非日常奇譚/絞殺欲求・十二支編

【第一章 志向と異常】03

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　ピロリン！

　ん？なんだ？って！

「ヤバいっ！寝過ごした！」

　転校二日目の朝から寝坊はさすがにマズイ！

　スマホの通知音で目を覚ました僕は画面の時刻を確認すると昨日の家を出た時刻と同じ時刻を指していた。

「鞄！って中身出したまんまだ」

　制服を着たまま寝てしまったので後は鞄の中に床と机に散らばっている教科書とノートを手当たり次第に放り込んで家を後にした。

「ここから学校まで二十分、急げば間に合うか？」

　エレベーターに乗り、一階のボタンを押して閉めるのと同時に男性が「すみません！」と締まるドアに挟まりながらも強引に中に入ってきた。

「すみません」

　ともう一度僕に向いて謝ると前を向いて腕時計で時間を確認していた。

　みそぼらしい格好をした男性はどこか落ち着きがない様子だった。

　一階に着き、エレベーターのドアが開くとすぐにどこかへ行ってしまった。

「僕も急がないと、って！僕の自転車壊れてるんだった！――くそ、しょうがないな！」

　鍵が刺さったままの母さんのママチャリにまたがり鞄を籠に放り込んで勢いよく駐輪場を抜け学校へ向かった。

「づいだあ！」

　時刻は予鈴二分前。

　教室に着いた僕は汗だくの状態で自分の席に座った。

「うわ・・・・・・どうしたの？」

　横でひき気味にこちらを見る霧縫さんの姿があった。

　良かった。学校休まずにきたんだ。

「まあ、僕ともなると勉強の前に運動を――」

「どうせ寝坊でしょ、予鈴も鳴ってるし」

「ぐっ！」

　僕が即興で作り上げだ話を聞かずに霧縫さんは言い当ててきた。

「転校二日目で寝坊はさすがにね～～って！制服しわしわじゃない！大城君あの後すぐ寝ちゃったんでしょ、最悪ね」

「辛辣すぎるご意見どうもありがとうございます貧乏お嬢様」

「びん！お嬢様って言うな！」

「貧乏は認めると？」

　霧縫さんのありがたいお言葉のお返しにからかってみると顔を赤くしながら「馬鹿っ！」と言って窓側に顔を向けしまった。

　からかいすぎたかな

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「霧縫さん、ここって！購買部どこだっけ？」

　五時限目の授業を終え、昼休みに入ったので霧縫さんにそう聞いてみると

「さあね」

　・・・・・・まだすねていらっしゃる。

「はいはい悪うござんした。ジュース奢るから機嫌治せよ、そして購買部の場所を教えてくれ」

　僕の言葉で霧縫さんはこちらを振り向き

「げるグレープね、行くわよ」

「げる？何て？」

　と言って鞄から小さな風呂敷に包まれた弁当箱を取り出して教室を出ていき、僕はそれについて行った。

「本当、無駄に広いよなこの学校」

　何となくそう呟くと

「普通科と特進科を合わせても一学年十二クラスあるからね」

　そんなにクラスがあるのか・・・・・・

　ここに転校するの選んだの僕だけどそこら辺の事は全然気にしてなかったな。

「そして購買部と食堂は管理棟の一階にあるの、昨日行った旧校舎は管理棟とから少し離れた位置にあるから覚えておくように」

「なんかややこしいな」

「まあね、けどすぐになれるわよ、そう言えば先生に提出する資料とかは大丈夫なの？昨日は普通に帰っちゃったし」

「あぁ資料だったら休み時間に提出したりしてたから大丈夫だよ」

「・・・・・・大城君管理棟来た事あるなら購買部の場所ぐらい把握しなさいよ・・・・・・」

　ごもっともすぎて返す言葉がありません！

「着いた。ここよ」

　渡り廊下を出て管理棟一階に位置する場所には一階から上に続く螺旋階段が左前にあり、その奥に購買部、右奥に食堂と書かれた看板が置いてあった。

「早く買わないとパン売り切れるわよ」

　霧縫さんの言葉で僕は超過密地帯の購買部に突っこんでいく――が、押し出されてしまった。

「うちの食堂値段が少し高いからいつもお昼は購買部に大量の人が押し寄せてくるのよね」

　人の群れを眺めながら僕に向かって遅い忠告の様なものを言ってきた。

「そんな事情があるなら先に言ってくれよ・・・・・・大人しく僕は食堂にしておくよ」

「そう、じゃあ中に入りましょう」

　僕らは反対側にある食堂に入っていった。が

「こっちもあんまり変わんないじゃねえか！」

　食堂の大量にある席がほぼ全て満席状態にあった。

「購買部で買ったパンを食堂で食べるのが基本なのよね」

「いや可笑しいでしょ！」

