【最終章 始まりを迎える為の反抗 】05

 後日譚。

 僕らはそれぞれが気を入れ替える為に学校を一日休み、以前通りの様に神野と霧縫さんと僕は特にやることはないが放課後、部室に揃って居た。

「あれから事件はどうなったんだ?」

 神野は顔面を円卓にくっつけてやる気無さげに僕に聞いてきた。

「母さんからちょっとは聞けたけど容疑者の君嶋は今留置所で身柄を拘束状態らしい、他には昨日飯塚さんに会ってきて少し話したくらいだよ」

 病院に搬送された飯塚さんのお見舞いついでに僕は事の顛末について飯塚さんに話してきていた。

 これといって飯塚さんは表情を変えずに僕の話を淡々と聞いてから少し悔しそうに

『そうだったのか・・・・・・その事を聞く限り俺じゃあ彼奴は絶対に止められなかったと思う・・・・・・本当に有難う、彼を助けてくれて』

 僕にそう言ってきただけで、他の事は何も口にしなかった。

 一番近くで君嶋を見てきた彼だから分かるんだろ、その辛すぎる悲劇ともいえる君嶋の人生を前にして飯塚さんは感情移入してしまって彼を止めることが出来なかっただろうから――

「そうか、まあ一件落着と言えば一件落着だな」

「まあね――」

 言葉が弾まない、どこか意気阻喪とした雰囲気がこの部室内を充満して何か気の利いた言葉を口にしようにも何も出てこない。

 あまりにも今回事件は心に深い傷痕を残すものであったんだと再認識する。

「よし!今日はうちで気分転換にパーティーでもするか」

 勢い良く立ち上がり、両手で大きな音を鳴らしたと思えばやはり神野らしいその場にそぐわない事を言い出した。

「急だな」

「あぁ急だとも、人間行き当たりばったりぐらいが生きやすいしな」

 気が乗らない、今日はこのまま帰路について寝ようかと思っているのだが――

「そうですね、パーティーしましょうか」

 あぁ、駄目だ。こりゃもう逃げ道が無い・・・・・・

 霧縫さんの少し間を置いてから発せられたその言葉を聞き、僕の答えは強制的に決まってしまったようなものだった。

「分かった。そうしよう」

 母さんに一応メールをしてから僕は神野宅へ向かう事になった。

「どうぞどうぞ、勝手に入っちってえ、リビングで適当に腰かけなさいな」

 僕らは来る途中にスーパーで色々と買ってから神野宅にお邪魔した。

「うわきたな!しっかり靴揃えろよ」

 全部神野のだろうか同じサイズの靴が玄関に五足程あり、その全てがバラバラに散らばっていた。

「うっさいな、僕の家なんだから僕の勝手だろ~」

 先に上がった神野がリビングからこちらを覗きながら子供のようにそう言ってきた。

「まあいいか、霧縫さんこれ持って行ってもらってもいいかな?」

「はい」

 手に持っていたスーパーで買った色々なのが詰め込まれたビニール袋を霧縫さんに渡してから先に上がってもらい、続いて僕も上がってから神野の靴を靴棚に入れていき、二足だけ玄関に出して整えた。

「なんだ大城、お前僕のお母さんかよ」

「誰がお前のお母さんなんかなるかよ、こっちから願い下げだ」

 どうやら片付ける分には何も言わないたちらしくそう言ってから「早くパーティーの用意しようぜ」と軽く声を掛けてきた。

 リビングは一軒家にしては広い方で洋風なインテリアが基調とされる内装の神野の和的な容姿とは正反対の様な部屋であった。

 リビングと繋がっているキッチンの方へ歩み、食材とかその他諸々をキッチン前方にあるダイニングテーブルに広げてから何を作るか考える。

「それで、これからどうするか?」

 何となく買った食材ばかりで調理することまでは考えていなかった訳だが――

「なら料理勝負だな、全員一品ずつ作ってそれぞれうまいかどうか勝負しよう」

 と言う神野の提案を受け入れる事となった。

 じゃんけんの結果。

 霧縫さん、神野、僕

 の順番で調理する事になった。

「よし!じゃあ私からで」

 腕をまくり水道で手を洗ってから食材を適当に取ってキッチンで調理を始めた。

「じゃあ作り終わったら言ってくれ」

 どこかヒモ男くさい言葉を口にしてから神野はリビングにあるソファーに腰掛けてテレビを点けた。

【ガバガバ探偵アリスちゃん】

 何なんだそのテレビアニメは?!

「何を見てるんだ神野」

「うん?これか?前に録画しておいたガバアリだが?」

 普通だろ?と言った感じでこちらをちょいと見てから視線をテレビに向ける。

「そうか――」

 神野がハマってるアニメなんだろうか?

 ダイニングテーブルに付いている椅子に座って僕もそのアニメを見始めた。

『いっけない遅刻しちゃう!急がないと!』

 冒頭アリスちゃんらしき子がこれまた古臭い感じのパンを口に遅刻しまいと走ってり、丁字路に差し掛かって死角になっていた右側から男性が走ってきてアリスちゃんにぶつかった。 

「うわ、いつのアニメだよ――え?」

『うっわー!ごめんなさい!今急いでるので~~!』

 なんか変なSEと共にアリスちゃんが先程まで銜えていたパンが消えている・・・・・・

 それからは日常パートが挟まり帰宅するアリスちゃんだが――

『なになに?うっわ死体やん』

 いや、ガン引きじゃねえか、もっとキャラ大事にしろよ――

『あわわ!パ、パンが腹部に刺さって死んでいるわ!』

 キャラ戻ったと思ったら急展開に加えてそれ絶対お前のせいじゃん!

