017 そこが気になる御倉さん
「カフェオレのビターと、コーヒーの
上品で可愛らしい制服を来たウェイターさんが運んできた飲み物が、僕らのテーブルに置かれた。
僕の前にはカフェオレ、そして向かいの席にコーヒーだ。
「ありがとうございます」
「ごゆっくりどうぞ」
店内にはボサノバ調の音楽と、明るすぎない照明、コーヒーの香り。
うん、相変わらず居心地がいい。
「さすが、
手元のカップを少し揺らした彼女は、改めて店内を見渡しながら言った。
今日はここで彼女、同じクラスの
数日前にメッセージが来て、僕の行きつけのお店に連れて行って欲しい、と彼女が言ったのだ。
向かいに座る御倉さんは、当然ながら学校とは違う私服姿だった。
紺色のワイドパンツと淡い水色のセーターが、制服の彼女とのギャップを演出していて、とても似合っているように見える。
あまりファッションに関心のない僕でも、彼女のセンスが良いのだ、ということはなんとなく分かった。
「うん、コーヒーも美味しい。ブラックなのに、苦くないんだね」
「そうだね。このお店はわざとそうしているみたいだよ。まあ、僕はいつもカフェオレなんだけど」
雰囲気だけでなく、もちろんこのお店は味もいい。
秘密の場所だったけれど、御倉さんになら教えてしまっても良いかなと思う。
「私も通ってしまいそうだ。……碧人くんは、いつも何曜日に来る、とか、あるのだろうか」
「え? ……うーん、特に決めてないな。気が向いた時とか、おもしろい本を見つけた時とかに、ふらっとね」
「そ、そうか……」
御倉さんはなぜだか、少しだけ難しそうな顔をした。
僕の返答が、どこかおかしかっただろうか。
まあいい、気にしないでおこう。
「ああ、そうそう。本も渡さないとね」
言って、鞄から御倉さんに貸す予定だった本を取り出す。
「お店を紹介するだけではもったいないので、オススメの本も貸して欲しい」と言われたのだ。
「はい」
「ありがとう、碧人くん。すぐ読んで、返すよ」
「ゆっくりでいいよ。自分のペースで読んでくれれば」
「い、いや、早く読みたいんだ……!」
「そっか。まあ、その方が僕は嬉しいけど」
御倉さんは僕の本をやけに大事そうに抱えて、ゆっくり鞄にしまっていた。
大切に扱ってくれるのはありがたいけれど、ただの文庫本なので、そこまで気にしてくれなくてもいいんだけどな。
「でも、小説は好き嫌いが分かれるからね。何冊か読んでもらえば、僕も御倉さんの好みを把握できると思うんだけど」
「じ、じゃあ! ……これからも何度か、また本を借りてもいい、かな?」
「うん、もちろん。本の話ができるのは、僕も嬉しいから」
そう答えてから、僕はカフェオレを飲む。
鼻腔に広がる深いミルクの香りが堪らない。
ところで、カップの向こうに見える御倉さんはなにやらひどく
頬もほんのり赤い気がする。
そんなにコーヒーが美味しかっただろうか。
ブラックはあまり得意ではない僕からすると不思議だけれど、気に入ってくれたのなら良かった。
「……最近は、また仕事を手伝ってもらう機会が増えて、すまないね」
「いいよ。半分は好きでやってることだから」
むしろ、こうやってお礼を言ってくれるのだから、嫌なことなんて一つもないと思える。
感謝して欲しい、というわけではないにしろ、やっぱりお礼を言われるのは嬉しいものだ。
「それに友達としては、君だけ不当に苦労しているのは気持ちよくないしね」
「……君は本当に、優しいね」
「大袈裟だよ。自分が気になるから、っていうのが動機だからね」
「いや。……私にとっては、大袈裟ではないんだよ。君の心遣いが……私は、本当に……」
御倉さんはやけに切羽詰まったような様子で息を吐いた。
なんだか、妙な空気だ。
「と、ところで、碧人くん」
「ん、なに?」
「……最近、君はよく
思わぬところで、思わぬ名前が出たものだ。
少しだけ面を食らいながらも、僕は落ち着いて答える。
「まあ、そうだね。彼女とはなにかと気が合って」
「ふ、ふむ……」
しかし、よく考えれば当然かもしれない。
僕はあまり友達が多い方ではないし、友達がいてもあまり話さない。
そんな僕が、同じように口数の少ない白戸さんと急に仲良くなる、というのは珍しい出来事だろう。
まあ理由はどうあれ、彼女とは今や本当に友達だから、別に後ろめたいことは無いのだけれど。
それよりも、御倉さんがこの関係に興味を持っていることの方が、むしろ僕には気になっていたりする。
いったい、どうして。
「……それでは、
途端、僕は少なからず自分が緊張するのを感じた。
よく考えれば、こうなるのが当然の流れだったのかもしれなかった。
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