第2章 浅倉忍 「勇者よりTUEEEEE俺はなんやかんやで暗部に身をやつしました」

第12話 少女の初めての任務

 対転生者組織「対転生者特別防衛機関」本部。かの「大魔法の勇者」大間当司を討伐した「転生者殺し」のメンバーは、新しい仲間「マナフィア・インフィニアート」という少女を迎え入れ、拠点に戻っていた。


 その「執行部隊」の隊長であるトーヤ・グラシアルケイプは、彼女を連れて総統室を訪れていた。厳密には加入していないマナだが、これから配属先を決めてもらう以上、実際にトップに会わないわけには行かないのだ。


「良く戻った、トーヤ執行部隊隊長。君の働きは聞いている。素晴らしい戦果だった」


「ありがたきお言葉です、総統」


 総統アーサーの言葉に、トーヤは深くお辞儀する。


「さて、トーヤ隊長が旅先で見つけた素晴らしき人材は、君かな」


「え、あ、はい!」


 マナはアーサーに目を向けられ、しゃきーん!と背筋を伸ばす。


「わたし、“マナフィア・インフィニアート”ともうします!こ、このたび、たいてんていひゃ対転生者ぼうえいききゃん防衛機関に」


「落ち着け」


 緊張のあまり噛みまくりなマナを、トーヤがげんなりしながらなだめた。その様子を見て、アーサーはハハハ、と笑った。


「いやぁ実に微笑ましい娘さんじゃないか、トーヤ隊長。いい嫁さんをもらったものだな」


「なんでみんな私と彼女をくっつけたがるんですか。私は彼女にいくらか事情を聞き、今回の加入の話を受け入れた窓口なだけですよ」


「そんな、お嫁さんだなんて・・・・・・」


「いや恥じらうな恥じらうな」


 いつもの軽い調子の総統とその言葉を真に受けた純粋すぎる少女に振り回され、トーヤは困り果てていた。部隊長という役職に就いているためか知らないが、トーヤは本当に気苦労が絶えない、と感じた。


「まあ無駄口はこれぐらいにして・・・・・マナ、お前さんの配属の話だが、実はその前に急を要する問題が発生している。・・・・・トーヤ隊長、彼女に説明を」


「はい」


 トーヤはアーサーに促され、マナの方を向いた。


「マナ、“ナーリャガーリ大帝国”の“モーガン”という人物を知っているか?」


「モーガンさんって、あの“鋳神”モーガンさんですか!?」


 マナは驚いた様子を見せた。彼女の住む村は相当な田舎ではあるが、そんなところにも彼の話は広まっているらしい。


「確か、大手武器メーカーの社長さんなんですよね!その技術はこれまで誰も身につけられなかったとか、そんな噂を聞いています!!」


 マナは興奮した様子でトーヤに語る。自分の知っていることを人に説明できることが嬉しいようだ。


 だが、そんな彼女の明るい表情は一瞬で崩されることとなる。


「そうだ。そんなモーガン氏なんだが・・・・・近いうちに“暗殺”されそうなんだ」


「え・・・・・・・・・・・」


 トーヤの予想だにしない言葉に、マナはにわかに表情を曇らせる。


「うちの“調査部隊”の者がどこからかそういう情報をつかんだようだ。さらにモーガン氏の占い師の方からも“社長に魔の手が伸びています。このままでは社長の命が危ない”と報告が来ている。この件に関して、俺たちは急遽その迎撃を行うこととなった」


「・・・・・・・・・・」


 マナは、悲しそうな表情でトーヤの話を聞いていた。彼女自身こういった暗い話題を聞くことにはなるだろうとは覚悟していただろうが、こうも早く聞く羽目になるとは思わなかったのだろう。


「で、問題になるのはここからだ。その仕向けられる“暗殺者”なんだが、つかんだ情報によると“転生者”らしい」


 マナはゴクリ、と息を飲む。なんとなく「転生者殺し」っぽくなってきたと感じているのだろう。


「モーガン氏の邸宅には侵入者を察知する魔法陣が張り巡らされているんだが、つい先日コイツに引っかかっていないのに不審な痕跡が確認されたそうだ。明らかに邸内に居た者達の者ではなかったこと、そして調査部隊の情報から“転生者”であることが確実視されているんだ」


