【最終章 始まりを迎える為の反抗 】03
「さて、何も考えずに出てきてしまったが・・・・・・どうするか・・・・・・」
着いて早々霧縫さんの声に神社に駆けたのだがその先の事を全く考えていなかった僕であるが――
「神野は何か策あるか?」
何となく振ってみるが――
「あるわけないだろ、僕を誰だと思っているんだ」
「自称神様」
「馬鹿野郎!」
「なんだよ彼奴ら、なんなんだよ!どいつもこいつも邪魔ばかりしやがって!」
僕らの姿にボロボロの顔の君嶋らしき男が憤怒し、今にも霧縫さんを殺しにかかりそうな勢いだ。
「十秒だ」
「え?」
「僕が十秒稼ぐからその間にどうにかしろ!」
「どうにかしろって言われてもねえ――」
ここから本殿までは五十メートルちょい、いけるか?行くしかないか――
「三秒後に思いっ切り走れ」
「おう」
【3】
無理難題に近いがこれを逃せば後は悪い方向に転がり続けるだけだ。
【2】
だったら神野が作る十秒で決めるしかないよな
【1】
待ってろ霧縫!
「行け!」
神野の言葉と同時に前傾姿勢で本殿へ思いっ切り駆けだす。
【君嶋、お前の欲望を解放させた奴はいったいどんな容姿をしていた!】
後ろから神野が怒鳴る様にそう口にする。
するとまるでゴルゴーンの目を見て石になったかの様に君嶋は固まり、口を開いて答えた。
「少女だ。高校生くらいの少女・・・・・・」
次の瞬間、君嶋はハッと自身の行動の不可解さに唖然としていた。
まるで自身の意思とは別に強制的に答えさせられたと言った感じの様子。
「十秒もたねえじゃねえか!」
その間七秒。
僕と本殿にいる二人との距離は数歩の位置。
「なんだよ!お前ら本当になんなんだよ!」
「んんんん!」
混乱した君嶋は勢い良く手に持っていた縄を引っ張って霧縫さんを宙に浮かせる。
やるしかない!
「僕たちはただのミステリー研究部だよ!」
後ろポケットに隠し持っていた秘密兵器を取り出して階段を本殿へ続く階段を駆け上がり君嶋の首元に向かって秘密兵器を突き出す。
「自分の意志で行動できないんだったら大人しく寝てろ!」
スイッチに触れ勢い良くバチバチと高電圧の電流が君嶋の首元に放たれる。
電流は君嶋の体内を巡り、一瞬にして白目を向いて気絶してしまった。
過保護な母さんから十歳の時に貰ったくだらないものがここで使えるとは――
急激な運動と蓄積していた疲労がピークを迎えてスタンガンを手放してその場に崩れ落ちてしまう。
「だっせえな、やっぱ」
「大城大丈夫か!夜靄も!」
後から追いかけてきた神野は倒れている霧縫さんの手と足を縛っている縄をほどいて猫マスクを外してからこちらに視線を向ける。
「こっちは大丈夫だ。でも――」
僕らは此処に来るのが遅すぎたんだ。
霧縫さんは助けられたがたったそれだけなんだ。
吊るされる神主らしき人を見て悔しさが滲み出てくる。
「もっと早ければ――」
崩れ落ちた身体を起こして君嶋の手と足を霧縫を縛っていた縄で縛る。
「これでよしと・・・・・・後は警察の仕事だ」
「一旦場所を変えよう、夜靄も立てるか?」
「うん」
僕らは一旦本殿を出て鳥居の前の階段に座ることにした。
まるで先程まで起きた事から意識を背ける様に僕らは神社から背を向けている。
「なんか疲れたな――」
気を紛らわす為に吐いた言葉だったがうまい事は言えない様だ。
「ごめんなさい・・・・・・私のせいで・・・・・・ごめんなさい」
俯き自傷の言葉を吐きながらすすり泣く霧縫さんの姿を見て昔を思い出した。
最初の数件は自傷に狩られて塞ぎがちになって生きていることすら気持ち悪かった昔の事をただ思い出していた。
今の霧縫さんを見ていると昔の自分を思い出して気持ち悪い。
「なあ霧縫さん、どれだけ泣いたら気が晴れるんだろうな――どこまで自傷したら死人は許してくれるんだろうな」
「大城!そんな言い方はないんじゃないか」
神野の注意を聞きながらも僕は言い続けた。
「昔な、一人の警官に言われたことがあるんだ。自傷に浸る時間があるなら死んだ人の分まで人を助けろって、それが無理なら忘れちまえって、無茶でも無理でもこの二択しか死者をだした原因の者は償えないんだからって」
誰かを必死になって助ける事が一つの償いの仕方で、忘れる事で自分の人生を謳歌し、何事もなかった様に死を迎えることがもう一つの償い方だと警官は言っていた。
「どうせ死んだ者を生き返らせるなんて出来ないんだからこれしか償いという自己満足は満たせないってね」
今までの僕は忘れて生きる選択をしていたがどうやら僕の選択肢はもとから一本道でしかなかったみたいだ。
「なあお前はどうするんだ?霧縫?」
青く光る月が僕らを照らし、虫の鳴き声と少女の泣き声だけが耳に届く夜。
「私は・・・・・・助けたい――どれだけ時間が掛かってでもいいから・・・・・・助けたい」
途切れ途切れだが自分の意志で導き出した答え。
「なら頑張らないとな、僕はもう返せる域を超えた不可能な道のりだけどお前はまだ間に合うんだから」
足元にしがみついてくる死者の亡霊を、いつの間にか動けなくなって心を閉ざして忘れようとしていた僕とは違って霧縫さんは強い人だからどうにかなるだろうな――
「なあにしみったれた事言ってんだ!このちびっ子!」
「痛っ!人がカッコつけてるのにそりゃないだろ!後ちび言うな、平均よりちょっと下なだけだ!」
「ばあか!どっちにしろちびっ子じゃねえか!僕と三センチしか違わねえくせに!お前は少しは気の利いた一発芸でもして場を沸かせる努力でもしろや!」
「沸くどころか炎上するわ!今の立場分かる?!」
なんていつも通りにその場にそぐわない馬鹿みたいな口論を神野としていると横からクスクスと笑い声が聞こえてきた。
「二人とも――ありがとうね」
「「お、おう・・・・・・・」」
なんだろうか、今の言葉に表せないこの感情は・・・・・・
まあ霧縫さんが前を向く決心ができたならこれはこれで良いかな――
「そう言えば神野、お前さっき何やったんだよ、急に君嶋が固まったけど――」
先程の光景は異常のでしかなかった。それは誰が見てもそう思うだろう。
「まぁ、欲望さんに洗脳された人にしか使えない必殺技かな」
「必殺技?」
「そう必殺技、僕が質問すれば強制的に答えてしまう必殺技」
「もしかしてそれを使って欲望さんを見つけ出すって算段だったのか?」
「そうだよ、まあ情報は少ないけれどしっかりと手に入れたしね」
君嶋の口から答えられた言葉。
高校生くらいの少女。
あまりにも大雑把な答えだが確実に欲望さんに近づいた答え。
「こんな事、早く終わらせないとな」
それから僕らは警察が来るまで何をしゃべる事もなく、各々心の中で今回の一件について黙考していた。
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