第四話 邂逅

 僕は死の国へ入国した。この国へ入国すると必ず王へ会わなければならないらしい。どんな人物なのか、好奇心と不安で頭がいっぱいいっぱいだ。


「ここが王が住む王城です。城壁を不用意に触れないでくださいね、対軍魔法が発動するので。貴方はどうにかしそうですが。」


冗談はやめてほしい。対軍魔法を一人でどうにか出来るわけがない。僕の力にも限度ってものがあるから、どうにか出来る訳がない。


「それもそうですね。そんな人居たら、この国滅亡しちゃいますし…想像しただけでも恐ろしいですね。でも相手が強力な程、未来君の力も強力になりますもんね。」


あながち間違いではない。とはいえ、天地ほどの格差があれば話は別だ。流石にそんな相手に敵うわけがない。一対一では劣勢で死なない程度ぐらいしか粘れないだろう。


「そんな未来君に朗報ですっ!なんとですねぇ…分身魔法と言うのがあるんですよ。この分身魔法は二種類しかなくてですね、影分身と、並列分身があるんです!後者は修得に時間がかかりますが、その分強力ですよ。」


愛夏が言うには、影分身は魔力をちょっと消費して分身体を幾つも生み出せるそう。並列分身については、使い手があまり居ないため伝えによると自分の体力と魔力を10%程消費し自分と同じ存在を作り出すという魔法なんだとか。もちろん、同じ存在とはいえ10%が元になってるから、その別身体には自分の10%の力しかないみたい。


「なるほどな。並列分身なら強化が簡単そうだな。修得はしておくべきだな…。」


ようやくここで、王の間に着いたようだ。

少し緊張する。それに、この扉の先にとても強大な力を感じる。この国の王とだけあって、最強みたいだ。支配者としての空気が扉からでも伝わって来る…。そして扉が開く。


「こちらがこの国の王。零珠(れいす)様です。失礼が無いようにお願いします。」


大臣らしき人が言う。王に失礼するほど、常識がないわけじゃない。とはいえ、ここの常識はまだ分からないんだけど…。


「まずは初めましてだな、葛ノ葉未来。それと久しいな愛夏、息災であったか?」


威厳がある。英雄だな、王は…。それは強いわけなんだが、まさかここで戦うとかにならないと良いんだけど。


「初めまして死の国の王。貴方様のご尊顔を拝見できましたこと、光栄でございます。」


こんな感じで良いのだろうか…愛夏が次は答える。やはり、王に会う機会は全く無いようで、流石に緊張しているようだ。


「はい。私を含め皆元気にやっております。王もお元気のようで嬉しく思います。」


緊張しつつも、しっかり出来てて凄いなと感心する。が、王が溜息をついた。


「そんな堅苦しくなくて良い。それと葛ノ葉未来、お主には俺の右腕となり、友となってもらおう。この国にお主の相手出来るのは俺ぐらいだろうさ、無意識かもしれないが先から覇気が駄々漏れであるのが証拠よな。」


緊張のせいか無意識に覇気を使ってしまっていたようだ。落ち着いて周りを見ると、一般兵士から上級兵士もろとも気絶しているという惨状になっていた。王は無意識なことを理解しているようで、咎めるつもりはないみたいだ。寛容な王で良かったと安堵する。

ただ、疑問なのは王だけが俺の相手を出来るというのは何故だろうか?俺より強そうなやつは城内に数名居たが。


「待ってください、王よ。未来はまだ力を顕現させたばかりで力の扱いも十分ではありません。この城内の騎士団長などでも相手にはなるはずです、王が相手にする必要はないかと存じ上げます。」


王は呆れたように問い返す。


「力の扱いが十分でないとはいえ、強力な力なのには違いなかろう?それに、未来の能力は相手が強いほど有利なのだ、騎士団長など簡単に殺られるだろうよ。未来が力の使い方、魔法を覚えれば俺をも超えるだろう。それでも、必要ないと言うのなら騎士団長と戦わせて騎士団長が勝てばお主の言うように騎士団長等に任せよう。負ければ俺が直々に力の使い方を教える、良いな?」


はい、と答える愛夏。まさか王ではなく騎士団長と戦うとはな…。とはいえ負けるのは嫌だからな、手は抜かない。


「ここで戦ってもらうぞ。参れ。」


すると、扉が開き騎士団長が入ってきた。

気配からしてやはり僕より強い。敵いそうもない気がするが、やるだけやるのが僕のやり方だ。早々に諦めるのは嫌だ。


「死の国騎士団長、ギルバート・リユニオンだ。貴様が葛ノ葉未来だな?王より聞いてはおったが、随分と弱そうではないか。王が戦えと言うからどのような相手なのかワクワクしてたががっかりだ。せめて準備運動にはなってくれよ?葛ノ葉未来っ!」


僕だってあんたみたいな強者と戦いたくないよ。とはいえ、やらなくちゃならないならやるだけ、じゃないとこっちがやられる…。


「話が長いよ、あんた。やるならさっさとやって終わらそうぜ。話す時間が無駄だよ」


騎士団長への挑発だったのだが、僕のような雑魚にタメ口を利かれたせいか効果覿面だった。面白いくらいに怒った。


「いいだろう。身の程を弁えぬ口の利き方を反省しろよ小僧。俺と貴様じゃ相手にならんことを身を以て教えてやる。」


と言った割に簡単に勝負がついた。

激怒した騎士団長が僕に斬りかかり、僕はそれを避けつつ騎士団長の首に剣を添える。

そこで王が止めとストップを入れたので決着、僕の勝ちだった。


「見事だったな。挑発して簡単に騎士団長を負かせるとは。力も使わずして勝つとは予想外だったぞ。そして騎士団長、団員を背負うお主が簡単に挑発に乗ってどうする。団長としての意識が足りないのではないか?」


はい、そうです…と、騎士団長が落ち込んでいたのは少し滑稽だった。


「愛夏も異論はないな?約束は約束だから、守ってもらうがな」


はい…と少ししょんぼりしてる姿が可愛く思えた。僕の案内役だから離れることは無いと思うんだけどな。


「では、葛ノ葉未来。今からお主は俺の右腕であり友だ。敬語にしなくて良い。」


友…ね、王と友達って僕やばい立ち位置に来てる気がするよ…。

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