第五話 訓練

王と友達になった俺だが何故俺を友にしたのかと聞く。王が言うには、皆堅苦し過ぎて気軽に話せる人が居なかったらしい。そして今回のようなことを何故今までやってこなかったのかと聞くと、騎士団長より弱い者しか来ないしあまり話したくないタイプの奴が多かったと言うのだ。


「つまり僕となら話せる気がしたから友にした、ということで合ってるのか?」


そういうことだと、零珠は答える。

王も大変なんだなと他人事っぽく思ってしまうが自分がそうだと考えると嫌だね。

もしかすると頂点に立つものは何かしら苦労してるものなのかなぁ…なんて考えるけど分からないから考えなかったことにする。


「なぁ、未来。俺と模擬戦をしないか?縛りをつけて。そうだな、武器縛りでやろう。能力と魔法禁止で。相手が欲しいんだ。」


純粋な力だけでの勝負ってことか。とするなら俺が負ける可能性が高いが、王であり友の頼みだ。聞かないわけにはいかないだろう。


「分かった、やろう。ただ少しだけ待ってくれ。自分の剣を改良したいんだ。」


分かった、先に広場で待つ。とだけ言って零珠はすぐに転移していった。空間の歪みを生み出さずに転移魔法を使えるのはさすが王と言ったところだろう。


「さて、不知火…僕にもっと力をくれ。その力を訓練して使いこなす。だから、力を」


…返答が来ない。まだ俺には力を手に入れる資格がないらしい。もう少し力をつけろということみたいだな。力を手に入れたいならばそれに見合う力を付ける必要があるようだ。頑張るか…。


「来たか…始めるぞ未来。準備はいいな。」

「もちろん。本気でやるぞ。」


一瞬にして空気が変わった。零珠が戦う気になった証拠だ。寒気がする…気圧されそうになるがこちらも覇気で対抗する。

どうにか中和出来たようだ。萎縮も気後れもしない、これなら戦えるだろう。


「行くぞっ、未来!」


零珠が剣を振りかざし、襲ってくる。それを寸前で躱しつつ、攻撃に移る。カウンターだが零珠はすぐ反応をする、だから俺は少しの工夫をした。横斬りのカウンターだったのでわざと受け流させ、そのまま遠心力を利用し後ろ回し蹴りへと移る。


「まさかそんな動きをされるとは思わなかったぞ、未来。蹴りだがとてつもない威力だ」


まさか、蹴りの速さに合わせて身体を回転させて受け流すとは思わなかった。とはいえ、多少ダメージは入ったようだ。ふらついてるのがその証拠だ。脳震盪でも起こったのだろう、流石にその状態で戦い続けるのは危険だ。僕は模擬戦を止めようとした。


「もう少しで収まるから待て。まだ決着がついてないからな。終わらせないぞ」


出鱈目な王だな。…仕方ない、最後まで付き合うとしようか。


「一撃で決めるよ、零珠。これ以上は体に負担をかけるから。これで最後だよ。」


零珠もそれに応える。この一撃に全身全霊をかける。


「葛ノ葉流抜刀術…獅子雷閃」


王の首元まで鋒を突き付ける。勝てなかった。王の首元に鋒を突き付ける僕の胸には、剣が突き立てられている。つまり相打ち。


「最後の最後まで勝負は分からないのだ、未来。やるなら徹底的に、警戒を怠るな。」


零珠の言う通りだ。僕は相手が負傷してるから勝てると気を抜いていた。しかし、結果は相打ち。それどころか負けてた可能性もないわけじゃない。最後までやりきらないとこっちがやられる。縛り付きとはいえ、形式的には実戦だ。どんな理由があろうと気を抜いていいわけじゃない。


「短い模擬戦だったが、悟るべき事を悟ったようだな。お前に自覚してもらうための訓練でもあったのだ。悪く思うなよ?」


零珠はケロッとしている。脳震盪は演技だったようだ。軽くショックを受けたが、戦いの心得を学ぶ事ができた。まさか訓練されてるとは思わなかったけどね。

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