58話 いざ魚獲り

「じゃあ、ちょっと行ってきます」

「おう」

「気をつけてね」


 チロはゴーダとヒナに束の間の別れを告げると、キングを頭に乗せて湖の中に入っていった。


「キュアァ……」


 キングが頭の上で不安げな鳴き声を上げる。

 チロが何をするつもりなのか分からないからだろう。


 そんなキングを「まあまあ」となだめながら、チロは平泳ぎで少し水深のあるところまで泳いでいった。


 そして、そこで泳法えいほうを立ち泳ぎに変えると、


「よし、じゃあこれからやることを説明するからな」


 とキングに話しかけ、その体を頭から引き剥がした。


「今からおれが水に顔をつけて魚を探すから、見つけたらお前の力を借りたいんだ。……キング、水の中でアイフラッシュって使えるのか?」


 チロの質問に、キングが「キュアァ……?」と首をかしげる。


 おそらく、試したことがないのだろう。


「そうか、それならそれでいいんだ。けど、試しにやってみてくれないか? もしそれができるなら、魚を楽に獲れると思うし、お前にもたくさん食べさせてやれるからさ」

「キュアッ、キュアァッ」


 魚をたくさん食べられるという言葉に、キングのやる気ボルテージが一気に上がった。


「よし、じゃあよろしく頼むぞ」

「キュアァ」


 もう一度キングを頭の上に乗せ、チロが顔を水面につける。


 そしてそのままじっくりと水中を観察してみた。


 水の透明度は高く、透き通った世界が広がっている。


 ギリギリ見える湖底には、藻の生えた小石のようなものが敷き詰められていて────


 そしてその近くに、魚はいた。


「ぶはっ」


 チロは勢いよく水中から顔を上げ、肺に空気を取り込んだ。


 息が続かなかった…………訳ではない。


「はぁっ、はぁっ、なんで…………」


 荒い呼吸を繰り返しながら、チロはさきほど見た光景を脳内に思い浮かべた。

 

 湖の底をゆっくりと漂うように泳いでいた魚、それは────


「なんで、アンコウなんだよ! しかもチョウチンアンコウ!」


 これまたタコと同じく海洋生物であるはずの、チョウチンアンコウだったのだ。

 

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