036 これは気まずい桜庭くん


「さ、桜庭さくらばくん……今、なんて?」


 桜庭くんと二人きり、いつもの放課後。


「いや……だから、遊園地に行かないか、って」


 でもこの日は、普段と様子が違っていた。


 っていうか……うそぉ⁉︎


「ゆ、遊園地って……ホント? ホントに行ってくれるの……?」


「ホントだって。べつに、嫌ならいいけど」


「ううん! 行きたい! 絶対行く!」


 だってそれって、つまりデートってことでしょ!

 桜庭くんからデートのお誘いなんて……!

 そんなの、行くに決まってるもん!


「……そっか。じゃあ、いつにしようか」


「いつでもいい! 今週末でも!」


 とにかく早く行きたい。

 桜庭くんと遊園地デートかぁ……。


「急だね。まあ、僕も予定はないけど」


「じゃあ土曜日ね! 決定!」


 あっさり予定が決まって、私はスマホの手帳アプリに、『桜庭くんとデート!』としっかり書き込んだ。


 楽しみすぎる。

 めちゃくちゃ気合入れないと!


 あれ? でも……。


「……どうして、急に誘ってくれたの? 桜庭くん、遊園地とか好きじゃなさそうなのに。それに、デートだって誰かに見られたら……」


「そ、それは……なんていうか」


 桜庭くんはなぜだか、困ったように目を泳がせていた。


 こんなこと言うと悲しくなるけど、桜庭くんはきっと、私のことを好きになってくれたわけじゃない。

 ま、まあ最近、特にゴールデンウィークはすごく優しくて、正直何度も叫びそうになったけど。


 でも、それは私に気を使ってくれたり、心配をしてくれただけなんだと思う。

 優しい桜庭くんが、わがままな私の勢いに押されて、折れてくれただけ。


 だから、こうしてデートに誘ってくれるのだって、たぶんなにか、わけがあるんだと思うんだけど……。


「……ただ僕らはあんまり、ちゃんとお互いのことを知らないんじゃないかと思ってね。だから、まあ……」


「……そ、そんなこと思ってくれてたの?」


「う、うん……」


 桜庭くん……!


 ああ、もう、好き。

 好きすぎる。


 遊薙静乃しずの、全身全霊で桜庭くんを楽しませると誓います!


「そう言えば、遊園地ってどこに行くの?」


「え、いや、全然決めてない」


「えっ」


 なんですと。


「僕、遊園地なんて小さい頃に家族で行ったきりだから。どこがいいとか、よくわからないんだ」


「じゃあどうするの?」


「悪いんだけど、遊薙さんにお任せしようかと……」


 あら。

 じゃあ、どうしてあえて遊園地?


 ……まあいっか!

 桜庭くんがそう言ってるんだし、私は彼女として、全力で良いデートにしなきゃね!


「遊薙さん、そういうの詳しそうだしさ」


「うん、わかった! 任せて! どんな感じのところがいいの?」


「特に。ただ、あんまり近場だったり、人気な場所だと知ってる人に会うかもしれない。それは避けたいかな」


「そっか……。じゃあデ◯ズニーとかユ◯バとか、そういうところはダメってことね?」


「そうだね。って言うか、ユ◯バは遠すぎるでしょ、そもそも」


「例えばの話だもん」


「きみはアクティブだし、ホントに行きそうだよ」


「さすがに行きませんー!」


 私が笑うと、桜庭くんもクスクスとおかしそうに笑ってくれた。

 あぁ……デートの話で桜庭くんと笑い会えるなんて、遊薙静乃、幸せです。

 

「それじゃあ、いくつか選んでまた連絡するね!」


「ごめんね、ありがとう。お願いします」


「ううん! ぜんっぜん気にしないで!」


 私がそう言っても、桜庭くんはすごく申し訳そうな顔をしていた。

 ホントに気にしなくていいのになぁ。

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