私は要りません。
響樹は久しぶりに一人っきりの部屋で、自分のベッドに一人潜り込んでいた。
ここ最近、このベッドは三人に女性に占領されており、彼は廊下にダンボールを引いて眠る日が続いていた。 久しぶりの相棒は優しく彼の体を受け止めてくれた。
思い返せば、ここ数日色々なことがあった。いきなり現れた少女達に振り回される日々であった。
突然現れた少女、静香。 初めは取っ付き難い感じの偏屈少女かと思ったが、実は天然で可愛い性格をしていた。
金髪の美女シンディ。彼女は学校の英語の先生として赴任してきた。すこし大雑把な性格かと思えば、常識人で大人の女性であった。
そして、紅 勇希。ずっと部活動の先輩であり、憧れの存在であったが、実際は歳相応の女子高生であった。 彼女の笑い顔、拗ねた顔、悲しそうな顔を思い浮かべて響樹は少し微笑んだ。
「あー!!!!!」響樹は突然、明日の約束を思い出した。
「た、たしか有村と映画・・・・・・・!」彼は鞄の中に手を突っ込んだ。鞄の中から一枚のチケットが現れた。そう、同じ空手部の女子部員、有村と映画の約束をしていた。 待ち合わせは駅のビッグマンという、大型液晶モニターの前であった。 彼は、今の今まで彼女との約束を完全に忘れていた。
「たしか、映画は午前中だったよな・・・・・・・」響樹は誰かに確認するように呟いた。有川との待ち合わせの時間は八時である。
「なんとか、なるかな・・・・・・」シンディ達との約束が、昼からであったことを考慮して、なんとか旨く立ち回れるように思案した。
あれこれ、考えている間に睡魔負けて響樹は眠りの底に落ちていった。
朝七時。目覚まし時計が激しく歌う。時計のアラームは昔のアメリカ映画の主題歌が登録されている。
内容は確か、主人公がタイムスリップして自分の両親が結婚するように奮闘するものであったと思う。
大きな欠伸をして、部屋の様子を見て驚いた。
「そ、そうかシンディの家に引越して来たんだ、俺・・・・・・」目覚めた場所は、いつものワンルームの小さな部屋では無く、二十帖ほどの大きな洋室であった。
「なに、凄く早い時間に起きるのね?」部屋のドアが開くと、シンディが立っていた。枕を抱きながら目を擦っている。 彼女は薄手のネグリジェを着ており朝日を浴びて彼女の裸体を鮮明に浮き上がらせていた。
「ちょ、ちょっと、いきなり入ってくるなよ! ・・・・・・・それに、その格好・・・・・・」響樹は布団を頭から被った。
「ふーん、ムラムラする?」頭に手を置き、セクシーな声でポーズを決めた。
「や、やめろ!」響樹は布団の中で顔を真っ赤に染めていた。
「買い物は、お昼からよ、もっと寝ていても大丈夫よ」なぜか、響樹のベッドの縁に腰掛けた。
「あ、ちょ、ちょっと用事があって、俺朝から出かけるよ。昼に合流するから・・・・・・」響樹は声を上擦らせながら返答した。
「・・・・・・・そう、解ったわ」そう言うとシンディは、扉を閉めて部屋を出て行った。 彼女が居なくなった事を確認してから、響樹はシャワーを浴びて服を着替えた。
「朝飯は外で食うか・・・・・・」そう考えながら、リビングに降りると味噌汁の良い香りがしてきた。
「う、旨そう」響樹はゴクリと唾を飲み込んだ。 キッチンでは、勇希が朝食を準備していた。
「勇希先輩。おはようございます」ペコリとお辞儀をした。
「あ、おはよう、響樹君」勇希ははにかみながら微笑んだ。エプロン姿が眩しいほど可愛らしい。 響樹は胸の辺りがときめく感覚に捕らわれた。
「朝ご飯、作っているのですか?」響樹は勇希の手元を見つめる。
味噌汁に入れる大根を起用に切っている最中のようであった。
「うん、居候の身だからね。これぐらいはしないと・・・・・・」いいながら、味噌汁を小皿に移して味見をする。 その味に満足したのか、首を縦に頷いた。
庭では、静香が木刀を手に素振りを続けている。 汗がほとばしり美しい。
「こんなに朝早く、お出かけ?」勇希は机に響樹の朝食を並べながら聞いた。
「え、ええ用事があって・・・・・・・昼には合流しますので、・・・・・・いただきます」そう言うと響樹は、勇希の作った朝食を口にした。
「美味しい、美味しいですよ! 勇希先輩!」響樹は、大口を開けて朝食を口の中に放り込んだ。
「ありがとう・・・・・・・その、先輩って言わなくてもいいよ。 あ、あの、・・・・・・勇希って呼んでくれたら嬉しいかな」勇希は少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「え、・・・・・・なんですか?」響樹は聞こえなかったようで聞き返した。
「う、ううん、なんでもないわ」勇希は誤魔化すように背を向けた。
丁度そこに素振りを終えた静香が現れた。彼女は当然のように、椅子に腰掛けてため息をつき、体の汗を拭っていた。
「はぁ、気持ちいい・・・・・私の飯はまだか?」彼女は気持ちを込めて呟いた。
「静香、お前も少しぐらい料理手伝えよ」響樹は同じ女性なのにこんなにも違うのかと少し呆れていた。
「前にも言ったが、侍は料理をしない。料理は乙女の仕事だ。私は剣術に生きる身なのだ」静香は凛とした目で響樹を見つめた。
「ああ、そうですか・・・・・・」響樹は会話をするのが少し面倒になって適当に相槌をうった。
二人の様子を見ていた、勇希は静香を下の名前で呼び捨に呼ぶ響樹を見て、プクッと頬をハムスターのように膨らませた。
「ま、またなんか怒っている・・・・・・」響樹は勇希が何に怒っているのか理解出来なくて、勇希から目を逸らした。やはり、静香にも食事の準備をするように促す必要があるなと思った。
「響樹、お前何処かに出かけるのか? 私の服を買いに行くのは昼からのはずだが」静香はいただきますも言わずに勇希の用意した朝食を食べだした。
「い、いや、ちょっと用事があって・・・・・・・俺は、現地で合流するから・・・・・・」響樹は誤魔化すように味噌汁を流し込んだ。
その様子を見て、勇希は少し首をかしげた。
「ご馳走様でした。 それじゃ俺、先に出かけますから・・・・・・」呟いてから響樹は席をたった。
「んー、なんだか怪しいわね」響樹と入れ違いでシンディがリビングに現れた。 彼女は未だに寝起きのままの姿であった。彼女は廊下で響樹の言葉を聞いて何かを感じたようであった。
「怪しいって、何がだ?」静香が口の周りの米粒をつけていた。 その米をシンディは摘んで自分の口に放り込んだ。
「・・・・・・・女がらみかな、あれは」シンディは腕組をして頷いた。
「女がらみ・・・・・・って、ちょ、ちょっと貴方なんて格好しているの?!」勇希はシンディの姿を見て、仰天した。 そう、シンディは昨晩と同じ、薄手のネグリジェでほぼ全裸に近い状態であった。かろうじて紐のようなパンツで下半身が隠されている。
「裸に近いほうがゆっくり眠れるから、私は毎晩この格好なのだけど、なんかおかしい?」言いながら自分の体を上から下を見た。
「これからは男の子が一緒にいるのだから、もう少し気をつけてよ!」勇希が顔を赤らめながら怒った。
「それ、いいな、私も欲しいぞ!」静香がネグリジェを見て目を輝かしていた。それは、玩具を眺める子供のように純粋な眼差しであった。
「よし、お揃いの奴を買おうか! どう、勇希も一緒に!」
「私は、要りません!」勇希はしゃもじを片手に激しく拒否した。
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