エピローグ「クランクアップ」

scene6.1

「え~……瀬戸内写真コンテスト、映画予告部門。佳作、鏡川勇太くん」

「はい」

 100名にも満たない全校生徒の視線を背負い、勇太は体育館の檀上へと向かう。

 檀上に立つ宝島校長の傍らには表彰状。そして学校からの記念品と称されたデジタル一眼レフが置かれていた。

 7月20日。

 梅雨明けが発表されたその日、美星分校では夏休み前の終業式が執り行われていた。

 勇太が宝島校長から賞状を受け取ると「よくやったぞ」と小声で伝えられる。「私のために」という余計な一言さえ無ければ涙ぐんでいたかもしれない。でも、そのくらいの嬉しさがあった。

「それでは学校から、不祥事で廃部となった写真部の備品を……じゃねぇや。記念品としてカメラを贈呈します」

「ありがとうございます」

 勇太は宝島校長からデジタル一眼レフを受け取る。

 全校生徒のパラパラとした拍手に、勇太は思わず笑みをこぼした。

 ずっしりとした重みに、黒光りするボディ。デジタル一眼らしくメカニックなデザインには機能美すら感じる。その性能はいままで使用していたフィルム一眼とは比べ物にならないし、レンズキット込みでおおよそ何十万円するこのカメラは学生で手にするのは難しい。だが、それもいまや手元にある。

 ぱちぱち鳴り響く拍手の振動が、体の芯まで入り込んで心地いい。……ああ。これなら死んでもいい。なんて思っていたのだが……

「え~。それではせっかくですので、鏡川くんが受賞した作品を皆さんにお見せしたいと思います」

「……はい?」

 その瞬間、頭上からウィーンと音を立ててスクリーンが下りてくる。

 教員がテキパキとプロジェクターを設置して、スクリーンにブルーの画面が映し出された。それにともない生徒から好奇の目と野次が飛んでくる。

「ちょっ、校長先生! こんなの聞いてないですって!」

「なにを言っているんですか。鏡川くん」

 宝島校長はニコニコと笑い、プロジェクターのリモコンらしきものを取り出した。

「作品は人に見せて初めて完成します。つまりこの瞬間がこの作品の完成なのです」

「いや、でもですね。その……」

「はい。再生」

「ああああっ!」

 勇太が声を上げても後の祭り。

 スクリーンに映し出されたのは、春先から撮り続けて完成された映画の予告映像。

「お前。おもしれーヤツ」

 そのセリフに笑いが起こった。観客席から悪友の怒鳴り声が響いてくる。

「はい。私が三波さんのお友達です」

 ちょい役で出演した彼女のセリフに「生徒会長だー」と野次が沸いた。観客席から名家のお嬢様の悲鳴が響いてくる。

「私の夢。それは舞台女優になること」

 その一言は見ている者を一瞬で黙らせた。観客席の誰もが彼女の演技に見入っている。

 ふと、勇太は観客席に視線を向けてみる。きっと彼女のことだ。プロの女優らしく、恥ずかしそうな素振りを見せながらも、自分の演技に自信を持って微笑んでいることだろう。

 だが、いくら探したところでその中に彼女の姿はない。

 勇太は眼をつむり、数週間前のことを思い出す。

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