「そ、そうなんですか・・・・・でも」


「でも?」


 と、マナが何やら腑に落ちないような様子だった。


「その“調査部隊”さんの情報って、どうやって仕入れているんですか?これだけだと・・・・・」


 と、マナが尋ねかけたとき、トーヤに唇に指をスッとあてがわれた。


「!!」


 突然のことでマナは顔を赤らめるが、


「マナ。この世には聞いてはいけないこともある。ほら、専門家じゃないと知り得ないような情報とか、漏れたらまずいだろう?」


「・・・・・・・!!(コクコクコク!!)」


 鬼のような形相でにらまれて、マナは青ざめて黙るしかなかった。実際、世の中には出回っていないような機密情報が、彼らのような素人にホイホイ知られたらまずいだろう。特にマナのように純真無垢な少女が知っていいような世界ではない。2年もここで務めているトーヤですら知り得ないような世界だ。彼女には早すぎる。


「・・・・・まあ、そういうわけだ。そこでだ、マナ」


「え、あ、はい」


 そのやり取りを黙って聞いていたアーサーが口を開き、それにマナは焦って向き直る。


「今回の作戦に参加し、その働きを見てお前の所属を決めようと思う」


「え・・・・・・・・?」


 マナは青ざめた様子で、呆然とつぶやいた。


「え、ちょ・・・・・・そ、総帥さん・・・・?」


「お前の言いたい気持ちもわかる。だがな」


 と、アーサーは手を組んで肘を突き、そこに顎を乗せて、厳格な雰囲気で答えた。


「トーヤ隊長から聞いている“モンスターと心通わせる能力”を是非とも生かしたいと考えている。それ以外にもお前の力を計りたい。そのためには、実際に現場で動いてもらいのが一番手っ取り早いと思っている」


「そ、そんなぁ・・・・・・」


 へなへな・・・・と、その場に崩れ落ちそうになるマナを、トーヤが抱き上げた。


「安心しろ。作戦中はお前に被害が及ばないように手は回しておく。だから、お前のやりたいようにやれ」


「と、トーヤさんまで・・・・・・」


 マナは二人に言い寄られて、すっかりふにゃふにゃになってしまった。そこに、アーサーが一言添える。


「・・・・・・まあ、お前がそこまで嫌なのであれば、“本部”でいろいろな雑務を行ってもらうことも検討しておく。本当はお前の力を存分に生かしたかったが・・・・まあ、仕方が無い」


「え・・・・・・・・・・」


 アーサー思いがけない一言に、マナは心臓にナイフを刺されたように痛めた。彼の残念そうな雰囲気が、ありありとにじみ出る。


「どうするか?このまま総帥のおっしゃるとおり、本部で働くこともできるぞ?」


 トーヤにも助け船を出されて、マナは思いとどまった。


「(わたし、なにが嫌なんだろう・・・・・・)」


 危険なところに赴くことが?人殺しの手助けをすることが?いきなりこんな大舞台に出向かされることが?それとも、何の活躍もできずに過ごしてしまうかもしれないことが?マナは、自分がなにを拒否しているのか考えていた。


「(でも・・・・・・私は・・・・・・)」


 しかし、この世界に足を踏み入れることを決めたのは、彼女自身だ。誰かに言われていやいややらされるのではない。やると決めたからこそ、こうして自分に活躍の場を与えてくれるのだ。


「いいえ・・・・・大丈夫です!!しっかりやり遂げて見せます!!」


 マナはぴしーっ!と敬礼して見せた。だったら、精一杯やらなければ。自分でこの道を選んだのだ。それに答えてくれたのだから、たとえどんな危険な任務だとしても、やり遂げて見せよう。マナは、そう強く心に誓った。


「いい答えだ。・・・・・では、マナフィア・インフィニアート。お前は執行部隊隊長、トーヤ・グラシアルケイプの指示を仰いで動くように」


「はいっ!!」


 アーサーはそんな彼女の様子を見て、マナに今回の作戦に対する彼女の動きを指示した。入りたての彼女では考えて動く、など到底無理だ。だから、現場での指揮はトーヤに任せるというのだ。


 そして、トーヤもそれに応える。


「承りました。総統。これより、トーヤ・グラシアルケイプおよびマナフィア・インフィニアート、“浅倉忍の迎撃”および“Mr.モーガンの護衛”を遂行します」


 トーヤとマナは、ビシッ!と敬礼して見せた。

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