マリリン、キョドる


 慌てて軌道を逸らしたおかげで、お姉様に火炎が直撃することは何とか防げたわ。


 良かったあ、お姉様を黒焦げにしなくて。

 それにしても、サラマンダーのじいやと違って、柔らかくて繊細そうなお肌をしていらっしゃるわね。美の秘訣を聞きたい……ってそうじゃないでしょ、マリリン! 早くごめんなさいするのよ!!


 高熱のファイヤービームを浴びて一瞬で炭になった大木の隣で、お姉様は綺麗なお顔を真っ赤にしてあたしをじっと見つめてる。


 ああ……ますます怒らせちゃったみたいだわ。そりゃそうよ、盗み見してたくせに焦ってわたわたするばかりで、おまけに乱暴なところを見せちゃったもの。


 何てマナーのなってない女の子なんだって思われたよね? きっと嫌われちゃったよね? ……ぐすん。



 火はほとんど消えていたけれど、念のために溢れ出た涙を撒き散らして消火活動をしながら途方に暮れていると――――不意に、お父様から教わったとある言葉が頭に蘇った。



 そうだわ、あの時も今みたいに大泣きしていたのよ。お父様が人間に会いたがるあたしを厳しく叱ったせいで。


 お父様に怒られて泣いたのは、あれが初めてだった。

 お父様はどうしていいのかわからなかったんでしょうね……口から吐いた火球でお手玉してみせたり、いろんなカラーの電撃ビームで虹を作ってみせたりして宥めつつも『人間の中には我々ドラゴン族を敵視する者がいる、だから近付くのは危険なんだ』って言い続けていたわ。


 それでもあたしは泣き止まなくて、お父様は諦めたように奥の手を教えてくれたの。敵意を向けてくる人間を落ち着かせる、一か八かの手段があるって。


 聞けば、先祖代々伝わる魔法の言葉だそうで、お父様はそれをあたしにも授けてくれたのよ。



 ええと、確か……。




「おっ……お前に! 世界の半分をくれてやろう!!」




 そう! これよーー!!




 でも……考えてみると、この言葉っておかしいわよね?


 世界はあたしじゃなくて皆のものよ? 普通に嘘ついてることにならない? こんなこと言って本当に大丈夫なのかしら?



 そこはさておき、よ。


 ノーと言われたら諦めるしかない、と聞いているんだけれど。




「…………いいだろう」




 お姉様の答えを聞くや、あたしったら喜びのあまり飛び上がって盛大な地響きを披露してしまったわ!


 お父様曰く、この言葉にイエスと答えるということは『これからは友好関係を築いていこうね♡ズッ友だよ♡』って意味になるんですって。



 まさかのイエスをいただけたわーー! マリリン、嬉しーーい!!


 こんなダメダメなマリリンと仲良くしてくれるなんて、お姉様は見た目ばかりでなく心まで美しいのね!!



 激しく浮かれる気持ちを堪えて、あたしは腹這いになる形でお姉様に顔を寄せた。みっともないポーズだけど、こうでもしなきゃお姉様と真正面から向き合えないの!


 やっぱり自己紹介するなら、ちゃんと相手の目を見て……。




「私で良ければ、是非お前の嫁にしてくれ」




 …………え?

 …………ヨメ?



 ええと……ヨメって、お嫁さんってこと?

 いやいや、そんな…………え? 何で嫁!?

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