マリリン、蕩ける


 要するにノーと答える人間は『お前なんかとはお友達から始めるのも無理』って遠回しにお断りしてるというわけね。それはそれで傷付くわ……。


 で、でも、お姉様はイエスと言ってくれた。しかもお友達からどころか、今すぐお嫁さんになるつもり……みたいけど。



 そりゃもう、天に昇って雷連打して大地を砕いてしまいたいくらい嬉しいわよ。


 だけど、こんな簡単に結婚相手を決めていいものなの? 将来を共にする伴侶よ?



 うん、勇気を出して今一度お姉様に確認してみるべきよね!



「えっとですね、あたし、世間知らずでよくわからないんですけど…………女の子同士なのにお嫁さんになってもいいものなんですか?」



 ここ、重要よね。


 お姉様はあたしを、兄弟なマオウ家のドラゴンと間違えて襲いかかってきたみたいじゃない? 兄弟というと、性別は男よね? だから今更だけど、あたしのことを男の子と勘違いしてるんじゃないかと思ったの。


 絵本で読んだ人間の物語では、お姫様はみ〜んな王子様と結ばれていたわ。あたしの周りでも、女の子同士で結婚するドラゴンの話は聞いたことないもの。


 もしお姉様が勘違いしてるなら、ちゃんと伝えなきゃ。


 それで『お嫁さんの件はなかったことに』ってなるのは悲しいけれど、どうせ振られるなら早い方が……。



「お前が女の子なのは、最初からわかっていたぞ。爪に可愛い色のネイルをしているからな。繊細な花の模様のアートに、女子力の高さを感じていた」



 キャー! 気付いてくれてましたあ!?

 フットも含めて、今日はマリリンこだわりのネイルなのよーー!!



「大体、種族を超えて結ばれようというのに、性別など気にしてどうする? 子種はコウノトリがキャベツ畑に運んでくるそうだから、キャベツを植えれば問題ないだろう」



 へえ、そうなんだあ。

 あたしはペガサスがマンドラゴラの根元に埋めてくって聞いたけど、ドラゴンと人間では赤ちゃんを授かる方法も違うのかも。



 と、とにかく、女の子が女の子のお嫁さんになるのは、全く問題ないのね。なら性別に関してはクリア、ということで。


 次は肝心要の、お姉様のお気持ちを聞かせていただかなくては!



「えっとですね……お姉様はそれでいいのですか? まだ出会って間もない相手に、いきなり将来を委ねるのは……その、いろいろと不安だったりしません?」



 そこでお姉様は立ち上がって、あたしに折れた剣を見せつけるようにして掲げてみせた。



「…………お前は、この勇者の剣を折った」


「そ、それはつまり、責任を取れ、という意味でしょうか?」


「違う。私は待っていたのだ。ずっと勇者の血の呪縛から解き放ってくれる強き者を」



 そ、そんな大層なことしたかしら? 強き者って……あたし、ほんの少しおてんばなだけで強くはないんだけどなあ?



 首を傾げてたら……ひゃああ! お姉様がこちらに近付いてきてくれたわ!!


 ふわぁ、長い金の髪が揺れてキラキラと輝いてキレイ。


 あっあっあっ……お、お姉様の白くておててが、あたしの頬に触れた! マリリン、もうほっぺた洗わないーー!!



「お前は強い。それだけでなく、心優しい。私が襲いかかっても、攻撃は防いだが傷付けようとはしなかっただろう? さらにお前は、私のつまらない身の上話にも耳を傾けてくれた。私の意思までも、しっかり確認してくれた。強さに驕らず、襲撃した相手にも深い思いやりを持って接する姿に、私は胸を打たれたのだ」



 えへへぇ、えへえへへへぇ……。


 お姉様に、すっごく褒められてりゅぅううう……。マリリン、このまま蕩けちゃいそぉおおおお……。



「こんな気持ちは生まれて初めてで……正直、どうしていいかわからない。これが、恋というものなのだろうか? 私もお前のことをもっと知りたい。お前の側にいたい」



 あふぅううん! そんな甘い言葉、耳元で囁いちゃらめえええええ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る