第7話 いや、常識的に考えろよ。おっぱい支え係っていうのは、授業中とかに香芝さんのおっぱいを支える役割のことだ。
香芝さんと別れたあと、俺は自宅に戻っていた。
制服についた汚れを手洗いで落としたあと、ようやく一息つけた。
ダイニングのテーブルでコーヒーを飲みながら、さきほどの出来事について考えていた。
「なぁ、さっきの話だけどさ。香芝さんの胸をさわったじゃん。あのとき、どうして催眠が解けたんだ? 頬を叩かれたのはなんでだ?」
「明久さんがしっかり私の説明をきかないからです」
「それはすまんかった」
「まあ、過ぎたことは仕方がありません。ちゃんと説明します。指輪により授けられた催眠能力ですけど、万能ではありません。催眠をかけた対象者と、明久さんの関係性が浅い場合には、対象者の判断力を鈍らせる程度の効果しかないのです。今回の場合、下着を見せるという点に関しては、ぎりぎり判断力を鈍らせて成功しましたが、さすがに肉体への接触は許されなかったようですね」
「ふーん。なるほどな」
「一般的な女性が相手であれば、脱衣をさせて下着を見るくらいは可能ですけど、それ以上の行為に及ぶのは難しいと思います。まあ、相手によりますけど。そういうわけで、催眠中に対象者が身体の危機や、許容以上の精神的な苦痛を覚えたとき、人間にもともと備わっている防衛機構が作動するわけですね。それが、あの平手打ちです。リミッターを解除した一撃ですから、よく効いたでしょう」
「まだいてえよ」
腫れてるし。家に帰ってきてから、氷で冷やしたからマシになったが……。
「平手打ちをされても明久さんが耐えていれば、催眠状態は継続されるんですけどね。あの一撃で精神状態が揺らいだため、催眠状態を維持できなかったというわけです」
「なるほどな。つまり、今後は平手打ちをされても耐えれば、やりたい放題ってわけか」
「うつけさんですね。あれ以上の行為を求めるのであれば、地道に好感度を稼いでいき、人間関係を進展させるしかありません。単純な性的接触では貯まるアモーレも大したことないので」
「そうなのか……」
てっきり、エロいことをすればアモーレってのが貯まると思ってたんだが。
「昨晩、イプノスに内緒で芽依に催眠をかけたんだよな。そのときにはおっぱいとか普通に揉めそうだったんだけど、あれはなんでだ? 香芝さんのときとは違うよな?」
「それは妹さんが明久さんを信頼しているからです。人間関係が香芝さんよりも良好なので、その程度の性的接触も許容されたということですね。というか妹に何をしてるんですか」
イプノスは若干引いているようだった。
「若干ではなくて、大いに引いてます」
大いに引いていらっしゃるようだった。
「つまり、現状では香芝さんを全裸で学校へ登校させるみたいな催眠は不可能なんだな?」
「無理に決まってるでしょうが! 鬼畜ですか! そんなことを考えていたんですね……」
またしても引かれているようだった。
「あとさ、催眠術の対象者ってひとりだけなのか?」
「その通りですけど」
「ふーん。だとすると、クラス全員を催眠状態にして、俺が香芝さんのおっぱい支え係を務める……みたいな夢も実現できないわけだな?」
「おっぱい支え係? 何を言っているんですか?」
「いや、常識的に考えろよ。おっぱい支え係っていうのは、授業中とかに香芝さんのおっぱいを支える役割のことだ」
「明久さんに常識を語る資格はありません!」
資格を剥奪されてしまった。
「お前は青少年の夢をまったく理解してないな……」
「夢というか悪夢です。おっぱい支え係なんてアホワード、宇宙でも例を見ない異常な発想です。やばすぎです。明久さんは宇宙一の変態かもしれません……」
「宇宙一か。照れるなぁ……」
「照れなくて良いです!」
ま、そういうわけで。
香芝さんに命令をしたければ、もっと人間関係を進展させなければならないわけだ。
「今後は、どれくらいまでの蛮行なら平手を受けずに済むか、ぎりぎりのラインを見極めて攻める必要があるわけだな」
「いえ、普通に対象者に質問すれば良いだけですよ。こういうことをしたいんだけど、良いか、と尋ねれば、平手を打たれるか否かの判断ができます」
「だから、そういうことは先に言ってくれよ!」
「だから、明久さんが私の説明をきかずに先走ったんですよ!」
まあ、イプノスの言う通りである。そういうわけで、催眠術についての情報を得られたわけだ。今度こそはうまくやってやるぜ。
「催眠術だけど、他のやつに使ってみても良いか?」
「ええ、もちろん良いですけど。明久さん、他に好きな女性がいらっしゃるのですか?」
「好きとかじゃないけどな。ちょっと、きいてみたいことがあるっていうか……」
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