012 挟まれている桜庭くん
「
「はいはい、いいよ」
あの日から一週間、
並行して、僕と
もともと、僕と白戸さんには似ているところが多かった。
二人とも口数の多い方ではなく、極度のインドア派で、静かなのが好き。
極め付けには、遊薙さんに振り回されている、という共通点もあり、僕らは徐々に打ち解けていった。
「毎日よく来るね、
「華澄が寂しがってるかと思ってね」
「桜庭くん、二人で食べよっか」
「そうだね、それがいい」
「わぁぁあ! ごめんってば!」
もちろん、最初は遊薙さんの作戦のために話す、という感じだった。
けれど、しばらく一緒にいるうちにお互い妙な親近感が湧いたらしく、今では普通に仲の良い友達のようだ。
そしてそのおかげもあってか、僕と白戸さんと遊薙さん、昼休みに三人で話す姿はクラス内でもお馴染みになりつつあった。
僕と遊薙さんも、ある程度仲の良い友達であるという認識が周囲に出来上がっている。
こうして見ると、遊薙さんの作戦はおおよそ順調に進んでいると言っても良さそうだ。
ただ、それとは別にひとつだけ、問題があった。
「
「ああ、
最近やけに、
嫌ということはもちろんない。
けれど、以前と比べて急にこういうことが増えたのは事実だ。
まあ、他でもない御倉さんが僕に用があると言うのだから、当然無下にはできない。
僕は食べ終えたお弁当を片付けて、御倉さんの席のそばへと移動した。
「ちょっと、勉強でわからないところがあってね。教えてもらえないだろうか」
御倉さんはなんとも珍しいことを言った。
あの御倉さんが、勉強が分からないとは。
そんなの、今まで聞いたことがない。
彼女の成績でわからないところなんて、僕にはもっとわからないはずだ。
それに勉強なら、僕より出来る人がいるだろうに。
それこそ、遊薙さんとか。
「いいけど、たぶん僕もわからないよ」
「ま、まあそう言わずに。何事も挑戦だ」
たしかにそうかもしれない。
けれども、うーん……。
そこでふと視線を感じて、僕はそちらを振り返った。
見ると、遊薙さんが蛇のような鋭い目で御倉さんを睨みつけていた。
なんだか既視感のある光景だ。
この数日で分かったことだけれど、どうやら遊薙さんと御倉さんは、あまり仲が良くないらしかった。
僕は最初、遊薙さんが一方的に御倉さんに敵意を向けているのだと思っていた。
けれどつい二日前、御倉さんが仇に出会った侍のような目で遊薙さんの背中を睨んでいるのを、僕は見ている。
二人とも誰からも好かれる人だと思っていたけれど、現実は甘くないようだ。
まあ直接口論したり喧嘩したりするわけではないし、そんなに気にすることでもないのかもしれない。
「この問題なのだけれど」
「えっと……? あれ? これ、階差数列じゃないか? けっこうわかりやすいと思うけど……」
御倉さんが指差したのは、数学の教科書のページだった。
しかも、そんなに難しくないはずの問題だ。
数学があまり得意ではない僕にだってわかるんだから、御倉さんが解けないとは考えにくい。
「あ、あー。そうだな。そうだそうだ。私としたことが、うっかりしていた」
なんだか、まるで遊薙さんのような棒読みだった。
ますます不思議だ。
いったい御倉さんは、何がしたいんだろう。
「桜庭くん、ねえ」
気がつくと、いつの間にか遊薙さんがこちらへやって来ていた。
途端、なんだか場の空気がピシッと張り詰めたように、僕は感じた。
「なにしてるの? 二人で」
「ああ、御倉さんが勉強でわからないところがあるからって……」
答えると、遊薙さんは御倉さんをまっすぐ見つめた。
御倉さんもその視線を迎え撃つかのように睨み返す。
なんだか、不穏な空気だ……。
「そう。終わったなら行きましょ? ね、桜庭くん」
「まだ
僕を挟んで二人の視線がぶつかる。
なんなんだこの雰囲気は……。
しかも、知らない間にクラスメイトたちの視線がこちらに集まっている。
まあ無理もない。
あの遊薙さんと、あの御倉さん。
二人がなにやら争っているとなれば、気になるのは当然だ。
「な、なによ、頼みって」
「君には関係がないな」
御倉さんはそう答えると、急に僕の手を掴んで歩き出した。
どうやら教室の外へ向かうらしい。
「あっ! ちょっと!」
遊薙さんの声にも、御倉さんは立ち止まらなかった。
引きずられるように連行される僕。
なんだかおかしなことになったな……。
結局御倉さんの頼みというのは、5限に配布する資料を取りに行くのを手伝って欲しい、というものだった。
枚数こそ多かったけれど、二人で運べばどうってことはなかった。
教室に戻ると遊薙さんはもういなくなっていた。
かわりに、スマホに彼女からのメッセージが来ている。
『放課後会いたい! 絶対!』
またこのパターンか……。
僕は諦めて『わかった』とだけ返信し、スマホを鞄の中に突っ込んだ。
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