第30話 悲鳴

「な、なんだなんだっ?」

「キュ、キュアッ、キュアァッ」


 突如として洞窟に響いた叫び声に驚き、チロとキングは飛び起きた。


 キョロキョロと辺りを見回すが、何も見当たらない。


「キャァァアアアアアッ!! イヤァァアアアアアッ!!」


 また、聞こえた。


 どうやら、洞窟の入口あたりから響いてきているようだ。


「キング、行くぞっ」

「キュアァッ」


 チロはキングを頭の上に乗せ、洞窟の入り口に向かって走り出した。

 

 悲鳴は続いている。


 それは間違いなく、長らく聞いていなかったの声。

 恐怖に直面した時に、人が発する悲鳴だった。


 この世界に生まれ変わって、チロはまだ人にも、人型の生き物にも出会ったことがない。


 たどり着いた先にいるのが人間だったら、自分はどうすればいいのだろうか、そしてどうなるのだろうか。


 チロは走りながら考えていた。


 自分はかつて人だったが、今はゴブリンである。

 

 もしこの世界で人間とゴブリンが敵対していたら、出会い頭に襲われるかもしれない。

 

 それを懸念してキングを連れてきたのだが、麻痺させたところで、それからどうするべきなのか。


 殺す?


 そんなことはできない。

 麻痺して無抵抗の人間を殺すことが出来るほど、チロは無慈悲ではなく、またそんな度胸もなかった。

 

 かといって、そのまま放置すれば仲間を連れて襲撃に来ないとも限らない。


 そんなことになれば、最悪、この住み心地のいい洞窟を捨てる事になるかも知れないのだ。


 それでも…………


「イヤァァアアアアッ!! やめてっ!! だれかっ…………だれか助けてぇ!!」


 必死に助けを求めるその声を無視することなど、チロにはできなかった。


「…………っ」


 迷いを振り切るように、チロは走った。


 そして────











 チロは見た。


 火のついた松明を必死に振り回しながら、迫り来るヒルヒルの群れから逃げ惑う、薄い緑色・・・・の肌をした美しい少女の姿を。

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