57話 魚を食べるために
ヒナが水遊び(ひたすらバタ足で泳ぐだけ)から帰還したため、チロたちは当初の目的通り、湖で魚を獲ることになった。
…………のだが、
「えっ、釣りじゃないんですか?」
「竿も針も糸もないんだから、釣りなんて出来るわけないだろ」
ゴーダに「どうやって釣るんですか?」と尋ねた際に返ってきた「釣りなんてやらんぞ」発言により、チロが頭の中で思い描いていた『みんなでのんびり魚を釣る』というほのぼのした映像は、脆くも崩れ去っていた。
「それはそうですけど……じゃあ、どうやって魚を獲るつもりなんですか?」
「そりゃお前……」
重ねて尋ねるチロに、ゴーダが手で水をかき分けるような仕草をした。
それを見た瞬間、チロの背筋に冷たいものが走った。
────潜るつもりだ。
ゴーダは身ひとつで湖に潜り、素手で魚を捕まえてくるつもりなのだ。
はっ、とチロは視線を近くに立っているヒナに移した。
「んっ、んっ、ん~っ」
ヒナは頭の上で手を伸ばしたり、体を反らしたりしている。
さっきまで散々バタ足で泳いでいたというのにストレッチなんてする必要があるのか、という疑問はさておいて、どうやらヒナもやる気まんまんのようだ。
「えー…………」
ひとりテンションの上がらないチロは、若干引き気味の声を上げた。
だって、どう考えても無理な話なのだ。
魚のホームグラウンドである水中に入り、なんの文明の利器も頼らずにそれを捕まえようと言うのである。
バタ足で湖のヌシに追いついたというゴーダならまだしも、チロにはそんなやり方で魚が獲れるとは思えなかった。
「キュアァ」
チロがどうやって無為な素潜りを回避するか考えていると、いままで泳いでいたらしいキングが戻ってきた。
キングは「楽しかった」とばかりに一声鳴き、ペタペタとチロの体を登り始める。
定位置である頭の上に乗りたいのだろう。
「……あっ、そうだ!」
「キュアァッ!?」
だが腰の辺りまで登っていたキングを、チロがいきなり捕まえた。
そして、驚きの声を上げて固まるキングをヒナとゴーダの前に突き出すと、
「おれに、いい考えがありますよ。潜って魚を追いかける前に、少し時間をくれませんか」
自信有り気な顔で、そんなことを言った。
事態を飲み込めていないキングは、チロに握られたまま「キュアァ……?」と不安げな声を上げるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます