さよなら
「待っていたぞ・・・・・・・ヒヒヒヒヒヒ」けたたましい老人の声が響き渡る。
響樹達は声の主を探す。中庭を望むように、3階からテラスが飛び出ている。そこには、数人の男を従えた老人が車椅子に座っている。
「お前が黒幕か!?先輩を返せ!」響樹は大きな声で叫ぶ。 その声に答えるように、老人が右手を上げる。
その動作もままならないほど、手が震えていた。
老人の動作を合図にするように、建物の壁にスポットライトが当たる。
突然の眩しさに響樹達は目を細めた。
「お、お姉さま!」華麗が叫ぶ。スポットライトの先には、壁に体を打ち付けられた勇希と嵐子の姿があった。
「ひ、響樹君・・・・・・」勇希は憔悴しきった様子で響樹の名前を呟いた。 二人の首には先ほど、シンディ達にも装着されたリングが嵌められていた。
「勇希先輩! 嵐子! なぜこんな酷いことをするんだ!」
「決まっている・・・・・・・貴方を、私のものにする為だ」そう言うと老人は立ち上がり、布で体を覆った。 暫らくしてその布を剥ぐと、そこには詩織の姿があった。
「し、詩織・・・・・・・あなたなの!」静香が驚愕の表情で見上げる。
詩織は、テラスの上から飛び降り華麗に着地した。
ゆっくりと立ち上がると響樹達の前に歩み寄った。
「私はあの時、絶望した。 ・・・・・・・響介さんが、静香を選んだことを・・・・・・私のほうが、全て彼女より勝っていたのに・・・・・・・、そんな、下級武士の娘を選ぶなんて」詩織は軽蔑するように静香を見た。
「一つ解った事を教えてあげよう。我が財団が勢力をかけて、その男の事を調べた結果解った事がある」突然の展開に響樹達は驚く。
「この地球という星を作った神とも言うべき者がいた。彼は自分の作った作品を未来永劫に保つ為に、その監視役を使わした。その者は地球に害を及ぼす存在が現れると、自らの力で災いを起こして害虫を駆除する」
「話の先が見えないが、何を言っているのだ?」響樹は言葉通り、彼女が話している事が理解出来ないでいる。
「永遠という時間を生き抜いて、地球の生物を何度も絶滅に導く破壊神。それが貴方なのだ。そして、遠く無い未来、今度は破壊神によって人類滅亡の危機がくる。それを防ぐ為に、貴方を抹殺する。それがこの『グラン・オーパス』の存在理由なのだ」
「だが、私は貴方を抹殺する事には反対だった。それで心臓を取り出して食べれば永遠の命が手に入り、破壊神を抹殺出来ると父を騙して、この組織を設立させた。すべては響介さんを愛する為にやって来たことなのだ」
「それでは、響樹は地球の白血球とでもいう役目な訳ね」シンディーは補則するように言った。
「まさにその通り、いわばお前達は人類を滅ぼす悪魔なのだ」詩織は大きな声で強調するように叫んだ。
「お前の言うことが本当ならば、俺は人類に厄災を及ぼす為の破壊神……」響樹は自分の存在理由を教えられて、絶望感が溢れでてきた。
「でも、私にとっては人類も地球もどうでもいい……、響介さんが私だけの物になってくれれば、その為には静香達には死んでもらうよ」独りよがりの酷い考え方であった。
静香の目がギラリと光り一歩前へ足を踏み出した。
「詩織、たとえ貴方の言うことが本当であったとしても、私達が響樹を破壊神なんかにはさせない!絶対に!」詩織は鞘に収まった刀を右手で持ち上げて誓うようにいい放った。
「静香、ありがとう・・・・・・・響介という男が、静香を選んだ理由が俺にはよく解るよ」響樹が唐突に口を開いた。
「な、なに?」詩織が訝しげに響樹の顔を見た。
「静香!」
「えっ?! あ、はい!」急に名前を呼ばれて静香は驚く。 響樹は彼女の肩に手を添えると唇を重ねた。突然の口づけに静香の頬は真っ赤に染まる。
詩織の目の前に、日本刀を構えたアオイが姿を現した。アオイは日本刀を振り上げると詩織に向かって叩きつけるように切り込んだ。
「くっ!」詩織は後方にジャンプして身を隠した。
爆音を上げて、無数のヘリコプターが空中に現れる。ヘリコプターから無数の物体が落下してくる。
「華麗! 気をつけて!」シンディがブーメランを構える。
「はい!」華麗は中国拳法の構えを見せる。 落下してきたのは、身長二メートルほどの、戦闘用ロボットであった。
足の裏に特殊な移動装置を設置しているようで、平坦な地面をスキーでもするように滑ってくる。
その手には刃とマシンガンを備え付けている。
「たあー!!」アオイは大きな声を上げながら、建物の壁を駆け上がる。 勇希が貼り付けられている場所へ辿り着くと、彼女を拘束する金具を片っ端から切り刻んだ。倒れる、勇希の体を受け止めて地に着地した。
「「先輩! 先輩!」」アオイが勇希に呼びかける。
「響樹・・・・・・」勇希は意識が朦朧としている。どうやら体が言うことを利かないようだ。
「「く、くそー!」」そう呟くと、アオイは勇希の唇に口づけをした。
「あ、あれ?!」突然、静香の体が飛び出した。その変わりにクレナイが姿を現した。
「「嵐子さんを助けなきゃ!」」クレナイは嵐子に近づき、拘束具を引き千切った。
静香がシンディ達の戦いに加わる。
「ちょっと、響樹はキッスの安売りをしすぎじゃないの?」シンディはブーメランで戦闘ロボットの配線を狙って動きを止める。
「本当! お兄ちゃんは、乙女心を解っていませんよ!」強烈な蹴りが、ロボットを破壊する。 まるで、八つ当たりでもするかのようであった。
「久しぶりの接吻だったのに!」静香は
三人の怒りは頂点に達していた。
「もう、何ですの・・・・・・私の前で、下衆な女達に接吻を繰り返して・・・・・・・許せない!」詩織の顔が怒りで硬直する。
「許さない!!!!」詩織の体が肥大していき、巨大な化け物に変わっていく。
その背中には黒く大きな翼が生えている。
その姿は大きな蝙蝠のようであった。
「駄目、やはり暴走したわ・・・・・・」助けられた嵐子が呟く。彼女の体は、クレナイの腕の中に抱かれていた。さすがにかなり衰弱している様子であった。
「「暴走?!」」クレナイは嵐子の言葉に反応する。
「詩織は、適合者ではないの。私の体のDNAを調べて、人工的に同様の力を身につけた。 だから体の状態が不安定で定期的な調整が必要だった。 でも詩織はそれを怠っていたのよ。 ・・・・・・・調整にはかなりの苦痛を伴うものだから」嵐子が少し呆れた口調で呟く。「もう、人間には戻れないわ」
「「そ、そんな・・・・・」」
シンディ達は、ほぼロボット達を殲滅していた。しかし、突然目の前に巨大な蝙蝠の化け物が出現した。一同は驚きの表情を隠せないでいた。
「貴方、私の渡したペンダントは・・・・・・」力無い声で嵐子が呟く。
「「ここに」」クレナイは胸元にぶら下げたペンダントを見せた。
「そう・・・・・・、私の体を下ろして」嵐子は呟いた。 クレナイは彼女の体をゆっくりと地面に下ろした。
「その、ペンダントを挟んで私と口づけをして、それで私の願いは叶う。 ・・・・・・そして、貴方は新しい力を手に入れるの」嵐子は自分の唇にペンダントのメダルを当てた、彼女に言われるがまま、クレナイもメダルに唇を重ねた。
「あー!また!」華麗が指差して大声で叫び飛び上がる。
「本当に・・・・・・今度は、嵐子か・・・・・・」もう、シンディは呆れて言葉が出ない様子であった。
「ちっ! 帰ったらあの浮気者、成敗してくれる!」静香は刃をクレナイのほうに向けた。
クレナイと嵐子が唇を重ねた瞬間、嵐子の体が美しく輝きだした。
「有難う、私はこれで思いを遂げられるわ・・・・・・」そう呟くと彼女の体は粒子に変化して、メダルの部分に吸収されて消えた。
「「あ、嵐子さん」」クレナイが驚きの声を上げたその時、メダルが急激に輝き、クレナイの体を包んだ。
「な、なに眩しい!」シンディ達は目を細めた。
しばらく強烈な光を放ち続けたその場所に、クレナイの姿が現れた。
それは今までのクレナイの姿ではなくて、背中には白銀の翼、手足、胸には攻撃をガードするようにプロテクターが装着されていた。クレナイは大きく翼を開いて空中に飛び上がった。
クレナイが拳を握りしめると、手首のプロテクターから光線状の刃が現れる。 それは光の刃であった。
「「この溢れる力は・・・・・・」」クレナイが宙を舞い、化け物の前に立ちはだかる。
「あの姿は、綺麗・・・・・・・女神様みたい」華麗が呟いた。翼を開いたクレナイの姿は、天使のようにも見えた。
化け物は両手を開いたかと思うと、ハエでも叩くように勢いよく両手で、クレナイを挟んだ。
しかし、クレナイは両腕を交差して、プロテクターから発した光剣で化け物の腕を切り刻んだ。
「ギャー!!」化け物が強烈な悲鳴をあげる。 その声はもはや人間のものとは思えないものであった。
光化け物が強烈な炎を口から発生させ攻撃を仕掛ける。
クレナイは剣を消滅させると、全身を炎で染めた。 攻撃で燃えたような錯覚に陥るが、元々クレナイは炎による攻撃が得意な為、効果は無かった。
クレナイは炎に包まれた強烈な突きを、化け物の顔面に叩き込む。化け物は強烈な奇声を上げながら中庭に落下していく。
空中のヘリコプターより唐突に無数のミサイルが発射された。
暴走化した詩織ものとも、証拠を消滅する気であろうか、明日のニュース等の言い訳が楽しみだとシンディは思っていた。
クレナイが右手を上に差し上げると、巨大なバリアーのようなものが現れて、ミサイルから中庭をガードした。 空中で無数のミサイルが爆発した。
その爆風に煽られて、数機のヘリコプターが墜落した。近隣は夜のオフィス街で、被害は比較的少ないことをシンディは祈った。
激しい炎に包まれた拳で、倒れた化け物の胸の辺りをクレナイは殴りつける。
化け物の体が弾け飛んで、中から美しい女の裸体が飛び出した。
「詩織ちゃん!」その体を静香は抱き止めた。
それは詩織であった。その二人の様子を見て響樹は一枚の写真を思い出していた。
静香、この少女、そして自分らしき男が幸せそうに写っていた写真。
「有難う・・・・・・」詩織は一筋の涙を流したかと思うと静香の腕の中で灰のように崩れて姿を消した。
「詩織・・・・・・」飛び散っていく灰のほうを見つめながら静香は呟いた。その瞳から涙が一滴流れた。
「さようなら・・・・・・・詩織ちゃん」静香の目の前にある夜空には、仲の良かった頃の二人の姿が浮かんでいた。
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