「あ！空席見っけ！先に座ってるから大城君は自販機でげるグレープ買ってきてね」

「だからげるグレープってなんだよ！」

　霧縫さんは答えずに空席の場所に駆けて行った。

「ったく」

　一律700円と本当に学食としては高い値段が表示されている券売機でソースカツ丼を選択してポケットから千円を取り出して券売機に入れた。

　券を取り出してから小銭を取り、端に置かれている自販機で霧縫さんが言っていたげるグレープなるものを探すと

　《今までにない新食感‼ゲル状になって貴方に濃厚な幸せをお届け‼》

　　　　　　　　　　　　　げるグレープ

　と書かれたペットボトル飲料が右上にあった。

「本当にあった・・・・・・二百円てこれまた高い！」

　横にはげるパインもあったので僕は財布から百円を取り出して自販機に四百円入れてげるグレープとげるパインを買った。

「はいよ」

　食券と交換したソースカツ丼が乗ったお盆にげる兄弟をのっけて霧縫さんの居る場所に向かい、二人席の机にお盆を置いた。

「おぉ！げるグレープ！」

　さっと僕のお盆からげるグレープを取るとキャップを捻り開けてギュッとペットボトルを押しながら飲んでいた。というか食べていた。

「美味い！」

　ペットボトルを見るが少ししか食べれていなかった。

「本当にペットボトル飲料なんだよなこれ？！」

「何を馬鹿なこと言ってるんだよ、どう見たってペットボトル飲料――」

「ではないよな！この固形物！」

　僕も気になってげるパインを開けて飲もうとするが出てこず、霧縫さんの様にペットボトルを押しながらにゅるっと出てくる弾力のある物体を噛んで飲み込んだ。

「げるシリーズは長時間煮詰めて濃厚にしてできた商品だからね、このぐらいのゲルになっちゃうのさ」

「なっちゃうのさじゃないだろ・・・・・・」

　ついていけん。

　僕は箸を持ち目の前あるソースカツ丼を食べることにした。

「美味い！なんだこれ？！普通のカツ丼じゃないみたいだ」

　カツから滴り落ちそうな程の肉汁や上に掛けられた上品なソースとの神秘的な黄金比のカツ丼に心打たれていると

「すきあり！う～～ん！やっぱここのカツ美味いわ～」

「おまっ！」

　自分の弁当箱があるというのに僕の一時の至福を邪魔するとは――

「等価交換だ。そっちもおかずをよこせ」

「えぇ～」

　なんだその軽蔑した目は！僕が悪いのか！そうなのか？！

　霧縫さんは渋々弁当箱から厚焼き玉子を取り出して丼にのっけた。

「これでいいかい」

　等価ではないがまあいいか

　霧縫さんからもらった厚焼き玉子を食べてみるとこれまた以外「美味しい」。

　何故だかここまで美味しい、美味しい言っていると自分が貧乏舌なんじゃないかと思ってしまうが美味しいものは美味しいんだから仕方ない。

　ソースカツ丼を平らげてげるパインも何とか飲み干すと僕は霧縫さんに聞いた。

「霧縫さん、昨日の事なんだけど――」

　すると霧縫さんは表情を変えて

「場所を変えましょう」

　と言った。

数分後

「ここならいいでしょ」

　僕と霧縫さんは食堂を後にしてミステリー研究部の部室に居た。

「それで、昨日の事って？」

　霧縫さんは僕にそう問いかけてきた。

「昨日のあの件、霧縫さんはどうするつもりなのかなと思って」

　昨日霧縫さんと別れてから霧縫さんがやけにあっさりとしていたから何か裏があるんじゃないかと踏んで聞いてみたが

「犯人を捜す」　

　　そういうことか―――

「それはあまりに危険だ。それにあれは自殺だった可能性だってあるはずだ」

「大城君も見たわよねあの光景を、兎のマスクにホワイトボードって自殺でありえるかしら？」

「分からない――けど、もしこれが殺人事件だったなら警察の領分だ。僕らは手を出さない方が良い」

「何でよ、私たちが発見してしまったのだから私たちで解決したほうが――」

「馬鹿を言うな！」

　霧縫さんの言葉についかッとなってしまい壁を叩いてしまった。

「――ごめん、だけどこれは警察の役割なんだ。僕らに出来る事なんてないんだよ、僕らは探偵でもなければ警官でもない、ただの一般人なんだよ・・・・・・」

　無力で何も出来ない子供でしかないんだ。今も昔も、そしてこれからも――

「さーて、それはどうかな？大城。お前は実はただの一般人ではないのかもしれないよ？」

「え？――いつから」

　円卓の奥でニヤニヤと不気味な笑みを浮かべながら神野はこちらに向かってそう言った。

「まあいいや、二人とも放課後、テスト期間だけど部活ね」

　そう言って神野は僕らの横を通って外へ出ていった。

　嵐が過ぎ去った後の様な静けさのなか僕と霧縫さんは何とも言えない感じになり話を切り上げて教室へ戻った。