第四章 Take it easy. I can assure you that everything will turn out fine.

第31話 キスとか。それ以上とか。

 屋上庭園のベンチに、芽依と並んで座る。


「お母さんの指輪で契約して、力を持ってたんだっけ」


 芽依が俺の左手を取って、形見の指輪を撫でた。宝石の色は灰色に戻っていた。


「前の戦いで、指輪の力を使い果たしてさ。催眠能力は、もう使えないんだ」


「そっか」


「俺ひとりで、どうやってアモーレを貯めたら良いんだろうな」


「仮にだけど、わたしとしても、貯まらないんだよね?」


「するって、キスか?」


「キスとか。それ以上とか」


 それ以上。俺は一瞬だけ想像しそうになったが、深く息を吐いて、その妄想を消す。


「何言ってんだよ。お前……」


「いや、べつに兄さんとしたいわけじゃなくって! でも、世界を救うためなら、それくらい、べつに良いかなって思ったりしてさ」


「うーん。アモーレっていうのは、人と人の、心のふれあいによって生まれるもの……。らしいんだよな」


 仮に芽依として貯まるものなのか? そのあたりのこともイプノスにきいておけば良かった。

 というか、イプノスを、探しに行かないと。あいつがいないと、戦うことすらできない。


「なあ、なんとか今日、退院することってできないのか?」


「え? うーん。どうなんだろう。特に異常はないみたいだし、大事を取ってって話だったから。どうしてもって頼めば、大丈夫じゃないかなぁ……。どこか行くの?」


「ああ。さっきも話したけど、俺の大切なパートナーを捜しに行かないといけないんだ」


「イプノスさん、だっけ? その子、可愛い?」


「そうだな。小さくてな。人形みたいなんだ」


「その子とずっと一緒にいたんだね」


「ずっとって言っても、短い間だけどな」


 一週間くらいか。


「わたしも、兄さんの寝顔とか見たかったな」


「俺の寝顔くらい、これから先、幾らでも見せてやるよ」


 俺は微笑んだ。久しぶりに、うまく笑えた気がした。

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