第5話 血による塗り替え

俺は人間の母親から産まれた。妹も人間だ。


だが異界との門が開き、魔素濃度の高い地域は純人間ヒュームでは体の法化に対応できず死んでしまう。


なので魔素域の探索をする者達は異界から来たと思われる『異世界人』の血を輸血する事で亜人との『混血ハーフ』になり、魔素域に順応する。


これを血統クラスと言う。獣人ビースト霊森人エルフ竜人リザードマン鳥人ハーピィ血統クラスは異世界の亜人の数だけ有り、そして俺もまたエリーから血を分けてもらった混血ハーフだ。



「ユ〜君〜、今日は豚のしょうが焼きだよ!。食べにくいだろうから私が食べさせてあげるね♡。」


右腕は繋がったが今は欠損した部位もある為動かせない。左腕では箸を上手く使えない。

でも…


「い、いいよ。自分で何とかするから。スプーンとフォーク出してよ。」


「うぅ…。ユー君が…」


俯くエリー。縫合の後料理へ戻ったエリーは髪を後ろで1つ纏めにしている為、その白く美しいうなじが露になる。


「エ、エリーにお願いするよ。」


「ほんと?わぁーいっ!。じゃあ、はいっ…」


本当に…この溺愛っぷりを少しでも控えてくれればいいお嫁さんにも良い母親にでもなれるだろうに…。


「はい、あーん♡。」


「あ、あー……ん、美味い。」


「本当っ?。よぉっし!。」


両手を握りガッツポーズを取るエリー。実は出会った頃はあまり料理が得意では無かったのだが俺がうっかり言ってしまった『不味い』に衝撃を受けたのか、その日から動画で料理の練習を繰り返し、今では文句無しに『美味い』と言える腕前になった。


