マリリン、うっかりする


「ひっ!? き、貴様…………もしや魔王か!?」



 いっけなぁい! 小山に擬態して隠れてたつもりだったのに、見付かっちゃったぁ!!


 お姉様ったら、ビックリしたみたいで剣の切っ先をあたしに向けてきたわ。やだ、怖ぁい!

 でも、お姉様も怖かったんでしょうね……こんな山奥で、誰かに遭遇するなんて思ってもみなかっただろうし。


 それにしても、キッとこちらを睨む顔もとっても素敵ね! 見惚れちゃうぅん!



「ど、どうした、魔王め! この私に恐れをなしたのか!? かかってこないならこちらから行くぞ! ここで会ったが百年目……この命にかえても、一矢報いてみせる!」



 ……あれ? もしかしてお姉様、あたしを誰かと勘違いしてる?



 ここで会ったが百年目なんて言ってるけど、百年前ならあたしはまだ生まれてないもの。確か人間で百歳といったら、かなりの高齢よね? お姉様も、百歳を超えているようには見えないわ? 前世の記憶か何かの話なのかしら?


 それに、あたしの家の姓は一応マオウだけど、あたし達のドラゴン族の中ではマオウなんて別に珍しくない名字なのよね。


 あ、そういえば、世界各地を旅してきたとかいう家庭教師のジョンさんから聞いたことがあるわ。人間みたいに比較的体が小さい生物は、あたし達ドラゴンがみーんなおんなじに見えるんだって。サイズが違いすぎるせいで、恐怖心が勝って相手を識別するどころじゃなくなるんですって。


 ドワーフのジョンさんも最初の頃はあたしとお父様をよく間違えて……ってってってって、いきなり襲いかかってきたあ!!


 んもー、慌てんぼさんなんだから! そういうところも可愛い! 


 でも安心して、剣くらいじゃマリリンの可愛いあんよには傷一つ付けられないわ。だってあたしの体は、鋼鉄の鱗に守られてるもの。



 あーあ、ほら、剣が折れちゃった。


 お姉様、膝をついてガックリして……え、待って。もしかしなくても泣いてる? 泣いてるよね?



「そ、そんな……バカな! 伝説の勇者の剣がーー!!」



 美人は泣いても美人ってズルくなーい?

 涙のキラキラ&ウェット効果でますます美しいんですけどー! さらに守ってあげたみのパラメーターが爆上がりけりなんですけどー! こんなの悶絶不可避なんですけどー!



「貴様ぁぁぁ!」



 まだ誤解は解けてないようで、お姉様は泣きながらあたしに向かって突進してきた!


 やだやだ待って待って!


 泣き濡れ美女が勢い良く迫ってくるって最高……って喜んでる場合じゃないわ!? マリリン、ぽかぽか陽気の中をてくてく歩いてきたし、お姉様の麗しい姿にキョドりっ放しだから大量に汗をかいちゃってるのよ!?


 このままじゃ、この汗臭い体がお姉様の清らかなお体と触れ合っちゃう!


 と、慌てて避けようとしたのがいけなかったわ。思わず尻尾で、お姉様のことを薙ぎ払っちゃった!


 ああーん、マリリンのバカバカ! お姉様の華奢なお体が吹っ飛んじゃったじゃないの!!



「っ、だいじょぼわあああああ!!」



 大丈夫ですか!? とかけようとした声は火炎放射に早変わり。


 んもー、焦るといつもこうなるんだから!

 支度を急がせるじいやを、何度炎上させたことか。こんなだから、皆にうっかりマリリン様なんて呼ばれるのよ!!

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