第2話 時が止まる街と俺
「悠貴《ゆたか》〜。起きなさ〜い!。」
「んん〜。…朝か。」
自室のベッドで目を覚ます。カーテン越しの微かな光が室内を照らし、外はよく晴れた朝なのだとモヤが掛かった頭で感じる。
右手で顔の横を探る。枕の横にスマホが置いてあるはずだ。
そう思っていたがどれだけ右手を動かしても手のひらサイズの端末を手に取る事は出来ない。
「ん〜。あれ?」
確かに寝る時はここに置いたはず…
枕の下へ手を突っ込む。すると固い感触があった。
何故かは知らないが朝起きた時、よく枕の下へスマホが潜り込んでいる。
手に取り、画面を付けると充電が8%と既に瀕死のスマホ。寝る直前まで触っていると朝起きた時毎回こうだ…。
「悠貴〜!!。ご飯食べないの〜!。」
母親が呼んでいる…。今日は土曜日で学校は当然休み、帰宅部の俺は早く起きてもゲームをする時間が伸びるくらいなのだが…。
母親はそれでも毎朝7時には俺を起こし、朝食を取らないのかと聞いてくる…。小さい頃は特に感じ無かったが今では少し鬱陶しい。
ベッドの上で上半身を起こし、軽く伸びをする。そのままベッドから降り、自室を出て短い廊下を進む。
「お兄ちゃんおはよう。」
「おはよう
「はいはい。」
そう広くない部屋の真ん中にテーブルが置いてある。そこにはイスが4脚あり、そのうち3脚の前に朝食が用意されていた。
俺はそのうちの一脚に座り、バターを塗られたトーストをかじる。
ふと目の端に映るテレビで垂れ流しになっているニュースに意識が向く。
専門家がニュースキャスターに新しいエネルギーだの、健康被害は無いだの言っている。
「気味悪いよな、この『魔素』っての。」
「そう?、今の所健康被害は無いって言ってるしさ、それに夜はキラキラして綺麗じゃん!。」
「そうね。結構近くに有るし、最初は不安だったけど…芸能人の人も取材に来てて結構楽しいわね。」
『魔素』とは1週間程前から世界中のあらゆる場所で突如観測し始められた『新元素』らしい。
なにせ確認されたのが1週間前で、その詳細勿論。そもそも調査すら終わっていない。
まあ、終わった所で何か分かるか知らないが…。
分かっていることと言えば常温では気体である事、光量の少ない場所では青く発光する事だ。
健康被害被害やら新エネルギーやらは自称有識者の憶測だと俺は思っている。
「ご馳走様!じゃあ私部活行ってくるね!。」
「食うの早っ。太るぞ?。」
「動いてるから太らないよ!。それ自分に言ったら?。」
そう言ってリュックを担いで玄関に向かう妹。休みでも朝から部活だなんて、俺には耐えられないな。
「
「俺もしばらくしたら出掛けるよ。欲しかったゲームの発売日だからさ。」
「よし、目標達成。さっさと帰って遊ばなきゃな。」
デブガイア 7
主人公がデブなのだが登場キャラのレベリング・やり込み要素、ダメージエフェクトの派手さ等が売りの隠れた名作だ。
しかもナンバリングが増える度に新要素が追加されていき、今では村でテーマパークを作ったりだとか、ターン制RPGのはずがFPSモードがあったりだとか…色々とカオスなテイストになっているがそれもまた面白いと根強いファンが居る。
当然、俺もそのうちの一人だ。
「今作はどんな要素が増えてるんだろうな…あぁ、楽しみだな…って、あれ?。」
自分の自転車に乗ろうとして気づく。アルミフレームが黒ずんでいるのだ。出掛ける時はデブガイアの事しか考えていなかったので気付かないのも無理は無いが…登下校にも使う自分の自転車の変色を見逃すだろうか?。
「アルミって錆びるのかな?。まあ錆びてもこれくらいなら問題無いだろう。」
不思議な事だが問題があったとして…どうしようも無い事を考えても仕方ない。
自転車に跨り、自宅の方を見る。
ここからなら急げば10分程で着く距離だ。なのだが今は、自宅に近づけば近付くほど人の往来や交通量が増えるので気をつけなければいけない。
「本当に、はた迷惑だな…『魔素』ってのわ。」
ロマンスとか好奇心とか…あんまりそうゆうのは得意じゃない。
「ん?、なんであんなに人が集まってんだ?。」
自宅までちょうど半分程、ここは『魔素』の濃度が特に濃いと噂されている場所だが…その近くの公園に不自然な人だかりが出来ている…。
「あー、そう言うことね。」
子供の遊具…滑り台の上に変な男が居る。そして周りの奴らはその男を写真だったり動画だったりして取っているのだ。
白すぎるほど白い肌と髪。その髪は長く、腰の方まで伸びている。