「いっぱい食べてね。2回目だし、沢山食べれば掛けた部分もすぐに治るからね。」


取れた腕がひっつき。縫合で固定していれば掛けた部分も再生する…。


いくら混血でもこのレベルの再生力を持つ血統はほぼ居ない。


「あっ、そうだった…『喉乾いてないの』?。」


そう、俺は特に再生力に優れた血統なのだ。それは他の血統からはあまり好かれて居らず、だが非常に高い身体能力と再生力を有する…


「『血』…飲んだらすぐだよ?」


「い、いいよ別に…。そんなに『渇いて』無いから。」


そう、俺と…俺の『元血』であるエリーは『吸血鬼ヴァンパイア』なのだ。膨大な数の物語で出てくる…在り来りな悪役や化け物、時に哀愁漂う主人公の吸血鬼だ。


「心外です…血奴隷であるクルツェの血を欲しがって頂けないのは…。」


「クルツェ…なに勝手に血を飲ませようとしてるのよ。ユー君が完全な吸血鬼になるまで私以外の血は飲ませません。ユー君が獣臭くなっちゃうでしょ。」


しゅんとするクルツェ…

吸血鬼は他種族の従者(兼非常食)を連れていることが多い。クルツェもエリーの従者…血奴隷と呼ばれる者だ。


「うぅ…クルツェもユタカ様を餌付けしたかったのですが…。」


「え、餌付けって…。クルツェはそんな事しなくても俺は信頼してるよ。」


「あぅ…。ユタカ様…。」


「こらっ!。私の前で良い感じになるなっ!。」


空いた口にしょうが焼きが突っ込まれる。これぐらいでヤキモチを妬かれるので…まあ、面倒くさい。


「ユー君のママは『私』で、ユー君のお嫁さんも『私』が予約済みなんだから。ユー君も他の子にデレデレしないの。」


「で、デレデレしてないよっ。」


確かにクルツェは…カッコ良さのある、それが魅力的な女性だが、俺からすれば姉の様な感覚だ。


まあ、エリーのママ設定にくらべればよっぽど姉と思いやすい。








「ユー君。ほら、おいで。」


夜も深け(吸血鬼にとってはゴールデンタイム)…もう寝ようとした頃、俺のベッドにネグリジェを着たエリーが既に横になっていた。


これは別に誘ってる訳では無い。エリーは3日に1回は添い寝を求めてくるのだ。

なんでもスキンシップで親子の絆を深めたいとか何とか…。


「ほ〜ら。早く来て。」


ベッドの空いた所をボフボフと叩きながら催促をするエリー…。


「わ、わかったよ…。」


言われるがまま同じ毛布の中に体を滑り込ませる。


すべすべとした生地のネグリジェとそれを超える肌触りのエリーの肌。


「ユー君。頭はここでしょ。」


俺の枕を自分の胸元に置くエリー。言う事は聞かなければいけない。エリーのネグリジェは布面積が少ないもので胸元も当然、開放的だ。


暗いとはいえエリーとゆう美少女の開放的な胸元が目の前にあり…とゆうか…


「はい、ぎゅー!!。」


ただでさえ近い胸を押し当てて来る…。ふわふわな胸はクッションなんてゴミに思える柔らかさで俺の顔をつつみ。すべすべもちもちの肌は俺と肌に吸い付いてくる…エリーの胸に顔を埋められるのは色々と考えてしまうがとても心地よい。


体の前面で感じるエリーの熱。顔は幸せな物でふわふわもちもちされ、頭は小さなエリーの手で優しく撫でられる…。


…とても幸せで心地よい時間。

この触れ合いは本来なら眠気を催すものかもしれない…。ただママ設定の刷り込みが甘いのか、エリーが美少女過ぎるからか…。


非常に…こう……悶々としてくる…。



「あぁっ。もう、ユー君ったら。これ…良い事して欲しいのかなぁ?。」


「う、うっさい。」


俺の唯一エリーに反応している部位をエリーが柔らかい太ももで『良い子いい子』をして来る。これで誘ってないと言うのだから問題が有るだろう。


「ここから先は…ユー君が一人前の『吸血鬼』になってからね?。だから…ママを早く女にして?。」


少し胸を離される。顔が開放されたのでエリーの顔を見てみる…。


熱に浮かされたような…湿り気と熱気を帯びた顔だ…。



(我慢しているのは俺だけじゃ無いんだな。)


「ママとの約束を覚えてる?。」


約束…初めて出会った時に聞いた『お願い』だ。


「分かってるよ。未熟な間は『母』として、一人前になれば『恋人』として…エリーの愛に応える事…。俺だって頑張ってるよ。」


吸血鬼は一度に完全な吸血鬼になる事はあまり無い。何故なら血を完全に入れ替えれば、元血である親は吸血鬼としての強さをかなり長い間失い。逆に子は得た力の大きさに『自壊』する場合が多いからだ。


先ずは半分。そうすることで子は劣化吸血鬼の様な状態になる。その間に親から吸血鬼の何たるかを教えて貰い。親に一人前と認められてから完全な吸血鬼に成る。


その際独り立ちする事もあれば、そのまま親に連れそう事もある。そもそも『血縁関係』に有るから親子と言っているだけで、最初から従者にする目的で吸血鬼にしたり、使い捨ての駒として吸血鬼にしたりとこの関係には様々な種類が有る。


「さすがユー君。100点満点だよ。ご褒美にちゅーしてあげるね。」


額に軽く口付けされる。


エリーはきっと…吸血鬼としては珍しく『愛』をこの関係に求めてくる。それはきっと他の吸血鬼達が血縁関係に求める物では無いかなと俺は思っている。


「おやすみエリー。今日はこれで勘弁してくれ。」


エリーからのキスに応える為にキスをエリーの胸の谷間にする。


絶対に健全な親子はこんな事しない…。なんてこと言ってしまえば最後…3日は晩御飯を抜きにされてしまうだろう。それなら健全でなくとも…むしろこの方が俺としてはありがたいのだが…キスを返す方が良い。



「んあっ♡…。もう、ママまでムラムラさせちゃうなんて悪い子…。おやすみユー君、右腕を下にして寝ちゃダメよ?縫い目がほつれちゃうから。」


あぁ、そうか。俺が寝返りをうって右腕が下にならないように添い寝をしてくれたのか…。やっぱりエリーは優しい…。



「んふっ…。(クンクン)ユー君のシャンプーの匂い…。はぁ、しゃぁ〜わせ(幸せ)……。もっともっとチュッチュしたいよぉ…(クンクン)。」


いや、私欲を満たしたかっただけか。

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