憎みきれない

 目ぼしい買い物が終了し、家に帰ることにする。


 響樹の両腕には大量の荷物が握られていた。 その大半はシンディの怪しい下着類であった。 静香もお気に入りの服が見つかったらしく上機嫌であった。彼女は早速、購入した洋服を身につけていた。


 青色の綺麗なブラウスに、黒色のパンツ。そしておしゃれなパンプス。青色のチョーカーもマッチングしていて格好いい。 シンディの見立てもたいしたものだと響樹は感心していた。少し開いた胸の谷間から黒いブラが覗いていた。 先ほどの下着も購入したようであった。なんだか、おしゃれな女子大生といった雰囲気であった。


 勇希も私服を購入したらしく、両手に荷物を持っていた。どうやら機嫌も復活した様子であった。


「響樹は今日の午前中は何をしていたの?」シンディが白々しく聞いた。

「あ、ああ、同じクラスの小松崎と一緒に・・・・・・え、映画を見に行ったんだ」とっさに響樹は返答した。


「・・・・・・・」勇希が冷めた目で響樹の顔を見ていた。

「せ、先輩・・・・・・どうかしましたか?」その視線を見て響樹はうろたえていた。

「いいえ、別に何でもありません!」勇希はプイッと背を向けた。


「貴方達、楽しそうね・・・・・・」突然声が聞こえた。

 声の主を探すと、近くの公園に上がる階段に女の姿があった。

「お前・・・・・・・嵐子!」静香が日本刀の袋を捨て、刀を構えた。

 嵐子は、両手の平を開いて戦う意志の無いことをアピールした。

「今日は、戦うつもりは無いわ。 でも、貴方の命を狙っていることには変わりはないけど」

「では、何をしに来たの!」シンディは静香の前に出て、嵐子を威嚇した。

「ちょっと、忠告しに来たのよ」嵐子は無防備を主張するように階段に腰掛けた。

 前のめりになり両膝に腕を乗せた。 確かにこの姿勢では、急な攻撃には対応は出来ないであろう。


「緑川の事、覚えているわよね」緑川とは、先日の戦いで倒した、緑のチョーカーを首に巻いた男の事であった。

 緑川はクレナイにチョーカーを千切られた後、急激に体を崩壊させて灰のようになって消えた。

「あの男は私の体を研究して、超人を人工的に作ろうとした実験台だったの。 ある程度までは成果を治めたようだけど、結局は不安定で完全な超人を作る事は出来なかった。 私の望みは、私のような女を増やさない事と、この不老不死の苦しみから逃れること。この苦しみを知らない人間には、解らないようだけどね」


「一体、何が言いたいんだ?」響樹は嵐子の話が、的を射ていないことに少しイラついた。


「『グラン・オーパス』それが私達の組織の名前。 様々な組織を束ねてきた老人達の集まりよ。 奴らは、響樹・・・・・・・、貴方の心臓を喰らうと、永遠の命が手に入ると信じている」嵐子の口から衝撃的な言葉が飛び出した。


「響樹君を食べる?!」勇希は驚きのあまり目を見開く。

「そんな話、聞いたことがないぞ!」静香は吐き捨てるように怒鳴る。

「そう、それは彼らの妄想よ。 でも彼らは信じている。彼らは、貴方を狙って緑川のような超人モドキを送り込んでくるわ」


「解った、でも貴方は、なぜその事を忠告しに来たの。 響樹の命を狙っていたのではないの?」シンディは、皆が感じた疑問を口にした。

「そうね・・・・・・でも、あいつらに殺されるのと、私がその男を殺すのでは、その意味が違うような気がするのよ・・・・・・・」嵐子は呟く。「それから・・・・・・」嵐子は何かを響樹に向けて投げつけた。 響樹は無造作にそれを受け止めた。 掴んだ手のひらを開くと、そこには、見たことの無いような無機質なペンダントがあった。


「なんだ、これは・・・・・・・」

「そうね、敵に塩を送るのもなんだけど・・・・・・・ちょっとした玩具よ。 危機になった時に使うと、役に立つわ。きっと・・・・・・・」そう言うと、嵐子はいつものように煙幕を投げて姿を消した。響樹は嵐子からもらったペンダントを眺めていた。


「それを・・・・・・響樹君は信じるの?」勇希が心配そうに響樹を見つめた。

「・・・・・・俺にも、解りません」そういうと嵐子に貰ったペンダントを少し眺めてから、ポケットの中に仕舞い込んだ。

れた弱みね ・・・・・・・結局、YOUも憎みきれないのね ・・・・・・Meと一緒・・・・・・」シンディが小さな声で呟いた。


「え・・・・・・?」聞き取れずに響樹が聞き返したが、シンディは無言で首を左右に振るのみであった。


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