにすぐ覚えられるのかしら?」



「問題ありません。少し見れば覚えられます。」



「へぇ、それはすごいわね。完全記憶というものかしら。

っと、話はここまでよそれじゃあ準備が終わったら、闘技場に来てね。」



「わかりました。また後で。」



そうして、西条さんたちとロイさんは部屋を出て行った。



(さて、それじゃあ準備をするとしようか。)



そして、僕も準備に取り掛かり始める。



部屋での準備が終わり、闘技場へ向かう。


装備はいつもの服に刀、そしてアイテムボックスから取り出した黒の指貫グローブと黒のブーツを新しく装着しており、どちらも迷宮で発見した超高性能品だ。(服も同様かそれ以上のものである。)


闘技場に着くと、既に西条さんたちとロイさん、そして、知らない人たちがおり、オックスさんも準備が整っている様子であった。



「すみません、お待たせしました。」



僕はそう言って西条さんたちのほうへ近ずいて行く。



「いいえ、大丈夫よ。そんなに待ってはないわ。それより準備は万端? 」



「ええ、しっかりと準備は出来ました。昨日は久し振りに早くに寝れましたから。」



「そう、それは良かったわ。さて、オックスと戦ってもらう前に、紹介しておくわ。


こちらの女性がここの支部長の安藤 玲子さんよ。」



そこにいた女性はまさにできる女社長と言うような人であった。



「初めまして。今ご紹介に預かった安藤です。今日は良い戦いを期待しています。」



「初めまして。知っているとは思いますが、十六夜 優月です。貴女のご期待に添えるように頑張ります。」



「さて、もう一人紹介するわ。


『賢者』の1人である、古舘源宗ふるたちげんしゅうよ。彼も世間に明かしている『蒼葉』のメンバーで、みんな"翁"と呼んでいるわ。」



*********



『賢者』


賢者とは世界に突如として出現した迷宮や凶魔等の不可思議なことについて、その分野で最も詳しい者のことを指す。

分野は7つあり、それぞれに賢者がいるため、まとめて、"七賢者"と呼ばれている。



*********



「初めまして、儂が日本の賢者じゃ。分野は魔力じゃ。よろしゅうのう。」



「初めまして。賢者に会えるとは感激です。機会があれば是非お話しを伺わせてください。」



「それじゃあ、紹介も終わったことだし、さっそく始めましょうか。

オックス!準備はいいわね?」



「問題ない。いつでもいいぞ。」



「わかったわ。貴方もいいわね?」



「ええ、いつでも大丈夫ですよ。」



「よし。それじゃあ舞台の上に上がって。」



僕とオックスさんは舞台に上がり、所定の位置につく。


すると安藤さんが審判台に立つ。



「それでは、私、安藤が審判をします。


では、ルールを説明します。


1. 武器はなんでも使って良いです。この舞台には迷宮から、発見された"魔術具マジックアイテム"が使用されています。

銘を"非殺結界アンチキルフィールド"。

その名の通り結界内では死なないというものです。死に至るダメージを受けると強制的に結界から弾き出されます。結界から出ると受けた傷は全て無くなります。ただし、死なない代わりに魔力を持ってかれるので気をつけてください。


2. 決着はどちらかが降参、又は、結界から弾き出されるかです。


3. 不正行為が見つかった場合は即刻終了とし、不正行為をした方の負けと致します。


以上がルールとなります。


それでは始めましょう。両者の健闘を祈ります。準備は良いでしょうか?」



「「はい。(ああ)」」



「それでは、 始め!」



その言葉と同時に僕は腰に差している刀を地面に置く。



「バカにしているのか?」


「いえいえ、別にいらないと判断したまでです。なので、決してバカにしているというわけでは。」



「ッ!そうか。ならばその判断、後で後悔しろ!」



オックスさんはそう言ったと同時に大剣を構えて走ってくる。僕も拳を構えてそれに応戦する。パッシブスキルにより魔力をコントロールして身体能力と拳の強度を強化する。

ただし、全力の2割程ではあるが。

オックスさんも既に魔力による強化を行っており、大剣を軽々と扱い切りかかってくる。僕はそれを全て見切り紙一重のところで回避し続ける。


それが暫く続いたのち、オックスさんが一度引く。



「なぜ攻撃してこない?攻撃することはできた筈だ。」



「本気が見たいからですよ。使ってくださいよスキル。そしたら、僕も攻撃しますから。これ試験も兼ねているので、評価が高い方がランクも高くなるんでしょうしね。だから全力を出し尽くした貴方と戦い、勝ちたいんです。そうすればAランクは行けそうですし。

貴方の固有スキル"鬼人化"を使って僕を倒しに来てください。」



「分かった。ならば、俺も本気でいくとしよう。

ハァッ!」


スキル発動 "鬼人化"


発動と同時にオックスさんの体が変化する。

筋肉は肥大し、肌は紅く染まっていく。そして、額からは、一本の太い角が生えてくる。


その姿はまさに伝承にある鬼であった。


変化が終わると、先程までとは別格のプレッシャーを感じる。



「さぁ、いくぞ!」



そして戦いは第2ラウンドへと突入していく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る