第22話 水晶の真実

「────はぁっ、はぁっ、くそっ、なんで……っ」


 荒い息を吐きながら洞窟の拠点に戻ってきたチロは、地面に膝をついて項垂れた。


 その姿は土にまみれ、腰ミノもほとんどなくなっており、散々な有様ありさまである。

 

 いったい何をやってきたのかというと、チロは水晶の欠片で作った槍を携えて、角ウサギに挑んできたのだ。

 そしてものの見事に失敗し、命からがら逃げ帰ってきて今に至る、という訳である。


『スライムが恐れる水晶=魔物に特攻性能がある魔法鉱石』という方程式のもと、チロは「今度こそ肉が食べられる」と喜び勇んで出かけたのだが、どういう訳か、角ウサギにはなんの効果もなかったのだ。


「…………」


 チロは、水晶の穂先が付いた槍を見つめ、どこで間違ったのかを考える。


 そして、はっとした表情になると、orzと崩れ落ち、叫んだ。


「俺、ゴブリンじゃないかっ!」


 そう、『魔物に特攻性能がある』と言うならば、そもそもゴブリンであるチロが触った時点で、何らかの反応があってしかるべきなのだ。 


 だというのに何も感じなかったということは、その前提が間違っていたということに他ならない。


 つまり、水晶には不思議な力などなかったということだ。


「じゃあ、なんでスライムは…………」


 と、チロはまたいつの間にか洞窟に湧いていたスライムに視線を移す。


 スライムは、明らかに水晶を避けていた。

 そして水晶を当てた部分は泡立っていた。

 

 あれは、一体何だったのか。


「…………」


 もう一度、スライムに水晶の欠片を近づける。

 

「(ウネウネウネウネッ)」

 

 スライムは逃げる。


 水晶を当てる。


「(シュワシュワシュワ…………デロリ)」


 スライムは溶ける。

 そして死ぬ。


 その光景をどこかで見たことがあるような気がして、チロは首をひねった。


 そして数分後、はっとした顔になると水晶の欠片ををまじまじと眺め────おもむろに、口の中に放り込んだ。


「これ…………塩だっ!」


 チロが思い出したのは、前世でナメクジに塩をかけた時の光景だったのだ。


 口の中に広がる塩味を、チロは目を閉じて味わった。


 洞窟で見つけたのは、水晶でも、魔法の鉱石でもなかったが────


 それ以上に素晴らしいものを、この日、チロは手に入れたのだった。

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