7日目

「あ、おかえり」

 母は普段なら、その時間は台所で夕食を作っているのが定石だが、どうした事か今日は呑気に食卓に座り、何やら重そうな物を笑顔で眺めている。


「……アルバム? 」横目で母の様子を窺いながら冷蔵庫からチェリーコーラを出す。それを持って食卓に向かう途中でキャップを捻った「プシュ」と小気味いい音が鳴る。


「ねぇ~寝室を片付けてたら押し入れから出てきてねー。今夜はお父さんがお寿司を買って帰ってくれるっていうから、懐かしくみてたのー」

 まるで、同級生の女子の様に浮かれた声でそう言う母に、気恥ずかしさもあって「ふぅん」とだけ返してコーラを口に含む。


 どうやら見ているのは、俺と姉がまだ小学生にも上がっていないころだ。


「懐かしいわ、あんたよくお母さんに訊いてきたのよ? どうして、お姉ちゃんはお姉ちゃんなの? ってね」

 俺は、コーラを黙って飲むと、一回げっぷを吐く。

「汚いわねぇ」

 母は眉を顰めるが、すぐに写真に視線を戻して話を続ける。


「それはね? お姉ちゃんが貴方より先に産まれたからよ」


「でも、僕たちは同じ日に産まれてるよ? 」


「同じ日でも、先に産まれたのがお姉ちゃんだから、お姉ちゃんなのよ」


 一人芝居の様に母が、会話劇を始める。どう反応する事も出来ずに俺は空になったコーラのペットボトルを飲む振りを続けた。

 そんな、俺に母は優しい視線を向ける。

「本当、2人とも大きくなってくれたわ」


 そんな時、玄関から音が聴こえ「ただいまー」と少し間の抜けた声が聴こえた。

「お姉ちゃんが帰って来たみたいね。さ、あんたも部屋に戻って着替えてらっしゃい」そう言うと、母は立ち上がってアルバムを大切そうに抱えていく。


――異世界転生まで

  あと93日――

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