第5話




優月視点



ぼんやりとした意識の中で僕は何かの映像のようなものを見ていた。



そこには幼い頃の僕がいた。母親と父親と手を繋ぎ、笑顔で今日あったなんでもないことを楽しそうに両親に話す、まだ何も知らない無邪気な僕が……。



場面が切り替わる。



そこには父の友人達7人に組み伏せられている母と椅子に縛り付けられ座らされている父がいた。


父の友人達、特にシリウスという男とは仲が良く、僕も懐いていた。そのシリウスがリーダーのようで、彼は母を組み伏せて、父に対しての嘲笑を浮かべていた。


そして父を痛めつけながら、目の前で母を犯した。


最後には父は殺されて、母は自ら死んだ。


僕は両親が殺される瞬間をただ泣き叫びながら見ているしかなかった。


両親が死んだ後、幼い僕は自分を組み伏せていた三人の男達の力が弱くなったのを見て、拘束を振りほどいて、父のそばにあった刀を手に取り抜いた。


そして父を見て学んだ剣術で男達に斬りかかった。


まずは自分を組み伏せていた三人の男達に向かって突きを繰り出し、喉を的確に貫く。三人を殺したら刀をすぐさま喉から抜いて、正眼の構えをとる。


これが初めての実践であり、初めての人殺しだったが、怒りのためか、忌避感なども何も感じない。


改めて敵を見ると、シリウスたちも武器を構えていた。



「どうして母さんたちを殺したんだ!」



そんな僕の問いにシリウスは至極当然のことのようにいやらしい笑みを浮かべて、答えた。



「お前の母親は美人だから、犯したかったんだよ。父親はただ単に邪魔だったし、せっかくなら絶望するのを見たかったんだ。そんな当たり前のこと聞くなよ。」



そんな答えに僕は激怒しながら、斬りかかった。


まずはシリウスより前にいた三人に斬りかかっていく。三人は全員が短剣のみだったため、超近距離戦闘にならないように刀のリーチを生かして、一撃で殺せるように急所を狙う。


それに対して男達は僕を囲んで逃げ場のないようにしてくる。


しかし、その囲いが完成する前に僕の刀が正面の男に到達する。


「ハアッ!」


そのまま刀を振り上げ、男の肩から腰にかけて斬る。それにより、男を殺すことに成功する。


その間に二人の男達が左右から短剣による突きを繰り出してくる。それを大きく回避して右側にいた男に左逆袈裟斬りを放つ。男は咄嗟に短剣を構えるが、 一歩遅い 、防御が間に合わなかった男の左脇から右肩にかけてを切り裂く。


その隙に背後の男が首を目掛けて短剣を突き出してくるが、それを背後を見ずに刀で弾く。


「なっ!」


そして相手が動揺したところを一刀のもと斬り捨てる。



「さぁ、これでお前だけだぞ!シリウス!!」



「アッハッハ、素晴らしい戦闘の才能だな、優月!それじゃあ俺が相手をしてやろう!かかってこい!」



僕はまた、正眼の構えを取る。対するシリウスは何処からか出した長剣を手に持ち、僕を気味の悪い笑みを浮かべて見てくる。


僕は先手を取るため自ら斬りかかっていった。なんの変哲もない上段からの斬撃、しかしそれはスピードも力も十分に兼ね備えたものだった。


勝負は一瞬にしてついた。


シリウスは僕の全力の斬撃を長剣で綺麗に受け流す。


「なっ!」


そして体制を大きく崩した僕の鳩尾へ膝蹴りをする。まさに見事なカウンターだった。


「かはっ」


僕は刀を落として、その場でうずくまり痛みに悶絶する。


そしてシリウスの次の一撃により意識を刈り取られた。


(くそっ!次は、次こそは必ず殺してやる!何年掛かっても絶対にだ!)


薄れゆく意識の中そう誓った。



そして夢が終わる。


(そうだ、僕のこの憎悪はまだ消えていない。力はもう十分得た。復讐をしよう。)



*********



「…月くん!、優月くん!」



「う、ん、ロイさん?」


起きると辺り一面白い部屋だった。そして目の前にはロイさんがいた。



「やあ、起きたかい?随分とうなされていたようだが、大丈夫?」



「ええ、まあ。

それにしてもここは?」



僕は周りを見ながら尋ねる。



「ここは医務室だよ。君は探索者協力についた途端に倒れてしまったんだよ。ちなみに原因は極度の疲労と魔力欠乏症だそうだ。魔力の方は魔力回復薬マジックポーションを使用したから大丈夫だと思うけど、今日はもう休んでいた方がいい。どのみち色々な手続きは勝手に終わるだろうから、何もやることはないしさ。」



「そうなんですか。それじゃあお言葉に甘えて休ませていただきます。」



「ああ、そうするといい。今日はこの部屋は君専用だから。何かあったら誰かを呼んでくれ。そうすればここにいる職員さんが来てくれるから。」



「分かりました。それでは、今日はお疲れ様でした。お休みなさい。」



「お休み、優月くん。」



そして僕は再び眠った。

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