深い眠り

「はっくしょん!」夜になり、少し冷えてきたので空かしていた窓を閉めに行く。よくこんなに寒いのに平気で眠れるものだなと感心してしまう。


 よくも、この小さなスペースに三人も乗れるものだと呆れた。 響樹のシングルベッドは三人の女達に占領されていた。


 響樹の寝る場所は自動的にキッチンの前に決定した。掛け布団は引越しの時に余ったダンボールを使用することにした。なんだか、誰がこの家の主なのかわからなくなってきていた。


 窓から挿す月明かりで、勇希達の姿が見える三人は仲良く、絡まって眠っていた。


「ううん・・・・・・」 時折発する寝言のような、声が艶かしい。その声を聞いていると正直多感な時期の響樹には蛇の生殺しのような感覚に襲われる。


(こりゃ、眠れそうにないな・・・・・・)響樹は彼女達を起こさないように、そっと自分の定位置に戻ろうとした。


(痛っ!)静香の日本刀の鞘につまずき、ベッドの上に倒れそうになる。 両手でベッドの縁を押さえて持ちこたえた。目の前には眠る勇希の安らいだ顔があった。


(ふー、助かった・・・・・・)彼は、安堵のため息をついた。もう少しで顔面が激突してしまうところであった。


「う、う、うふん」勇希の両手が優しく抱きかかえるかのように響樹の首に回される。


(え、ちょ、ちょっと勇希・・・・・・先輩?)勇希は響樹の体を引き寄せるとベッドの中に押し込んだ。(えっ・・・・・・!)響樹は突然の事に驚き、目を大きく見開いていた。


 右腕を静香、左腕をシンディ、そして体の上に勇希が覆いかぶさり体の身動きが取れない。

(く、くるしい!)彼の体は完全に自由を奪われた。なぜか彼女達はプロレスの技でも掛けるかのように彼の体に密着した。


「た、助けて・・・・・・」彼は、ヘッドロックをかけられたまま、深い眠りの底に落ちていった。


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