 なんだこのストーリーのガバガバぐわい、もしかしてガバガバ探偵のガバガバってこれから来てるんじゃ――

『犯人はお隣さんの古田さんよ!理由は今日パンを食べていたから!』

 流石にここまでくるとこのアニメの制作陣の脳内を疑うぞ・・・・・・

 物語は何故か古田さんの自白によって幕を閉じた。

「いやはや、傑作だね」

「どこが?!」

「出来ました」

 十五分のアニメを見終わると同時に霧縫さんの料理も終わったみたいでダイニングテーブルに出来た品を置いた。

 霧縫さんが作ったのはふわふわのオムライス。

「うわ、うまそう」

「これだけじゃないですよ!」

 洋風料理店でよく見る最後に料理人がチキンライスの上にのったとろとろの卵焼きを割る感じのものを霧縫さんは作り上げ、神野と僕の前で二つに割って見せた。

「夜靄は相変わらず綺麗なの作るよな――おっしゃ!次僕!」

 入れ替わって厨房には神野が入って霧縫さんは先程まで神野が座っていたソファーに腰掛けてガバガバ探偵アリスちゃんを見始めた。

 なにこれ?ガバガバ探偵ってそんなに人気なの?

 自身が可笑しいだけなのか将又こいつらが可笑しいのか・・・・・・

 またも頭が痛くなるような内容だったガバガバ探偵が終わると共に神野の調理が終わった。

「どうだい!僕は麻婆豆腐だよ!」

 皿に盛り付けられた赤々しい麻婆豆腐は見ているだけで汗が出てくる程に本格的なものだった。

「私が洋風得意でせきちゃんは中華が得意」

 先程までソファーに居た霧縫さんが近寄ってきてそう説明する。

 ならばここは――

「次は僕だ!」

 和食でいくべき!

 二人してガバガバ探偵を仲良く談笑しながら見る後ろで僕は黙々ととある品を作り上げていた。

 最後という事で素材は少なかったがそれでも作れるもの。

 出来上がると共にガバガバ探偵が終わり、二人がダイニングテーブルの席に着く。

 すかさず僕は自信作を二人の手元へ持って行く。

「「うわ、これは――」」

「どうだ?」

 僕なんかやっちゃいました?系の実力を――

「「食べ物なのか?」」

 うん分かってた。豚汁を作ったはずなんだけどどう見ても黒い塊、ガンツの球体みたいな固形物質が御椀の中に入っている。

 昔から料理だけは駄目なんだ。そんなの分かっていたさ!今までだって僕お弁当作れますアピールを続けてきたわけだが作れないんですごめんなさい!

「ま、まあ、料理は困難だけど人間料理で決まる程阿保じゃねえから元気出せよ」

 やめて!そんな甘い言葉で惑わせないで!

「僕なんか料理もできない不幸物質ですよ」

 気落ちする僕を二人は何とか励ましてくれながら一緒にガバガバ探偵でも見て気分を紛らわそうという事になった。

 何故だろう、このアニメを見ている時だけは自身が才覚ある者に思えてくる、今度僕もスマホで全話見てみようかな――

 料理も終わり後片付けを済ませてから僕らは三人そろってだら~と伸びていた。

「さて、これからどうする?」

 気力なく聞いてくる神野に霧縫さんは

「そう言えばテスト勉強で分かんないところがあるから聞きたかったんだ――」

 ん?

「なあ二人とも、テストっていつだっけ?」

「「明日」」

 うん、これは・・・・・・ヤバい‼

「二人にお願いしたい、いや神野!お願いだ!僕にテスト範囲の勉強を何卒教えてもらえませんでしょうか!」

 深々と頭を下げて二人に土下座をして頼み込む。

 事件にばっかり脳のリソース割いていてまったく勉強が頭に入ってない上に転校してまだ一週間も経ってない。圧倒的赤点ラインの崖に僕は立っている!何とかしてこの危機を打破せねば!

「どうするの?」

 霧縫さんの問いに少し考え込んでから

「まあ大城には仮もあるし教えてやるか、今日は一日勉強漬けだ。泊っていけ、夜靄はどうする?」

「私も泊っていく!――けど塾あるから途中で抜けるけど戻って来るから」

「おわわわ、二人とも有難うございます!」

 本当に仲間と言うのは大切だと認識する日であった。


 息苦しかった引越し当日からのおかしな事件の毎日を送っていた僕にとっては今この時間が途轍もなく手放しがたい大切な宝物の様に思える。

 苦労もする、壁にだってぶち当たる時が来たり、霧の様に行く手を阻まれる事だってあるだろう。

 それでも僕は歩みを止めないだろう、どんな逆境も無理難題だってもしかしたら僕らなら乗り越えられるかもしれないから。


 だけれどこれは僕ら三人の途方もない非日常奇譚の幕開けに過ぎないのである。

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