身に付けているのはトーガと言えば良いのだろうか?、壁画に描かれている天使とか神様…古代ローマだかギリシャの人々が着ていそうなイメージの体に布を巻いた感じのやつだ。
『魔素』が確認されてからこうゆう奴は度々出てくる。『魔法の世界』っぽい格好をして集まるのだ。
「みんな!!、僕達の移住を認めてくれないかい!!。見た所ここも1つの国家なんだろ?。誰か偉い人を呼んでくれ!!。」
その男が大きな声で叫んでいる。なるほど、異世界人が引越ししてくる設定か。
その男の言葉に観衆はクスクスと笑う奴もいれば「すぐに来るぞぉ!」っとはやし立てる輩もいる。
「アホくさ。こんなバカ騒ぎしてたらすぐに警察が来るだろ。」
男が叫ぶ度、ボルテージが上がっていく観衆。近くを通った人も好奇心旺盛な奴はその群れに加わり、俺みたいに冷めた奴は冷ややかな視線を向けている。
「ちょっと君!。この騒ぎは君が原因だね。直ぐに降りなさい!!。」
ほら来た。警察だ。近くの住人か俺と同じような視線を向けている奴の誰かが通報したのだろう。
「た、確かに。少し盛り上げ過ぎたようだ!。所でこの国を偉い人をここに呼んでくれないかい?。僕はまだこの辺から動けないんだ。」
男の言葉で観衆が大爆笑する。おちょくられた警察は顔を赤らめ滑り台に登り出す。
「君!、良いから降りなさい!。全く、遊びのつもりなら終わり際をしっかり見極めないと…捕まるよ?。」
警察官が男の手を握ろうとする。逮捕するつもりはなく、あくまで目立つ所から降ろそうとゆうだけの様だ。
「あ!僕には触らない方が良いよ!!。君達は
「五月蝿い!!。全く、遊びと言っても度が過ぎるぞ。」
再び爆笑する観衆達。だが警察が男の手を握り、滑り台から降りる様を想像してか少し熱が冷めてきつつあるようだ。
これでこのバカ騒ぎもおしまいだな。
「えっ?」
警察官の嬌声。
続くように急速に凍りついたような音がなる。弾性のあったものがみるみると固くなっていく音だ。
「だから言ったのに。まあ
観衆が静止する。何だ?何が起きた?何故お前らはバカ騒ぎを辞めた?。
その答えはすぐに分かった。周りを囲んでいた観衆がそれぞれの悲鳴を上げながら散らばっていく。
そして残ったのは滑り台の上の2人。
片方は言わずもがな…白い男。
そしてもう1人は…
黒く変色してしまった警察だった『物』だ。
「な、…なんで。」
突如視界が暗転する。
かと思えばまたいつもと同じ色彩の景色が広がる…。
「君!そこの君!。上だよ上!。上を見な。」
警官を黒い像に変えた…白い男がこちらへ言ってくる。
言われた通り上へを見る。
「っ?!…、なんなんだよこれ。」
空高くに球体が浮いていた。
それなりの高度に中々の大きさの物が浮いている…っと感じた。
「あーあ、誰かフライングしたな…。向こうの住人にも早くこっちへ『来たがる』奴も居るし…こりゃもうダメだな。おい君!、家畜とか餌になりたくないなら逃げなよ!!。僕は君達がどうなっても別に興味無いからさ!。」
ズンッ!空から何が降ってきた。
全身が黒色の蜘蛛だ。その大きさは2m程だろうか?明らかに異常なサイズが空高くから落ちてきた。その外皮は金属のような光沢を放っており、『怪物』と呼ぶにふさわしい。
蜘蛛が駆け出す、先程散らばったように見えた観衆の中の一人が男の事を動画で撮っていたのか近くでスマホを男に向けていたのだ。
そして呆気なく捕まる。男が蜘蛛に狙われると気づき逃げようと後ろに向いた時には既に背後から蜘蛛の牙に貫かれていた。
しかし、野生動物が単なる殺しの為に殺傷を行う例は珍しい。つまり、殺すという事は『食べる』とゆつことであって。当然この蜘蛛も…。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!!。」
ミチミチ、パキパキ。肉を食いちぎり、細い骨を噛み砕く粗食音と共に男の叫びが響く。
「こ、これって…。」
街のあちこちから悲鳴が上がる。上を見るとこの蜘蛛だけでなく色々な化け物が降ってきている。
「普通にヤバいだろ!!。」
自転車を本気で漕ぎ出し。とりあえず自宅に向かう。どこが安全なのかは分からない。だがとりあえずこの場から離れなければ行けないのならまずは自宅に…
母さんは家に居るはず…。妹…明菜は部活もう終わってたりしてないだろうな…。
「あぁ、クソ!。やっぱり『魔素』なんてろくなもんじゃなかったんだ!!!。」
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