第19話 恋愛相談をしても良いか?

 夕食も風呂も終え、俺は自室のベッドに横たわった。ほどよい疲労感があった。

 いつでも眠れそうだ。うつ伏せになっていると、枕元にイプノスが飛んできた。


「今日は随分と楽しめたようですね。アモーレの量が、いままでとは桁違いです」


「俺、そんなに喜んでたか?」


「はい。とてつもなく喜んでいるように見えましたけど。楽しかったでしょう?」


「……そうだな。うん。楽しかった」


「いつになく素直ですね」


「俺は、いつだって素直だぜ」


「そうです? まあ、良い傾向ですか。明久さんは、人間として成長しているようですね」


 実際のところ、どうなんだろう。

 イプノスが来て、催眠能力を手に入れて。香芝さんや、月乃との人間関係が進展して。

 俺は少し、まともな人間になれたのだろうか。成長できたのだろうか。


「あのさ、イプノス。恋愛相談をしても良いか?」


「良いですけど、管轄外ですよ?」


 まあ良いか。こいつ以外に相談できる相手もいないし。


「香芝さん、もしかしたら俺のこと、好きなのかな」


「好きでしょうね。あれは完全に惚れてますね」


「やっぱりか?」


「一時的な気の迷いかもしれませんけど。明久さんの本性を知ったら恋心も冷めるかもしれん」


「俺の本性、そんなにやばいのかよ……」


「香芝さんのおっぱい支え係になりたいとか言ってましたし……」


 それは忘れてくれ。冗談だ。


「なあ。俺、どうしたら良いんだろうなぁ」


「香芝さんと恋人になって、関係性を強めていくと、アモーレも貯まって良いのでは?」


「それは、そうなんだろうけど。でもなぁ」


「何を迷ってるんですか。明久さんのような人間が誰かに好かれるなんて奇跡、この期を逃せば、あと四、五十年はないに決まってます」


 逆に、そんなやつが四、五十年後に誰かに好かれるっていうのも不思議な話だが。


「俺が悩んでるのは……催眠術とか使ってるのは、アンフェアなんじゃないかってことだ」


「はい? アンフェアというと?」


「つまり、香芝さんとの関係が進展したのは、俺が話しかけたからだよな。でも、それって、失敗しても催眠術でなんとかできるっていう保険があったわけでさ。本来の俺自身の力では、こんなに人間関係が進展してないなって思って」


「なるほど。私には、よくわからない感覚ですけど……」


「ずるいことをしてるなって思うんだ」


「明久さんが、幸運だったというだけのことでは? 生まれつき顔の良い人、頭の良い人がいるのと同じでは。明久さんは、たまたま、私と出会って催眠能力を手に入れた。もちろん、その代価も並大抵のものではありません。地球を救うという大任を背負わされているわけですし」


 背負わせたのはお前だけどな……。


「俺さ……。今後、恋愛に催眠能力を使うのは、やめようと思うんだ」


「しかし、一向に恋愛関係が進展せず、アモーレが貯まらないというのは困りますけど」


「大丈夫だ。とりあえず、アモーレは恋愛以外で貯めることにするから」


「恋愛以外というと?」


「つまり、アモーレは月乃で貯めて、香芝さんとの関係は地球を救ったあとに、じっくり進めるってことだ。月乃は、どうせ俺のことなんか好きじゃないから、催眠能力を使っても問題ないだろ」


「まあ、世界を救ってくれるのであれば、なんでも良いですけど……」


「じゃ、そういうことで。今後、ちょっと香芝さんとの関係は小康状態を保って、その間にアモーレをバンバン稼ぐことにするわ」


「明久さんがそう決めたのであれば、それで良いですよ」とイプノスはうなずいていた。


「サンキューな」


「なんですか。藪から棒に。明久さんらしくないですね。熱でも出ているのでは?」


「お前が来てくれてから、人生が良い方向に進んでるからさ。礼を言っておこうかと」


「私は、力を貸したに過ぎません。動こうとしはじめたのは、明久さんの力です」


「それでも、ありがとう」


「やめてください。照れます」


「お前といると、毎日が楽しいよ」


「……私も、明久さんといると退屈しません」


「イプノスと話してるのも楽しいし、香芝さんと話せるのも、月乃と話せるようになったのも、楽しい。だから、そんな楽しさを守るためにも、さっさと巨大赤竜を倒して、世界を平和にしようって、そう思うんだ」


「そうですね。世界を頼みましたよ」


 そう言って、イプノスは微笑んだ。

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