お姉さま
「で、なに、ベニーちゃんは、そういう趣味があったの・・・・・・」シンディは呆れた口調で呟いた。放課後の教室、部外者ではあるが静香の姿もあった。
目の前では、勇希にじゃれつく華麗の姿があった。彼女達は制服に着替えており、先ほどの殺伐とした感じでは無く、可愛い下級生に変身していた。
「いや、私もよく解らないの・・・・・・」勇希は困惑の表情を浮かべていた。
道場での練習が終わった後も、華麗は勇希から離れようとせず、シンディに助けを求めた。
「YOUはベニーちゃんに懐いているけど、その娘は女の子よ。解っているわよね?」華麗は相変わらず、勇希に腕を絡めて猫のように甘えていた。
「ええ、もちろんです! 私、お姉さまの性別は気にしません!」彼女はハキハキとした声で返答をした。
「響樹に聞いたのだけど、貴方はベニーちゃんと同等の組手をしたそうじゃないの。 普通の高校生にそんな芸当は無理よね・・・・・・貴方は一体何者なの?」シンディは直球で聞いた。
「実を言いますと、華麗は・・・・・・・ある、組織の言いつけで、不動 響樹とその仲間を捕らえてくる任務を指示されていたのです」華麗は屈託のない笑顔で返答をする。
「え、ある組織って?まさか!」響樹の目が真剣モードに変わった。
「でも・・・・・・もう、やめました。 華麗はお姉さまと結婚しま~す!」華麗は勇希に抱きついて彼女の胸に顔を埋めた。
「ちょ、ちょっと朱さん・・・・・・・・」勇希は戸惑いながら、華麗の体を引き離した。
「そ、そんな、お姉さま・・・・・・・華麗と呼んでください」華麗は訴えるような目で要求した。
「わ、解ったわ。・・・・・・・華麗ちゃん」勇希は言われるままに、彼女の名を呼んだ。
「はい、お姉さま!」嬉しそうに微笑んだ。
「ところで、華麗ちゃん・・・・・・」響樹がそこまで言うと、華麗の表情が一変する。
「はあ? お前は朱と呼べ!」突き刺さるような視線で響樹を睨み付ける。
「はい、朱様!」響樹は深々と頭を垂れた。 奇妙な主従関係の誕生であった。
「なあ、華麗ちゃん、貴方に指示を出した組織って『グラン・オーパス』っていう名前ではないの?」シンディが聞いた。
「よくご存知ですね。 そう彼らの依頼で貴方達を捕らえに来たのです。 その男と一緒に・・・・・・」華麗が響樹に向ける視線はなぜだか汚いものでも見る目であった。
「でも、お姉さまと結婚するので『グラン・オーバーズ』は退職することに決めました!」華麗は勇希に抱きついて胸に顔を埋めた。響樹は少し羨ましそうな目で見た。
「あ、ああ、ちょ、ちょっと、華麗ちゃん!」顔を真っ赤に染めて勇希は華麗を引き離そうとするが、彼女はしがみついて離れない。なぜか悶えてるように見えて響樹は少し目を逸らした。
「お、女同士は結婚出来ないんだぞ!」響樹が子供のような口調で意見を述べた。
「だから、女同士なんて障害は関係ないの! 馬鹿アンタ? 何度も言わせるな! アンタは黙っていてよ! ・・・・・・それから、さっきから華麗をいやらしい目で見ているけど、ぶっ飛ばすぞ! バーカ!」華麗は舌を出してアカンベーをした。 響樹の額に十字の血管が浮かんだのは言うまでもなかった。
「組織の、どんな奴が、お前に私達を捕まえるように指示したのだ。 ・・・・・・まさか」沈黙していた静香が会話に加わる。
「んーっと、なんか年取った爺さんか婆さんか判らない奴よ。 アイツもその男に恨みがあったみたいだけど」相変わらず、勇希の胸に顔をグリグリと埋めていた。
「老人か・・・・・・」
「嵐子って女は居なかった?」シンディが聞く。
「嵐子・・・・・・・、ああ、あの忍者みたいな女ね。 居たわよ」華麗は胸から顔を離さない。 勇希も悶え続けている。
「そう、嵐子も・・・・・・・」シンディは腕を組んで考え事をしているようであった。
「でもあの嵐子って女、失敗したのかわからないけど牢の中に幽閉されていたわ。 ・・・・・・そうそう、なにか機密を持ち出したとか言っていたわ」
「機密・・・・・・?」響樹は、嵐子に貰ったペンダントを握りしめていた。
「もしかすると、それの事か?」シンディは響樹の胸元に視線を合わせた。
「華麗とやらに聞くが、『グラン・オーバーズ』とは如何なる組織なのだ。なぜ、響樹を狙うのだ」静香の口調が武士口調に戻っている。 真剣な時には、表情と言葉遣いが変わるのだと、響樹は再認識した。
「『グラン・オーバーズ』は色々な組織で権力を持っていた老人達の成れの果て、死を待つ者達の拠り所。 彼らの目的は、どうやって安らかな死を迎えるか・・・・・・、しかし、彼らの影響力は大きい。 今も世界中で彼らの手足のように、沢山の部下達が暗躍している。 ・・・・・・・そして、華麗もその一人だったの」華麗が勇希の胸から顔を離して、真面目な顔で呟いた。
「なら、どうして・・・・・・ここに?」響樹が彼女に質問をした。
「華麗の専門は人殺し。 身よりの無かった華麗はこの拳法を使って子供の頃から、数々の人間を手に掛けてきた。この世界と華麗の生い立ちを憎しみながら・・・・・・・それしか生きていく術が無かったから・・・・・・」華麗が目を伏せた。
「・・・・・・」響樹は身に覚えないのだが、身につまされる思いで一杯になった。
「華麗ちゃん・・・・・・」勇希が目に少し涙を浮かべていた。
「だけど今日、お姉さまと組手をして解った。 人を殺す拳もあれば、生かす拳もあるという事を・・・・・・・お姉さまの拳は、私の技を全て受け流して、最小限のダメージしか与えなかった。・・・・・・今頃遅いかもしれないけれど、この人の傍なら・・・・・・華麗もやり直せるかもしれないって思ったの」
「華麗ちゃん・・・・・、やり直せるよ。私も一緒にいるから」言いながら勇希は華麗の体をギュッと抱きしめた。 何故か華麗の口元がニヤリと緩んだような気がした。
シンディは腕組をしたまま、天井を見上げた。蛍光灯が一本球切れのようで、チカチカ点滅している。
「ねえ、華麗ちゃんは、その『グラン・オーバーズ』の拠点を知っているの?」シンディは、点滅を続ける蛍光灯を眺めながら質問をする。
「はい、だいたいの場所は解ります。でも、それは日本支部という末端ですが・・・・・・」
「ねえ、響樹どう思う?」
「どうって、なにが・・・・・・?」シンディの振りに響樹は解らないといった表情を見せた。
「このまま、待つべきか。逆に、拠点をこちらから叩くという選択肢もあるということよ」彼女はまぶたの上から目の辺りをこすった。 なにか思案している様子であった。
「あ、ああ、なるほど・・・・・・」響樹はそんな考え方もあるのだと感心した。
隣では、勇希に執拗に抱きつく華麗の姿があった。
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