ボイスレコーダー78

ボイスレコーダー78 第一事件発生時

「あ、あーー。ボイスレコーダー78記録開始。

 この記録が開始されたという事はいつも通り白野の身近で事件が起こったという事だ。

 いつになったらこんな地獄の様な記録を取らないで済むんだろうな・・・・・・

 まあいい、今回の白野が会った件は首吊りらしい、と言っても自殺ではない、明言できる。これは殺人だ。

 何の因果かな、俺が白野を仕掛けた初日にこんな事が起きてたとは・・・・・・・

 俺的にはもっと遅くに事件が起きてくれればこっちも心の準備が出来たというのに神様ってのは意地悪にも程があるんじゃないのか?

 被害者の身元を調べたところどこにでもいるOLでこれと言って恨まれる事も無ければ誰かにストーカー行為をされているわけでもないときた。

 今までの欲望を直に振りかざすといった点では今回の件は初めてのケースだ。ここに来て容疑者Xは容疑者に対しての手法を変えたと見るべきだろうな・・・・・・

 兎のマスクに【猫より無作為の愛をこめて】か、気色悪い事してくれる。

 今回の事件はその言葉通り無差別殺人だろう、兎に猫・・・・・・干支か?それとも他の何かか・・・・・・

干支なら最大で十二人か?

 兎なのは単純にマスクが無かったからと考えられる。

 現在マンションの全てのフロアの住人について調べているんだが奇妙な奴がいる、それとこっちの近辺の監視カメラでもだ。

 これは・・・・・・タクシーか?

 だとしたら益々きな臭い。」

                 停止

                 開始

「君嶋 尚哉、職業タクシー運転手、家族構成は両親とこいつの三人、これは関係ないな、だとしたら・・・・・・これだ!

 最近強姦事件で色々あったらしく現在は自宅で裁判日待ち、警察が見回りで巡回しているようだが・・・・・・被害者が死亡した日に行方をくらましている。

 そういうことか、しくった!俺のせいだ。霧縫さんに依頼を放り投げっぱなしにしていたツケが回ってきたって訳か・・・・・・

 いや、まだ早い、タクシーの方の線を消すまでは断言できない。今からここ一体のエリアでタクシーの出入りが頻繫なのを調べるか・・・・・・」

                停止

                再開  

「やっと出てきた。飯塚 公明。最近はこいつが頻繫に此処の近くで客を拾ってる。同じ会社のタクシー運転手に聞いてみたがどうやらこいつと君嶋は仲がいいらしい、そんでちょくちょく心配で君嶋に会いに行っているらしい、それにしても犯罪者に肩入れとはどこか引っ掛かるな、どうせ時間がかかるからこちらも調べておくとしよう。

 そう言えば白野と数日ぶりに会って三年ぶりに外食をしたな。

 彼奴は変わらないな、他人ばっかり気にして自分の事は本当に叶えたい事以外はどうでもいい。そんな顔をいつもしているよ・・・・・・どれだけ時間が経っても爪痕は心に刻まれたままだって事なんだろうな、事件が起こる度に死んでいく。

 被害者の死体の様にまるでやり切れないでそこまでたどり着いてしまったといった顔で俺を見つめてくる。

 もっと早くに気が付いていれば良かったんだがな、俺はどうやら親としては不出来だったらしい、仕事に明け暮れて距離を作っては白野を真に見ようともしなかった。

 どれだけ弁解する時間があっても俺は白野に説得は試み無いんだろうな、全て白野為だって自分だけが知ってれば良いんだからってな・・・・・・

 俺もここまで来てしまったんだ。容疑者X確保の為、手段を選んではいられないよな。」

                  停止

                  再開 

「君嶋について進捗だ。こりゃ吐き気がするほど最悪な事になってんな、どうしたらこんな酷いことにまで縺れ込んじまうんだよ・・・・・・

 強姦事件の被害者はいかにもヤバい組の男と付き合ってる女で、今回で強姦事件三件目だ。前二件は男性が泥酔した勢いでという如何にもアウトラインだが、反転してみれば女性の方は酔っていなかった訳だ。

 クラブから逃げるなり、警察を呼ぶなりできた状況でありながら何故自分から危ない橋を渡ろうとする、そして最新の君嶋の事件だがこれに至ってはあまりにも胸糞すぎるぞ。

 何でドライブレコーダーを置いていない!どうして監視カメラを設置していない!市長は何をしている、能天気すぎる上に会社は社員を金づるとしか思っていないのか?!時代錯誤も甚だしい。

 全ての不幸が奇跡的に重なってできたこの最悪なシナリオはあまりにも酷すぎる、読んでいるこっちが怒りでどうにかなりそうだぞ・・・・・・・

 そしてこの精神的に弱った状態の君嶋に容疑者Xは接触した。

 何がどうしてか分からないが容疑者Xの接触により君嶋は恨みを他者である女性に向けて絞殺した。

 だが容疑者Xの素性は未だに不明のままだ。

 ある程度絞れては居るんだが手詰まり感が否めない。

 容疑者Xはどうやって君嶋に接触した?

 どうやって君嶋を狂気の殺人犯に仕立て上げた?

 分からない、まるで魔法でも使って洗脳でもしているんじゃないかと思えてくる・・・・・・

 まあこれで絞殺事件は君嶋と容疑者Xの二人によるものだと決定付けて良いものになった。

 飯塚に関しては君嶋のメンタルケアに勤めていたんだろうが気の毒にな。

 さあて、ではここで事件を閉じるとしよう・・・・・・

 とはいかないんだよな・・・・・・

 事件はこのまま野放しにする。

 そして警察のこの件に関する調査を遅らせる。

 何をとち狂ったかって思うが今回俺はこうしなければならないんだよ。

 どれだけ批判を浴びても今回の事件は僕や警察からは幕を下ろさせない。

 下ろすのは白野だ。

 あいつが下ろさなければ俺は容疑者Xに近づけない。

 確信は無い、だが以前の仕掛けが上手く白野の止まった歯車を回す機能をもたせることが出来たのなら確実に彼奴は容疑者Xに近づくための手がかりを掴んでこの事件の幕を下ろすだろう。

 俺は正直言って探偵は前の事件でやめようと思っていたんだ。

 どれだけ事件を解決しようが白野はこれからも事件と共に生きていく、どれだけ止めても意味が無いんだよ、ならこうすることで容疑者Xの手がかりを掴むしかない。

 どれだけ薄汚れたって構わない、俺は今、この瞬間を白野の安寧の為に使いきると決めたんだ。

 彼奴の心が死ぬくらいなら俺の命を代償にして生かす方を選ぶ。

 みーちゃんには申し訳ないとは思っているが俺が白野に為にやれることなんてこれぐらいしかないんだよ。

 誕生日を祝う事もせず、どこかへ連れていくわけでもなく、ただ自宅という檻に閉じ込めていた白野に返せるものなんてこれだけだ。

 水瀬さんの件でも俺は何もできずにただ阿保みたいに事件追っかけた。

 そんなクソ野郎の末路としては上出来だろ?

 だから、俺は今回の事件は見逃す。

 何があろうともだ」

                 停止

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