59話 アンキモ

「…………」

「…………」

「…………」

「キュアッ、キュアッ」


 チロの作戦通り、水中でもキングのアイフラッシュは正常に作用した。

 水の透明度が高かったのも、成功した要因の一つかも知れない。


 結果、光を浴びた魚は麻痺して浮かび上がり、苦もなくチロたちは魚を手に入れることができたのだ。


 ただ、キング以外の反応を見てもわかるとおり────


「…………キモイな、コレ」


 手に入れた魚の外見は、はっきり言ってキモかった。


 遠目から見たときはチョウチンアンコウのようだったのだが、実際に近くで見てみると、似ているのは全体的なフォルムだけだった。


 まず、体は斑点はんてんのあるヌルリとした皮膚に覆われている。

 

 そして顔には目が三つあり、本来であれば口があるべき場所には何もなく、普通・・のチョウチンアンコウなら発光体がついている部分に、人間の唇によく似た形の口がついているのだ。


「なんか、俺が求めていたものとは違うな……」


 ゴーダがキモイアンコウ────略称『アンキモ』を見下ろしながら呟いた。


「おれもです」


 それに対し、チロも同意を返す。


 チロがイメージしていたのはマスとかイワナなどの淡水魚で、そうでなくても最悪ドジョウのようなものが獲れればいいな、と思っていたのだ。


 そしてそれを枝に刺して焼き、ショーユをかけ、シトラ草を絞って食べる。


 そんな、アウトドアかつ和風な食事風景を想像していた。

 

 だが現実に獲れたのは、環境汚染の進んだ近未来を舞台にした映画とかに出てきそうな奇形の魚である。


 大きさも一抱えほどはあるし、どう考えても枝に刺して焼くのは無理だろう。


「……これ、どうやって食べるの?」


 同じことを考えていたようで、ヒナがそんな質問をしてきた。

 

 それに対し、


「…………鍋、かなぁ」


 アンコウの食べ方をほかに知らないチロは、そう答えるしかないのだった。


 

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