貴方は本当に可愛いわ

 暗い部屋の中。水滴の落ちる音がする。それはリズムを刻むように、一定の間隔を置いて響いていた。


 その音に刺激されて、気を失っていた勇希が目を覚ます。

 彼女がゆっくりと瞼を開くが辺りは暗くて辺りの様子を確認することは出来なかった。


「こ、ここは一体・・・・・?」起き上がろうとするが、体の自由がきかない。どうやら手、足、体を拘束されているようであった。


「ほう、目が覚めたようだね・・・・・・・」唐突に声が聞こえる。

 その声はかなり擦れた、そう老人のような声であった。


「だ、誰なの?」段々と目がなれてくる。

 勇希が寝ているベッドの周りを、男達が囲んでいる。


 先ほど戦った緑のチョーカーを巻いた男達と、真中には車椅子に座る老人の姿があった。


 点滴のような液体が入った容器を体に接続し、その隣には綺麗な看護士が待機していた。あまりの高齢により、その老人の性別は良く解らない。


 老人を乗せた車椅子がゆっくりと移動して、勇希の近くで停止する。

「どうなのだ・・・・・・永遠の命を手に入れた気持ちは・・・・・・」老人は体を乗り出して、勇希のスカートを少し捲り上げた。

「ひ、ひぃ・・・・・・な、なにを・・・・・・・」勇希は悲鳴のような声をあげる。

「うん、張りの良い、綺麗な肌だ・・・・・・」彼女の太ももの辺りを撫で回し、少し摘み弾力を確かめるような仕草をした。


「や、止めて・・・・・・」勇希は顔を真っ赤に染めて抵抗を試みるが、体を動かすことが出来ない。 どうやら、なにか特別な方法で、勇希の力は封じ込められているようである。

「ヒヒヒヒ!」嫌らしい笑い声を上げると、老人は車椅子ごと少し後退した。


「わ、私をどうする気・・・・・・、まさか?!」勇希の頭に、すこし淫らな想像が過った。「いや、いや、絶対にいやー!」勇希は可能な限り体をくねらせた。


「ホホホホ、安心しろ。私はこれでも女だ。・・・・・・そちらの趣味は無い」老女が返答をする。

 勇希は一人で、勝手に妄想を膨らませていたことに、自分で呆れて少し恥ずかしくなった。

「不老不死の力を手に入れる為には、あの男の心臓が必要なのだ。 ・・・・・・お前の心臓を食べて試してみるのも一興いっきょうだが、あの男を誘き寄せるには、お前の存在が効果的だということらしいからな。・・・・・・ 少し猶予をやろう」そう言い残すと影の中に姿を消した。


 勇希は渾身を込めて拘束具から、逃れようと奮闘するがビクともしない。その様子を緑色の男達が見つめていた。


「無駄ですよ。 貴方の力は封じ込められています。今は普通の女子高生の力しか出ないですよ」リーダー格の男が口を開き、彼女の手首を掴み、覆いかぶさるような姿勢を見せた。

 勇希は顔を背ける。

「可愛い顔ですね。・・・・・・本当に食べてしまいたい・・・・・・」ゆっくり焦らすように顔を近づけた。

「い、いや・・・・・・、離して!」勇希の目に涙が溜まる。


 何かが男の顔目掛けて飛んできた。男は顔を逸らしてその物体をかわした。


「悪趣味な行動は、慎みなさい!」

 男が避けた物体が壁に突き刺さっていた。

それは見たことのある形をした手裏剣であった。女の姿が見える。嵐子がそこにいた。

「なんですか、牢から開放されたのですか?」男は慌てる様子も無く冷静に対応した。

「このリングを嵌められている限り、私の力は発揮出来ない・・・・・・・。 牢に入れられているのと変わらないさ」嵐子は首元を指差す。 

 そこにはチョーカーを覆い隠すようにシルバーの金具が巻きつけられていた。

 勇希の首にも同じようなリングが取り付けられている。どうやら力を発揮出来ないのはこれの影響であるようである。


「貴方も災難ね。 あの男に関わったばかりに・・・・・・・」嵐子はベッドの縁に腰掛け、少し乱れた勇希の衣服を直した。

 嵐子が男達を睨みつけると、男達は軽くお辞儀をしてから姿を消した。

「嵐子さん・・・・・・・貴方は、どうしてこんなことを?」勇希は嵐子の顔を見上げる形になっていた。嵐子の目は何処か遠くを見ているようであった。

「あの男には、沢山の苦しみを貰った。・・・・・・多分、それはこの先も続くわ。私はそれを終わらせたいだけよ」


「そ、そんな・・・・・・」勇希は潤んだ瞳で見つめる。 その目を見て、嵐子は軽くため息をつく。


「貴方を見ていると、昔の私を見ているようだわ。 ・・・・・・・一途にあの男を見ている。 本当に好きなのね」嵐子がゆっくりと勇希の足、腕の順番で手を触れる。 その順番に拘束具が外されていく。 最後に腹部を触れると、勇希の体が自由になった。


 嵐子は、勇希の手を握ると引き上げた。

「痛っ!」勇希の体を激痛が走った。 彼女も響樹と同じく、男達の電流攻撃により負傷を負っていた。時間の経過と共に回復しつつあるがまだ痛みは残っていた。


 痛みの激しい箇所を確認する。 制服の一部が焦げていた。

 制服の袖を捲り、体の傷をみるが、回復しようと激しい熱を発しているようであった。


「大丈夫よ、かなり眠っていたようだから、・・・・・・ただ、運ばれて来た時は、黒こげの秋刀魚だったみたいだけど・・・・・・」

「ひ、酷い!」勇希は真っ赤になって頬を膨らませた。

「貴方は、綺麗ね」嵐子が珍しく微笑むと、勇希の体を抱きしめた。


「ひ、ひぃ!」突然の事に、勇希は悲鳴をあげた。


(聞いて・・・・・・この部屋は盗聴されているの。 あのペンダントをあの男は身につけていて・・・・・・)嵐子が耳元で囁くように呟いた。 勇希は軽く頷く。


(そう・・・・・・、貴方はジッとしているのよ。 私達には無限の時間があるわ。きっとチャンスが来るから・・・・・・)そう言うと勇希から離れた。


「ウブね。貴方は本当に可愛いわ」嵐子の言葉に仰天して、勇希はブルブルと震えた。

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