【始まり始まり】08
◆◆◆
「キキッ!本当に空の人形だなお前は」
帰宅途中、丁度あの事件現場の公園に差し掛かった瞬間、公園から今日よく聞いた声が聞こえてきた。
「空っぽの人形と言っているんだよ」
ブレーキをかけ恐る恐る声のした方向に顔を向ける。
「霧縫――?!」
黒髪のポニーテールにツリ目、ボーイッシュな顔立ちの痩せ気味の体型で黒のワンピース。今日見た霧縫さんで、昨日の見た人殺しの姿だった。
「こんにちは、大城君」
声色を低くしているがこの声、名前を知っているという事は霧縫さん。
そして手に持つ包丁で全てを察した。
【逃げろ】
前傾姿勢をとり勢いよく前にペダルを急速回転させてその場を後にしようとするが、そうさせてくれる訳もなく
「キキッ!大城君ったら、話ぐらい聞いてくれよ!」
そう考えていた時にはもう、自転車の後ろのタイヤはパンクしていた。
「いつのまに」
視界に入ってから霧縫さんは一度たりともそこを動いていない、なのにタイヤがパンクしていた。
「君は人に思考を頼り過ぎだ。警察官の母に探偵の父だというのに親譲りな才能が一個もないとは親もさぞ後悔し、呆れているだろう」
「何で父さん達の事を――」
僕は一度も霧縫さんに言っていない筈だ。言ったとすれば自営業と言ったくらいで明言したわけではない。
「少しは自分の頭で考えてみろよ、さっき父親と会っていたんだろ?」
こめかみをポンポンと人差し指で叩いて霧縫さんは言ってきた。
・・・・・・
「―――Fog社」
「お!及第点だがあたりと言っておこう、そう私はFog社の取締役社長の一人娘、その地位を濫用して得た情報さ」
「そんな事して良いと思ってんのかよ!」
僕の言葉に嘲笑をしながら
「キキッ!良いわけないじゃん、社会的に見たら重罪も良いところだよ」
分かっていてそんな事を――なら――
「なら、昨日の人殺しも――」
「キキッ!いいね、いいよ、頭が冴えてきたじゃないか、ご名答。昨日の殺人も地位を濫用して隠蔽したのさ、勿論警察官もぐるだよ」
「霧縫!」
その言葉に我を忘れて自転車から下りて彼女に駆け寄る
「おっと、それ以上近づいていいのかな?」
包丁を僕に向けて霧縫さんは言った。
「―――僕も殺すのか?」
近づいたのは僕だ。ここで殺されても文句なんて言えないだろうな。初めて自分から進んで行動できた事件だってのに格好悪いな――
「殺すか――それも良いね、面白そうだ。だけど残念!」
僕に向けた包丁は距離を詰めて僕の腹部へとずぶずぶと刺されていく――いく――いく?
痛く――ない?――
「キキッ、キキキキキキキキッ!ドッキリ大成功!」
はへ?
「え?ドッキリ?」
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