第二章
第21話 水晶の正体
洞窟を新たな拠点として定め、住み始めてから数日が経過していた。
それは、実に快適な日々だった。
やはり野宿と違い、屋根や壁があるというのは安心感が違う。
しかも泉の水は澄んでいるし、インテリアの水晶の柱は綺麗だし、洞窟内に生えている植物は基本おいしかった。
以前の拠点であった池の畔に比べれば、天国のような場所である。
ただ一つ、チロに不満があるとすれば────
「…………またいるよ」
それは、どこからともなく現れるスライムだった。
別に、スライム自体に害はない。
襲いかかってくるわけでもなし、食料を奪っていくわけでもなし、ただ、そこにいるだけである。
だが、音も気配もなく、いつの間にやら近くにいたりするので、気づかずに踏んでしまうことが何度かあったのだ。
地面が土ならば、それほど気にすることはなかっただろう。
転んだところで、擦り傷を負う程度で済むからだ。
しかし、今チロがいるのは、岩山に開いた洞窟の中。
つまり天井も壁も床も、全て岩で出来ているのである。
こんなところで転んで頭でも打てば、ただでは済まないだろう。
だからチロは、スライムを発見するたびに駆除していたのだが…………
「こいつら、無限にPOPするんじゃないのか?」
そう思わざるを得ないほど、スライムは頻繁に現れるのだ。
そのエンカウント率は、少ない時でも2~3時間に一度、多い時は30分に一度にもなる。
スライムは槍でちょんと突くだけですぐ死ぬので、駆除自体は非常に簡単だ。
だが、どれだけ簡単な作業でも────いや簡単な作業だからこそ、何度も繰り返すことで倦怠感が生まれるのである。
いいかげん、チロはうんざりしていた。
「はぁ……っ」
と、ため息を吐きつつ、チロはヌメヌメと低速で移動するスライムを眺めていた。
何処に向かっているのかは、分かっている。
泉だ。
スライムはどうやら水に惹かれるようで、放っておくと泉の
何をしているのか、そしてどこに消えるのかは、全くの謎である。
スライムの習性について考えながら、チロはその動きを目で追っていた。
そして、あることに気づく。
スライムが、蛇行して移動しているのだ。
まっすぐ進めば泉があるというのに、わざわざ一度横にずれ、それから大回りして泉に向かっているのである。
スライムが避けたのは────水晶の柱だった。
「…………まさか」
チロは立ち上がると、今までインテリアとして眺めるだけだった水晶に近づき、触れた。
綺麗な鉱石。
それだけのものだと思っていた。
しかし、スライムがわざわざ大回りをしてまでこの水晶を避けたのには、何らかの理由があるはずである。
「もしかすると、もしかするのか……?」
そう呟くと、チロは足元に落ちていた石を拾い上げ、比較的小さいサイズの水晶めがけてそれを投げつけた。
ガッ、と音が鳴り、石が水晶に直撃する。
流石にそれで砕けるようなことはなかったものの、水晶の一部が欠けて地面に落ちた。
「…………」
拾い上げた水晶の欠片をしばらく眺めていたチロは、おもむろにスライムに近づくと、手に持った破片をスライムに向かって突き出した。
すると────
「(ウネウネウネウネッ)」
今までに見たことのない速さで、スライムが逃げ出そうとしたのだ。
……まあ、速くなったとは言っても、ナメクジがシャクトリムシになったくらいの違いしかないので、逃げ切れるはずがない。
そのままチロが水晶を押し付けると、スライムは一度ブルリと震え、すぐに動かなくなった。
水晶が当たっている部分は、シュワシュワと音を立てながら泡立っている。
「やっぱりっ」
チロは確信し、声を上げた。
この水晶は、ファンタジーにありがちな魔法の鉱石────
魔物とかに特攻性能があったりする、そういう不思議物質に違いない。
そう思ったのだ。
「これで……これで、ようやく…………」
欠片を握り締め、チロは決意を込めた瞳で行動を開始した。
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