第37話 いままで見たなかで、二番目に美人だ。
目を開けると、俺は宇宙にいた。無数の星々のなか、ひときわ赤く光る物体があった。
俺はそこに向かって移動しているようだ。
赤い光が、徐々に近づいてくる。
隣には、大人の女性の姿となったイプノスの姿があった。
「まもなく到着です。覚悟は良いですか?」
「ああ」それにしても。「その姿、驚いたよ」
「どうです? 私の本来の姿ですよ」
なんと答えるか迷い。結局、思ったことを素直に伝えることにした。
「美人だ」
「……急にストレートを投げるのはやめてください」
じゃ、要望に応えて。
「いままで見たなかで、二番目に美人だ」
「私を越えるほど美しい人間がいるのですか?」
「ああ。母さんだ」
「なるほど。まあ、それなら二番で良いです」イプノスは微笑み、俺の手を力強く握りしめた。
大きな手。その手を握っていると、俺の全身に力が満ちていく。
そうしているうちに、さらに赤い光が強くなっていった。
もう少し到着まで時間はありそうだが……。
「勝算はどうだ?」
「気休めは言いません。まあ、五分五分です」
「それだけあれば十分だ」
「明久さんは自分自身の力で、アモーレを貯めたんです。誇りに思ってください」
もちろん、俺だけの力ではない。芽依にも、早織さんにも、月乃にも。
そして、イプノスにも力を貸してもらった。みんなの御陰で、いまここにいられるんだ。
絶対に負けるわけにはいかない。
勝つ。
たとえ、刺し違えたとしても……。
徐々に、視界全体が赤色に染まっていった。もう敵のエリアというわけだ。
地球から見えていた、巨大赤竜の瞳が俺を捉えていた。いつ攻撃をされてもおかしくない。異様な緊張感があった。そして、巨大赤竜の爪が赤く光り。戦いは、はじまった。
「来ます!」イプノスの声と同時に、俺は大きく左方に移動した。
その瞬間、俺がさきほどまでいた射線上に、赤い一筋の光がほとばしった。
すべてを焼き尽くすような、赤色のレーザー光線。
一撃でも食らえばひとたまりもないだろう。
「作戦はあるのか?」
「明久さんは回避に専念してください。私が隙をついて、一撃で仕留めます!」
「わかった。任せろ」
俺は宇宙空間を飛び回る。巨大赤竜は俺のことを直線的に追いかけてくる。俺は背後から飛来する赤い光球を避けつづける。何度も何度も、執拗に狙い打ってくる。いまの俺にできるのは、イプノスを信じて攻撃を避けつづけることだけだ。
ちらりと背後を見る。イプノスが巨大赤竜の背後に回り、目を瞑って腕を組んでいる。両手に紫色の光が貯まっているのがわかった。強烈なエネルギーを感じる。あれがイプノスの一撃なのだろう。イプノスの右手から紫色の光が発され、それが巨大赤竜の後頭部へと突き刺さる。
俺を追っていた巨大赤竜は動きを止め、じろりとイプノスのほうを向いた。
その瞬間、目が赤く光った。例のレーザー攻撃だ。
イプノスは微笑む。なぜ避けようとしないのか。まだ、左手に残っている紫色の光で、攻撃をしないのか。
「任せましたよ」
イプノスの声がきこえてきた。ゆっくりと、イプノスの左手が紫色に光り。次の瞬間には、イプノスの左手から、光が消え失せていた。
そして、俺の左手が、燃えるように熱かった。そこにあったのは、超巨大なエネルギーの塊だ。紫色の光がまぶしい。
巨大赤竜が攻撃をはじめる、その瞬間。
俺は祈った。この一撃で、すべてを終わらせてくれ、と……。
イプノスの貯めてくれたエネルギーを放出する。殺意を込めた一撃。それが、巨大赤竜の後頭部に突き刺さる。さきほどイプノスが攻撃をして、えぐり、肉が見えている部分だ。
終わりだ。そう思った瞬間。
巨大赤竜が、振り向いた。巨大赤竜は、俺の攻撃を顔面で受ける。額の一部が消し飛んだけれど、まだ動いていた。
「なんで……」
イプノスのつぶやきがきこえてきた。
巨大赤竜は、俺のことを睨んでいた。爪が、赤く光る。
エネルギーを放出しきった俺は、もう、動くことができない。
終わるのか。終わってしまうのか。俺は、この世界を救うことができないのか?
イプノスが飛んでくる。同時に、赤い閃光が宇宙空間にほとばしる。
「死なせません! あなただけは! 絶対に!」
イプノスに抱きしめられると同時に、赤い光線に体を貫かれた。
ゆっくりと、意識が消えていく。視界には、もう何も映らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます