自律思考型/接合点
第6話 旧世界を殺した者
高濃度魔素域調査員協会…
1つは人類の保護。デッドマンや変異した生物、異界からの侵略生物を討伐する事で民間人に被害が出ないようにする。
2つ目は資源確保。主要資源の採掘・採取地の防衛は当然、魔素域に残された希少金属や法化物質の回収は荒廃した世界を回すには最早欠かせない事だ。
そして最後の3つ目…最も難易度が高く、故に人類の希望である…
魔素域そのものの駆逐…。異世界人によれば『接合点』と呼ばれる人種が異界との門を維持しているらしい。
つまり奴らを倒せば門は消滅、世界から魔素は消えていくとゆう仕組みだ。
ちなみに門からは常に魔素が流入しているらしく魔素域は徐々に広がっている。この救世には時間制限が有るのだ。
「接合点を確認…。距離800m…。」
「よし、全員装備を確認しろ。100mまで接近して待機。そのまま討伐に移るぞ。」
この男達も…今まさに困難にして希望である3つ目を遂行しようとしている。
荒廃前の法執行機関が着用していた物を法化させた防具、武器はアサルトライフルが3丁とマークスマンライフルが一丁にハンドガンが4丁。これを4人が1つづつ装備している。
「30番台以上の特選部隊は何やってんですかね?…こんな事は俺達より向いてるでしょ。」
「仕方が無い。政府が動かせる戦力は集結させれたんだ。それに利益優先の奴らではいくら実力が有ろうと稼ぎ場である『魔素域』の元凶である『接合点』の排除なんて考えてないからな。」
調査員には民間と公務員の2種類がある。
魔素域の調査は常に命と引き換え。その為普通はどのような活動をするかは個人に委ねられている。それが民間だ。
一方の公務員は国からの要請に応える義務がある。国もその前提で要請を出すので生還を考慮した要請にはなるが…それでも命懸けの作戦を一方的に言い渡されるのは心的負担が大きい。
その変わりに公務員は装備品や弾薬の補助を国から受け取れる。なので強い意志がある者…例えばこの世界から『魔素域』を駆逐するなんて夢物語を本気で信じる者なんかが公務員には多い。
「弾薬を確認しろ。政府支給の法化ウラン弾だからな、無駄弾無く撃ちきれ。初段装填。」
隊長風の男の一声で全員がコッキングレバーを引き、マガジンから1発目を薬室へ送り込む。
法化は素の元素によって法化後の性質に大きく差がある。
それは希少な物質であればあるほどより強度や特異な性質を持つ傾向にある。
鉄や炭素は単純に強度が増していく。
銅やクロムは更に硬く。
銀や金、プラチナはより硬く。
男たちに支給された法化ウラン弾は法化物質の中ではトップクラスの硬度と比重を持つので弾丸には最適な素材だ。
ただ、原料のウラン及び劣化ウランは核施設とセットでおまけに放射能まで有するので公務員ならではの装備品となっている。
またそうした法化物質に魔素を反応させると物質が加速したり温度が上がったりなど…正しく『魔法』が扱えるのだ。
そんなロジスティクス化された魔法が生み出したのが衰退した世界の主力装備…
「『法銃』に不備は無いな?銃口が割れてるから弾が当たんねぇ!なんてほざく奴は俺が撃ち殺してから変わりに弾をばらまいてやる。」
「法銃がダメならナイフでやりますよ!!」
1人のジョークに4人全員が笑う。
ここは地球だ。魔素に溢れはするが突如現れる火球が謎に壁を抉るような『疑似質量』なんか持ってない…まあ突如火球が現れる事はあるかもしれないが…。
とにかく、そんなファンタジー小説で膨らんだ妄想はこの世界の『魔法』では無い。
魔素で強化された物質、それを刃物にしたり、銃にしたり…爆薬にしたり、それで撒き散らす破片にしたり…そんな物質を加速させたり加熱したり…これでも廃れる前の世界じゃ十分ファンタジーだ。
そう、とどのつまり…この戦いはどっちのファンタジーが凄いかを競うものなのだ。
「見せてやろうぜ。ファンタジーの世界から出てきた魔法野郎に…ファンタジー業界では新参の俺達自慢の超連携魔法…『穴だらけになって死ね』を…な。」
男達が一斉にビルから飛び降りる。獣人が2名と鬼人・竜人が1人づつ。
全員が肉体強度と筋瞬発力に長けた血統だ。
旧世界では建物の屋上と屋上の間にある2m程度の隙間を飛び越える動画が危険だ何だと言われ叩かれた。
だが今は違う。そんなものは『基本技能』であり、弾薬や体力の節約の為に敵との交戦を避ける為には出来て然るべき事なのだ。
暗い夜。4人の男達が10キロを超える装備品を身に付け建物の屋上を飛び回る。
「ロングショット、お前は大切な1射目だ。250m開けて頭を狙える位置を探せ。」
「了解ですキャプテン。」
「ファイターとポテトは1射目に合わせろ。敵に動きが無い限りワンマガジン全部撃ちきれ。」
「「了解。」」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
荒廃した街。二度と車が通る事の無い交差点のど真ん中で焚き木に串を通した肉を立て掛ける男が1人…。
「…やっと…、見つけたぞ…。」
白すぎる髪と肌。その手には本が有り、ブツブツと独り言を喋っている。
「…とうとう…この日が来たのか。これを読める日が…。」
そう言って手にした本…マンガの単行本の表紙を見る。
「デーモン・スレイヤーの20巻!!。いや〜探したよ〜。なんでデモスレのコーナー燃えてるとこばっかなの?鬼人か?…奴らが怨恨で燃やしたのか?。まあいい!!手に入ったのだから!!!。」
焚き火で炙っていた肉の串を手に取り、塊の肉へ豪快にかぶりつく。
「しっかし…フライングした奴らがいなけりゃしなくていい苦労だったんだけどなぁ…。過ぎたこととはいえやっぱり少し恨めしい。」
その顔をしかめて悔しがる男。
この3日間、この男はひたすらこのマンガを探していたのだ。
「…まあいい。取り敢えず読むか!。」
そう言って1ページ目を開き、サッと目を通すとすぐに2ページ目…マンガの本編へと目を通し……
「あばっ!。」
カアァァァンッ!!!
高硬度・高密度の法化ウラン弾を法化金属の複雑な組み合わせで作られる加速魔法陣を潜らせる事で圧倒的な初速を付与された…高エネルギーの弾丸。
そんなものが後頭部に直撃した男は…ビル街に響き渡る高音を鳴らしながら…本気で殴られたように頭部が前に大きく動き、両手で目の前に構えていたデモスレの単行本を自分の額で吹っ飛ばす…。
ボッ…。
「……痛ってぇぇぇ…。なんて奴らだ、人の後頭部をいきなり撃つなんて…、あぁぁぁあ!!!デモスレの単行本がぁ!!。」
右手で自身の後頭部を擦りながら左手で焚き火の中から火の移った単行本を持ち上げる…。
しかし、既に火が着いた乾燥した紙を救う方法は無く…。呆然と持ち上げた紙が燃え尽きるのを見つめる…。
「…これなんて拷問?。俺の3日間が……。だがしかぁし!!」
情緒不安定の様にいきなりまた騒ぎ出す。
喜びだした男…なんと、2冊目のデモスレ20巻の単行本を取り出したのだ!!。
「2冊目あったんだもんねー。そう、1冊目はフェイクさ!。後頭部に弾をぶち込まれその衝撃で焚き火にぶっ込む用のね!!。さぁ読むぞっ!!。」
そう言って1ページ目を開き、サッと目を通すとすぐに2ページ目…マンガの本編へと目を通し……
(fire《撃て》。)
50mまで距離を詰め、正三角形の頂点の様な配置で待機していた男達が一斉に射撃を始める。
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ………、
分間700発のレート×3丁で吐き出される法化ウラン弾。
旧時代では巨大な芯材として戦車の分厚い装甲おも突き破る徹甲弾として使われたりしていた素材だ。
しかし、放射能や粉末が自然発火性を有する物質なので法化は困難…。その為他の素材に比べれば法化のレベルは低いのだが、それでもその圧倒的な硬度は法化物質の中では最高峰となる。
5.56mm弾に加工されたそれは銀細工の法銃(ベースの素材に魔法陣用の法材を組み込んだ法銃の事。外側に露出しているのは1部の為、黒い銃に模様が描かれているように見える事から、〜細工の法銃と言われる。)のライフリンクに刻まれた加速の魔法陣になぞられる事で少ない火薬、短いバレルでも圧倒的な初速を得られる。
3方向から浴びせられる高エネルギーの弾丸。それは余すことなく白い男に命中し、その表皮に当たった瞬間に赤い光を発しながら明後日の方向に跳ね返って行ったり…体の丸みに沿って飛んでいったりしている。
そうして在らぬ方向へ向かいつつも高い威力を保持した弾がアスファルトを砕き、街灯をへし折ったり…辺りを破壊していく。
銃声の嵐がなりやむ…。
ワンマガジン(30発)を3人とも撃ちきったのだ。
痛い程の静寂が銃声で震えきった大気から発せられる。
「効果確認!出るぞ!。」
男達が交差点へ現れる。装備の重量を感じさせない、足音1つ立たせずにだ。
そして見る。その交差点の中央に立つ『それ』を…。
白すぎる男は傷1つ無く…ただ立っている。
白いその外観と不動の様から…まるで1つの像のように…
その目に『涙』を浮かべながら…。
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