第一話 力
「死の国…?」
訳が分からなかった。死んだら天国か地獄へ行くものだと思い込んでいたので、当たり前と言えば当たり前だろう。…とりあえずこの愛夏と言う少女に付いていく他無さそうだ。話しながら僕は少女に付いていく。
「貴方の考えは分かります。しかし、そもそも天国や地獄なんてものは存在はしないんです。存在すると言うならそれは貴方達の頭の中にあるイメージでしょうか…。」
なるほど、つまり天国や地獄は僕達の想像であって本来存在はしないのか。ということは、死んだ人間全員がここに来ると言うことになるのか。まさかの回答に驚く。
「なるほど。…あれ?今の質問、口に出しました?」
いや、口に出してないはずだ。無意識に言葉を出してしまうほど混乱はしてない、ならこの少女は僕の心を読んだことになる…
「…それに気付くくらい冷静なんですね、混乱しつつも状況把握を出来る冷静さも持っている。なるほど、貴方がここに飛ばされたのも納得出来ますね…。」
飛ばされた?つまり、僕がここに来たのは偶然ではなく、誰かの意思によってここへ来たことになる。…しかも、勝手に納得されてるのが不思議だ。そう思案していると
「着きました、ここが死の国です。」
どうやら、国の入口付近に着いたようだ。周りには人影があまり見当たらない。入口付近だろうからそうなのだろう…多分中には多くの人が居る、いや確実に居る。
「ここが…死の国。凄いな、まさかこんな場所があるとは…驚きを隠せないな。」
少女は、入口付近に居た番人らしき人に声をかけていた。何をしているのかは分からないが勝手のわからない僕が気にすることではないだろう、とりあえず待つことにする。
そして数分後。
「お待たせ、ここから国に入る前に少し貴方の実力を測りたいの、私と戦ってもらうよ。彼処の番人が審判、勝敗は相手を瀕死にさせること。理解出来た?」
ツッコミどころは多いが、従うしかないだろう。意味のないことはしないはず…
「理解は出来た、だが武器は無いのか?素手で瀕死まで追い込むのは流石に色々問題があるだろう。もし、あるなら剣がいいな。」
少女は俺より確実に強い。実力を測ると言ってたからな、俺に勝ち目はないだろう。武器を使ってもそれはあまり変わらないと思う。
「あるよ、これでいい?」
と、剣を投げ渡された。少し重く扱いづらいが慣れれば大丈夫だろう…と思っていたが。
剣は長年使ってきたように手に馴染み丁度いい重さになった。形状も剣というよりも刀に近い、持ち主がイメージした通りの形状や重さに変化するようだ、とても興味深い。
「早速出来たみたいね、このまま能力も開花してくれるといいんだけど…。」
少女はわけのわからないことを呟いていたが、気にする必要はないだろう。とりあえず今はこの戦いを乗り越えなければ…
「これでいいか。始めよう。」
少女は既に戦闘の構えだ。もう、始まる。
「始めっ!」
番人が始まりの合図を出す。その瞬間、少女が消えた。いや、消えたというより捉えきれない速度で隣まで来ていたのだ。そこから手刀で俺の身体を貫こうとし、それを寸前で躱す。もう少し遅ければ、どうなるか分かったもんじゃない…
「危なっ…瀕死じゃなくて殺す気か!」
なわけないじゃーんと、少女は笑うが明らかに殺気が籠もっていた。手加減してくれるなんて考えていては駄目らしい。どうしたものか…勝てない相手に手加減無しで来られればこちらは死にものぐるいで応戦しなければならない、それでも勝てないだろう。
「もっと…僕に力があればな…。」
そう呟いた時、何処から声がした。聞き覚えのあるような、そんな声だった。
「力を欲すか、ならば我と契約せよ…さすれば力を与えてやる、契約するならば我の名を叫ぶが良い、我が名は…。」
「「不知火ッ!!!」」
名前を叫んだ途端、力が湧き上がった。とても心地良い感じがする。これなら勝てるのではないだろうか?と、その時また声がした。
「契約は完了だ。葛之葉未来、お前の力は略奪と譲渡だ。この力は強力だが扱いを1つ間違えると自分も危うくなる、だからちゃんと使いこなしてみろ。」
略奪と譲渡、つまり相手から何かを奪って味方に渡したりするって感じか。味方全体強化と、敵全体の弱体化、軍規模でやればこの力は強力過ぎるな。
「叫んだ後から急激に力の上昇が激しいんだけど…なんでもいいや、楽しめそうだし。」
ふむ?力を見抜く能力があるみたいだな、分析系かな?多分心を読んでたのもその力のおかげなのかもしれないな。
…とりあえず、この戦いで力を試すか。
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