5日目

「やばい、ピザまんなくなってる……」

 週刊漫画雑誌を買いに寄ったコンビニで思わず口に出した。


「はい、いつもありがとうございます。

 また、すぐにあたためますが少々お待ちいただけますか? 」

 それに反応したここのオーナーの奥さんと思われる美人さんにそう言われて、ばつが悪くなった私は「い、いえ、ダイジョブです」と、言ってそそくさと店をあとにした。

 しまった。目的の漫画雑誌……

 仕方ない。不本意だけど今回はレンタルで済ませよう。


 帰宅すると、ドアを開けつつノックを行い部屋に侵入。


「どわぁあ‼ 姉ちゃん、今確実にノックの前にドア開いてただろ‼ 止めろよそういうのーーー‼ 」

 私はお構いなく横目でパソコンのモニターを牽制しながら本棚の前に大切にレジ袋に入ったままのそれを手に取った。


「げげっ‼ ど、どろぼう‼ それ、まだ読んでない‼ 」

 そう言って、掴みかかられそうになったので

「きゃーーーー」と大袈裟に悲鳴をあげてやる。

「うぬぅっ‼ 」弟は、いつも女に弱い。姉として私はもう弟を攻略しつくしている。私が、雑誌を奪うと決めた以上、これはもう防ぐ術など弟には有り得ないのだ。


「だ、ダメだ‼ それは読まなくちゃいけないんだ‼ 」

 悲鳴でたじろんだはずの弟が再起動した。

 ――バカな。そんなん考慮しとらんよ?


「き、きめつだけ読んだら返すから」


「嘘つけ‼ 」


 性別の違いはあるが、弟と体格はほぼ互角。となると男である弟の方が長期戦になると有利だ。まずい。だが、ここで退いては姉が廃る。


 掴まれそうになったレジ袋を素早く背中に隠した時――だった。

 勢い余った弟の手が、私の豊かな……とは言えない胸を掴んだ。


 時間が、止まった。


「なにすんのよ、ばかあああああああ‼ 」

 思わず、手に持っていた物を弟の顏に、力いっぱい投げつけてしまった。

 そして、その勢いのまま、部屋を飛び出した。

「しんじらんない、すけべ、バカ、痴漢‼ 」興奮冷めやらぬ私は聞こえる筈のない廊下で更に弟に怒りをぶつけていた。


「あ……」

 そこで、自分が空手である事に気付くのだった。


――異世界転生まで

  あと、95日――

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