第8話 もう処女は捨てた?

 俺はイプノスとともに、隣の家……西條家を訪れていた。

 西條家に来るのは久々のことだ。昔は、よくお互いの家で遊んだものだが……。


「なんですか? 緊張しているんですか?」


「してねえよ」


「それなら、さっさとインターホンを押せば良いじゃないですか」


「押すよ! いま押そうと思ってたところだよ!」


「押さないのであれば、私が押しますけど」と話をしていると玄関のドアがゆっくりと開いた。


「家の前で、何叫んでんの?」


 現れたのは月乃だった。いつものジャージ姿だった。


「こんなところで会うなんて、奇遇だな」


「いや、奇遇っていうか、ここ、わたしの家だし」


 それもそうだ。


「何か用? 香芝さんにラブレターを出して、振られたから慰めてほしい?」


「出してねえよ!」


「香芝さんの靴箱に明久の手紙が入ってたって情報、クラス中に流れてたよ」


「香芝の野郎……許さねえ……」


「香芝さんが言いふらしてたっていうか、ラブレターをもらったけど、どうしようって友達に相談して、それが広まっちゃったって感じだけどね」


「香芝の野郎……。許そう……」


「はいはい。それで、告白失敗したから、次の案を考えろって?」


「いや、そういうわけじゃなくてな。お前に話があるんだ」


「わたし? 香芝さんに振られたから、次はわたしって、ちょっと軽薄すぎない?」


「あ? 何勘違いしてんだよ。お前に、ちょっとききたいことがあるってだけだ」


「あ、そう。ききたいことって?」


 うーむ。勢いに任せてエロい展開になるかもしれない。

 さっさと催眠術をかけて、俺の部屋へ連れ込んでおくか。


「とりあえず、これを見てくれ」俺はそう言って、眠りの指輪を月乃に見せた。


「なにそれ」


 眠りの指輪に祈りを捧げると、いつものように宝石が紫色に光りはじめる。


「とりあえず、家までついてきてくれ」


 そういうわけで、自室へと月乃を連行することへ成功した。


 しかし、この能力、誘拐とかし放題だな……。


「自室へ連れ込むのは、それなりに親しい人間でなければ難しいと思いますけど。さきほどお伝えしたように、身の危険を感じると催眠状態が解除されますので」


 なるほど。月乃は幼なじみということもある。

 昔から、何度も家を行き来していたから、それほど抵抗がないのだろう。


 月乃を自室のベッドに座らせる。

 俺はリクライニングチェアに座って、月乃と対面するような格好となった。


「じゃあ、質問するけど……月乃、お前に彼氏がいるって本当か?」


「本当」と月乃は即答した。


「そっか……」


 ちょっとショックだった。いままでは、単なる噂話かもしれないと思っていたのだ。

 彼氏なんていないのに、見栄を張っているだけなのかもしれない、とか。


 さらに質問をつづけてみる。


「相手は? 大学生っていうのは本当か?」


「大学生じゃない。同じ高校生」


「いつからつきあってるんだ?」


「小学校に入る前から」


「なげえ!」


 驚きのあまり、うっかり大声を出してしまった。


「明久さん、幼なじみなのに、西條さんに恋人がいることに全然気づいてなかったんですね」


「全然気づいてねぇ……」


 中学生くらいまでは、月乃のことを幼なじみとして意識していたのは事実だ。一緒にいたら楽しかったし。しかし、小学校に入る前から男とつきあっていたとは、裏切られた気分だ。


「裏切るも何も、明久さんが大切なことに気づいていない、お間抜けさんなだけです」


 イプノスの言うことは事実だが、事実なだけに辛かった。


 それにしても、いったい月乃は誰とつきあっているのか。きいてみたいような、きくのが怖いような……。少し迷って、違う質問をした。


「彼氏とは仲が良いのか?」


「最近は、あんまり良くない」


「やったぜ!」


「人の不幸を喜びすぎですよ。明久さんの心の醜い部分が漏れまくってます」


 まったくもってその通りであった。


 俺は、改めてベッドの上に腰掛けている月乃を観察した。端整な顔立ち。全体的にすらりとして、細い肉体をしている。特に胸部が薄い。これは遺伝だろう。月乃の母も薄いからな。それでもやはり、幼い頃とは違う。大人になっている。美人になっている。もう、大人になってしまったのだろうか。俺の知らない間に……。


 かなり迷ったけれど、俺は月乃にきいてみることにした。


「……あのさ、月乃って、もう処女は捨てた?」


「まだ」


「彼氏とエッチしたことないのか?」


「ない」


 ……ちょっと安心した。いや、べつにだからといって俺のものになるわけでもないんだけど。


「彼氏とした、いままでで一番エロいことは?」


「一緒にお風呂に入ったことくらい」


「結構進んでるじゃん!」


 彼氏さん、月乃と一緒にお風呂に入っておいて、よく我慢できたな。


「キスは、したことあるのか?」


「ある」


 クソが! まあ、べつに月乃のことなんて好きじゃないけど。なんか悔しい。

 俺だってキスはしたことないから、先を越された、みたいな気分なんだろう。たぶん。断じて嫉妬などではない。それに、俺と月乃は小さな頃、遊びでキスをしたこともあるしな。小さい頃だから、俺のなかではノーカンだけど。


「そろそろ質問は良いでしょう。肉体的な接触を試みてはいかがですか?」


「……そうだな。やってみるか。彼氏さんには悪いけど。世界を救わないとだしな」


 俺は月乃の、とろけたような目をじっと見た。うーむ。改めてこうやって対面すると緊張するな。美人なのは間違いないし。


「あのさ、手、握っても良いか?」


「良い」と月乃は即答して、ゆっくりと右手を差し出した。


 俺は月乃の右手を、両手で包み込むように握る。小さな手だった。柔らかい。小さな頃は、よく手を繋いで遊びに出かけたものだった。学校への行き帰りも、ずっと一緒だった。

 その手の小ささに、月乃も女の子なんだな、と改めて実感させられた。


「なかなか良い感じにアモーレが貯まっています」


「そうか」


 じゃあ、彼氏さんには悪いけど、もっとアモーレを貯めてやろうじゃないか。


「……下着姿を、見せてくれ」


「わかった」


 月乃は無表情で上のジャージの裾をつかんだ。そして、ゆっくりとまくり上げていく。ジャージから首が抜けると同時に、長い髪がさらりと落ちる。着ていた白いインナーもつづけて脱いだ。そして現れたのは、白い肌と、黒いブラジャー。

 その慎ましい胸に必要なのかどうかは疑問だったが、これはこれで悪くないと言えた。

 次に、月乃はジャージのズボンも脱いだ。ベッドの上で少し腰を浮かして脱いでいく。

 焦らすような脱ぎ方ではない。さっと脱ぐ事務的な感じが、なかなかに良かった。

 履いていたのは黒いパンツだった。えっと、ショーツか? まあなんでも良いけど。

 白い肌と黒いショーツのコントラストが美しい。最高だった。


「いや、下着に感動しすぎでしょう……」とイプノスがひいていた。


「美しいものは美しい。芸術品を見て感動するのは、人として当たり前だ」


「そういうものですかねぇ……」


 天使には、この下着の良さがわからないようだった。可哀想な種族である。


 しばらく下着姿の月乃を観察した。子供の頃には、もっと可愛らしい下着だったように思う。大人になったんだな、と実感させられた。胸は薄いままだが。そして月乃のもっとも素晴らしい部分は臀部、つまり尻だった。なかなかに肉感的である。


「……尻とか、さわってもいいか?」俺はダメ元できいてみたのだが。


「良い」と即答されてしまった。

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