第3話 チロ
田中はorzと崩れ落ちていた。
なぜなら、生まれ変わった先がよりにもよってゴブリンだったからだ。
どうしてそれが分かったのかというと、やけっぱちで「ステータス! ステータス!」と叫んでみたら、ほんとにステータスが出たからである。
それには、こう書いてあった。
----------ステータス----------
個体名=タナカ チロ
種族=ゴブリン
能力値
筋力=F
体力=F
知力=E
魔力=F
パッシブスキル
毒耐性
麻痺耐性
成長阻害
アクティブスキル
生活魔術(初級)
------------------------------
────以上である。
ステータスが表示されるなんて、なんともファンタジーな展開だ。
……だが、それどころではない。
そのステータスが、もはや何から突っ込んでいいのか分からないくらいにひどい内容なのだ。
そもそも
カタカナなのはまだいいが、『タナカ チロ』ではどちらかと言えば犬の名前である。
なぜア行を省略したのかと、
次に、種族である『ゴブリン』。
これはまあ、ラノベではなきにしもあらずといった種族ではあるし、体の
だが、この世界でのゴブリンがどのような立ち位置にいるのか分からない以上、楽観視はできない。
なにせ、能力値は『知力』を除いて軒並み『F』である。
アルファベット表記であるからには、最低でもこの上にA、B、C、D、Eの五段階があることが予想されるので、Fが高い方でないのは確かだ。
一応大学を出ているにも関わらず、知力がEなのも納得がいかない。
確かに卒業できるギリギリを見極めてほとんどサボっていたが、それはそれ、これはこれだ。
この世界の教育レベルがどの程度なのかは知る由もないが、チロとて義務教育を9年間、高等教育を3年間、大学教育を4年間と、計16年間もの時間を勉学に費やしてきたのだ。
その結果が『知力E』では悲しすぎる。
「…………ふぅ」
チロは天を仰ぎ、一度息を吐いて呼吸を整えてから、視線をステータスに戻した。
次は、異世界ものではお馴染みの『スキル』だ。
まずは『パッシブスキル』。
これは田中が…………いや、もはやゴブリンとして生まれ変わった『チロ』が持っている前世の知識と同じ意味ならば、自動発動型ないし
人間の臓器や自発呼吸と同じようなもので、自分で意識しなくても勝手にやってくれるスキルということだ。
『毒耐性』
これはいい。何が食えるのか食えないのか全く分からない異世界において、かなり有用なスキルと言える。
『麻痺耐性』
実生活において麻痺するという事態に
だが、問題はこれだ。
────『成長阻害』
なぜこんなスキルが、と考えたとき、チロには『毒耐性』と『麻痺耐性』の二つも含め、心当たりがあった。
それは、前世での行いが今の能力に影響しているのではないか、ということだ。
生前の田中一郎は、上昇志向無い系のダメリーマンだった。
やる気がなく、野心も理想も、夢も希望も特になく、趣味といえば触る程度にゲームやラノベを楽しむだけの人間だった。
必死にならなくても生きていける世の中で、必死になれることを見つけられない人間だった。
いや、
それはつまり成長する意思がない……言い換えれば、『自らの成長を阻害している』ということにならないだろうか?
そして『毒耐性』と『麻痺耐性』に関しては、自身の死因であるフグの毒が影響しているように思われた。
うろ覚えの知識でしかないが、チロの記憶ではフグの毒である『テトロドトキシン』というのは、全身が麻痺して死に至る毒だったはずだ。
麻痺する毒で人生を終えたから、次の人生────いやゴブ生ではそれに対する耐性を得た。
そう考えていいのではないだろうか。
「じゃあ、こっちもやっぱり、前世が影響してるのか……?」
チロは表示されたステータスの『アクティブスキル』に意識を移した。
アクティブスキルというのは、これもまた前世の知識と同じ意味を持つのであれば、
手を動かす、足を動かすといった肉体の操作と同じように、勝手に発動するのではなく自らの意思で発動させるタイプのスキルということだ。
そしてチロが持っているのは────『生活魔術(初級)』
魔術というワードは入っているものの、その前についている『生活』の文字、そして後ろについている『(初級)』の文字が、このスキルの期待値を大幅に下げていた。
しかし、その前後についた二つの文字こそが、『今の能力=前世の行いによって決まる説』を裏付ける要因となっているのだ。
田中一郎は、インドア派だった。
それは単純に
金がかかるので外食やコンビニ飯は食べず、自炊をしていた。
鼻の粘膜が
生活する上で
だからこそ、『
orzと崩れ落ちた姿勢のまま、チロは後悔していた。
もし、前世でもっと真面目に生きていたら、有用なスキルが手に入っていたかもしれない。
もし、前世で夢や希望を持っていたら、『成長阻害』なんていうバッドスキルは付与されていなかったかもしれないのだ。
「…………こんどは、もう少し真剣に生きてみようかな」
誰に言うでもなく、チロは呟いた。
さしあたってやるべきは、『生活魔術(初級)』の使い勝手を確かめること────
────いや、違う。
チロはゆっくりと立ち上がると、辺りを見回した。
そして、木の幹に絡まったツルや、その辺の長めの草をむしり取ると…………
自らの腰に装着して、とりあえずは股間を隠すのだった。
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