020 なにか企む御倉さん
『明日の放課後、借りていた本を返したいのだけれど』
昨夜、メッセージでの私の申し出を、碧人くんは快く了承してくれた。
これで、彼との二人きりの時間は確保できたというわけだ。
計画は順調に進んでいると言ってよい。
「おはよう、
「あ、
私が登校すると、碧人くんがすぐに声を掛けてくれた。
こういう機会はあまりないため、不意を突かれてしまう。
「本、読むの早いね」
「あ、ああ! あっという間に読んでしまって……!」
「おっと。せっかくだし、本の話は放課後の楽しみに取っておこうか」
碧人くんはそう言って、嬉しそうにニコニコしていた。
普段なかなか見ることのない種類の笑顔に、思わず
「それじゃあ、放課後残って、待っててね」
「う、うん! 必ず待っている!」
「あはは。大袈裟じゃない?」
その笑顔を絶やさないまま、碧人くんは窓際の自分の席に歩いて行ってしまう。
私も自分の席につき、授業の開始を待った。
昨日思いついた作戦を改めて練り直していたせいか、午前の授業はあっという間だった。
こんなこともあろうかと、普段から勉強には充分以上に力を入れている。
一日授業を聞かなかったくらいで、遅れを取ったりはしないはずだ。
昼休みになり、私は図書室に移動した。
静かなところで、さらに作戦の質を上げる必要があったからだ。
図書室には私と、その他数名の生徒、それから熱心な図書委員である
成瀬さんと言えば、つい二週間ほど前に碧人くんに告白をし、そしてフラれた元恋敵である。
いや、『元』と勝手に付けてしまうのは些か失礼かもしれない。
なにせ、彼女が碧人くんを諦めたかどうかについては、さすがの私も情報を持っていないのだから。
適当な席に座り、腕を組んで思考を巡らせる。
私が今日実行しようとしている作戦。
それは何を隠そう、『とりあえず碧人くんの恋人にしてもらおう』というものだった。
碧人くんに恋心を打ち明け、今は両想いにこそなれずとも、形だけでも恋人にしてもらうことでライバル、主に
もちろん、その後にしっかり碧人くんにアプローチをして、いつかは正真正銘の恋人同士になるのが最終目標だ。
正直、邪道かつ型破りな策だろう。
自覚はある。
が、なりふり構っていられるほど状況は甘くないというのも事実。
モタモタしている間に碧人くんを遊薙さんに取られでもしたら、私はきっと生きていけないだろう。
だが遊薙さんにならそれができるかもしれないし、本当にやりかねない。
その最悪のパターンを回避し、勝率を上げるために。
私は今日、勝負の賭けに出るのだ。
「……ん?」
ふと、貸し出しカウンターに座る成瀬さんが、ちらりとこちらを見たような気がした。
いや、おそらく気のせいではあるまい。
こちらからも視線を向けると、やはり目が合った。
成瀬さんは少し硬い表情で立ち上がると、ゆっくり私の方へ近づいてきたのだった。
「み、御倉さん、だよね?」
「ああ。そうだが」
囁くような声で話しかけてきた彼女に、そう返す。
彼女は私の隣に腰掛けると、緊張したような面持ちで続けた。
「……もしかしてなんだけど、御倉さんってその……桜庭くんのこと、好きだったり……する?」
「なっ……!」
思いもよらない問いに、私は思わず大きな声を出してしまっていた。
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