035 なにか気づいた白戸さん


「単純に、カップルがどういうときに別れるかって話なら、やっぱり喧嘩じゃない?」


「ほ、ほお。喧嘩」


「うん。まあ正確に言うと喧嘩は結果だから、喧嘩になるだけの理由があるわけだけどね」


「その理由ってなんだろう」


「すれ違いとか、浮気とかが多いだろうけど、そういうのはダメなんだよね」


「まあね。今回は」


「なら、付き合う前には見えなかった相手の悪い部分が、だんだん見えて来たり、とか」


「……おお?」


 なんだかそれは、とてもそれっぽいのでは。


「一緒にいる時間が増えると、相手の悪いところも見えやすくなるからね。もちろん良いところもわかるんだろうけど、悪いところは、付き合う前には隠せてることが多いし」


「し、白戸さん……君は、すごいね」


 なんて詳細な分析、そしてわかりやすい説明なんだ……!


「そう? 一般論だと思うけど」


「だとしても、ものすごく参考になる。さすが、一食とデザート分の働きだ」


「褒められてる気がしないね」


 そこまで話したところで、白戸さんの抹茶プリンがなくなった。

 白戸さんがお茶を飲むのに合わせて、僕も喉を潤す。


「つまり僕の場合、遊薙さんと一緒にいる時間が短いのが、かえって良くないってことか」


「まあ、そうなるね」


「つまり、彼女と一緒の時間を増やせばいい、と」


「理屈はそうだけど、それでいいの?」


「そりゃあもちろん望ましくはないけれど、このままなにもしないよりは、なにか試してみた方がいいかなとは思うよ」


「……ふぅん」


 白戸さんはなんだか、笑っているような怒っているような、不思議な表情で自分の顎を触っていた。

 少し不安に駆られそうになるけれど、僕の結論は間違ってはいないはずだ。


「あとは和真に教えてもらった、遊園地作戦だね」


「遊園地? なにそれ」


「一緒に遊園地に行ったカップルは、別れる確率が上がるってはなしだよ」


「ああ。たしかに、よく言うね」


「都市伝説みたいなものらしいけど、なんでもやってみるしかないかなって」


 ひょっとしたら効果があるかもしれないし。

 まあ、遊園地とかテーマパークとかのたぐいは正直苦手だし、やっぱり乗り気ではないんだけれど。


「都市伝説っていうか、それ……」


「ん? 白戸さん、なにか知ってるの?」


「……いや、ううん。なんでもないや、やっぱり」


「そ、そう?」


 なんとなく、不安になるような反応だった。

 とは言え、なんでもない、と言われれば仕方がない。

 和真の時と比べても、かなり有益なことがわかったような気がするし、今回はこれくらいで充分だろう。


「桜庭くん、私はさ」


「……ん」


「静乃には、い人と結ばれて欲しいんだよ」


「……そうだね。僕もだよ」


 白戸さんはそれ以上、もうなにも言わなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る