見知らぬ写真
深夜、響樹は喉が渇き、目が覚めた。時間は深夜二時であった。 リビングに行き飲み物を探索することにする。
「誰だ、消してないのは?」なぜだか、リビングの明かりが点灯したままになっていた。
ダイニングテーブルの上に、静香が頭を伏せて眠っていた。
「おい、こんな所で寝ていると・・・・・・風邪をひくぞ」響樹は彼女を起こそうとするが、ふと机の上に写真らしきものを見つけた。
「なんだ、この写真?」それは、色あせた白黒の古い写真であった。
保存状態があまり良くないのか、かなり変色しているようであった。
よく見ると、写真には三人の男女の姿があった。 一人は見たことの無い女の子、洋服を着ている。もう一人の女の子は綺麗な着物を羽織っていた。二人は幸せそうな顔をして椅子に座っている。 着物の少女、その顔は・・・・・・・(静香!)響樹は口から出そうな言葉を飲み込んだ。
色あせた写真の中で、今よりも少しあどけない表情で微笑む静香の姿があった。
そして、その隣に着物に袴で男らしく立つ男の姿が写っていた。男の顔は響樹の見覚えがある、いや見慣れた顔であった。
「・・・・・・助、何処に行ったの・・・・・・」静香の頬を一筋の涙が流れた。
彼女が言った名前を聞き取ることは出来なかったが、写真の様子から察するに、かなり親しい感じであることは容易にうかがえた。
響樹は自分と同じ顔をした男の顔を見て、思考を巡らした。
(そうか・・・・・・静香の好きなのは、俺ではなくて写真に写っているこの男なのだ・・・・・・・。俺には彼女との記憶は無い。静香にとって、この男は今も何処かに行ってしまったままなのだ)響樹は静香をなだめるように頭を優しく撫でた。
静香は落ち着いた様子で眠っている。
「このままじゃ、本当に風邪をひくな」静香の体をすくうように抱き上げると、彼女を寝室へと運ぶ。
女の子の体がこんなに軽い物なのだと響樹は少し驚いた。
(ああ、いい香りだ)静香の体から甘い匂いがする。
先日、シンディが静香のことを汗臭いと言ったが、響樹が感じる静香の香りはいつも、この甘い香りであった。
階段を上り、静香を抱きながらドアノブを起用に回し部屋の中に入る。
静香のベッドの上に体を沈めて、離れようと試みる。
しかし、突然静香の両腕が体に絡みつく、何か取り乱しているような様子であった。
「いっ?!」
「行かないで、行かないで! 私を置いていかないで!」
「し、静香?」
どうやら、彼女はまだ寝ぼけている様子であった。
「わーん!」なんだか号泣している。
「お、おい! 離せよ!」
静香は力の限り響樹を抱きしめている。 超人的な力を持つ彼女の腕から逃避することはままならなかった。
「ちょっと、うるさいわよ・・・・・・・!」部屋のドアが勢いよく開く。 そこには仁王立ち姿の勇希が立っていた。
勇希は赤いセクシーなナイトウェアを着用している。 彼女の豊満な胸が半分飛び出しそうになり、太ももも露わになっている。どうやら、シンディが言っていた色っぽい寝巻きとはこれの事であるようだ。
「こ、こ、こ、こ」昔の古いレコードのように、同じ箇所を何度も繰り返す。 勇希の目の前には、ベッドの上で抱き合う男女二人の姿があった。
「い、いや、これは・・・・・・これには訳が・・・・・・」しかし、言い訳が出てこなかった。
「なんだ、うるさいな。あれ、なんだ響樹・・・・・・・夜這いか?」なにも無かったかのように静香が目を開けた。
「こ、こ、こ、こ!」
「・・・・・・・こけっこ!?」響樹の思考は完全にショートしていた。
「こ、このド変態が!」勇希の真空飛び膝蹴りが響樹の顔面を襲う。彼の体は綺麗な孤を描きながら美しく宙を舞った。
勇希は舌打ちを一回した後、少し蟹股気味で部屋から出て行った。
「ご、誤解なのに・・・・・・」響樹の言葉が虚しく響いた。
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