第79話 ほう、これは意外でした。
エーリッヒさんに案内されるがまま着いていくが、ムラではいつもの活気がなかった。とはいえ、誰かが死んだ感じもしないし、ムラ自体はいつも通りだったので、私は頭に「?」マークを出して移動しているような状態だった。ムラ長のカムドさんの家に到着する。
「長、アイスさんが帰ってきたので案内します。」
「おお、戻ってこられたか、エーリッヒよ、ユミールをここに呼んできなさい。」
「承知しました。では、失礼します。」
私を案内し終えたエーリッヒさんがカムドさんの家を出て行く。少し待つとカムドさんが出迎えてくれた。
「おお、アイスさんお帰りなさい、帰ってきて早々申し訳ないが、ちと話があるのでこちらへ来て下さいませんか。」
「カムドさん、只今戻りました。では、失礼致します。」
奥の部屋に案内されて指定された場所で座る。マーブル達もその横に座る。しばらくすると、誰かが来た。
「ムラ長、お呼びでしょうか?」
「おお、ユミールか、アイスさんが帰ってきたので、これから話をしようと思っていたところだ。お前もこちらに来なさい。」
「はい、失礼します。」
入ってきたのは、ゴブリンシャーマンのユミールさんだ。話には出てこないが、一応このムラのゴブリン達とは最初にお世話になった時期や宴などを通じて仲良くさせてもらっているから初顔合わせではない。
「アイスさん、マーブルちゃん達、おかえりなさい。」
「ユミールさん、只今戻りました。ところで、カムドさん、話とは一体?」
「非常に言いづらいのですが、その前にアイスさん、久しぶりにこのムラに帰ってきたところでお聞きしたいのですが、このムラの印象はどうでしたか?」
「こちらも申し上げづらいのですが、心なしかみんな暗かったように思いました。」
「やはりそうですよね。それは、これから話すことが原因です。ここにいるユミールはゴブリンシャーマンの一族でして、人族から見たゴブリンシャーマンというのは、魔法を使えるゴブリンに対して付けられている名前だそうですが、ここでのゴブリンシャーマンは予言やら祭事事で神からお告げを受けたりする存在なのです。以前襲撃してきたオークやブラックドラゴンはユミールが以前にお告げを受けていたので迎撃準備ができておったのです。もちろん、アイスさん達の助力もあって簡単に蹴散らせたのは幸いでしたが、ユミールのお告げからの預言も大きい存在だったのです。」
「なるほど、その預言でこれから良くないことが起こることを告げられたのが原因でみんなが暗くなっていたのですね。しかし、それが私達と何か関係が?」
「ええ、詳しい内容はユミールから聞いて欲しいのですが、誠に申し上げづらいのですが、近いうちにアイスさんが死んでしまうという預言を受けたそうです。」
「えーっと、ユミールさん、どういった内容だったのですか?」
少しビックリしたが、とりあえず話を聞いてからかな。
「はい、7日ほど前に毎日行っている祈祷から、ここ1ヶ月でこのムラの主要な人物が死ぬとお告げを受けました。我がムラでの主要な人物とは、長のカムド様、ご長女のカムイ様、部隊長をされているエーリッヒ様、エルヴィン様、ハインツ様、そして私ユミールが該当するのですが、それ以外にも一族扱いであるアイス様もそれに該当するのです。」
「私がこのムラの主要人物として扱って頂けるのは非常に嬉しく、また誇らしいのですが、何故私だとわかったのですか?」
「はい、お告げには、ムラに多大な貢献をもたらす最近家族に加わった人物、とありました。」
「なるほど、多大な貢献かどうかはわかりませんが、最近家族に加えてもらったのは私以外にはおりませんね。確かに内容的には私で間違いないでしょう。それでお聞きしたいのですが、私の死因は一体どうなるのでしょうか。」
「死因ですか? 申し訳ありませんが、それについてはわかりません。しかし、内容についてですが、『殺される』とか『死亡する』といった言い回しではなく、『この世から一旦消える』という言い回しだったのです。これは、一度この世からいなくなるけど、別の場所で再び現れる、という意味かもしれません。」
ありゃ、どう考えても私が死ぬね、こりゃ。でも気になるのは『この世から一旦消える』ということだ。これってまた転生するのかね? というか、こっちに転生して一年経ってないのに殺すなっての。
「なるほど、話の内容はわかりました。わざわざ報告頂きありがとうございました。」
「へ? アイスさん、それだけですか?」
「はい、それだけです。ついでだからカムドさんに申しておきますと、実は私は一度死んでおりまして、死ぬのは二度目なんですよね。以前は別の世界で生きておりまして、ここの転生したという経緯があります。カムドさんがご存じかどうかかわりませんが、この世界に転生してきた方は私だけではなくそこそこいらっしゃいます。」
「ああ、エーリッヒ達ですね。それについては本人達から聞いておりますよ。」
「そうでしたか。彼らは前世でも非常に優秀、というより怪物クラスの人物でしたので、これからも重用されると安心できますよ。」
「アイスさんが、そうおっしゃるのならば、そうなのでしょうね。彼らはこのムラには必要不可欠な存在です。これからもこきつかって、ムラの繁栄に役立ってもらいますよ。」
「はい、そうして下さい。改めて、私が死ぬことを正直に伝えて下さりありがとうございます。私もこのムラの一員であるということが実感できるのは非常に喜ばしいです。」
「そうおっしゃいましても、私達にとってはアイスさんは恩人、その恩人に何も報いることなくお別れしてしまうことは誠に悔しく思っております。もし万が一、アイスさんが生まれ変わって我々と出会えましたら、我がムラ全体でもって今までの恩に報いましょう。これは、私の一存ではなくムラの総意です。」
「正直、お別れは非常につらいですが、ムラのみんなが、こうして私のために悲しんでくれるのは嬉しくもあり悲しくもあります。」
「そうですか。ところで、アイスさん、これからはどうなさるおつもりですか? またムラを出発なさるのですか?」
「いえ、死期が近いのでしたら、それまでここでいつも通り暮らしたいと思います。死ぬのなら自分の家で死にたいですしね。」
「わかりました。いつまでも悲しんではいられないですね。でしたらいつも通り過ごさせていただきます。」
「是非そうして下さい。」
話が終わって家に戻る。
「ミャーーーーーー!」
マーブルが悲しそうに鳴く。
「アイスさん、折角一緒に楽しく過ごしてきたのにもうお別れなんていやです!!」
「いやだー、あるじとはなれたくないーーー!!」
ジェミニもライムも悲しんでくれている。
「みんな、私もみんなと別れたくない。私は前世から転生してこの世界に来た。1年経ってないけど、その間にマーブルと出会って、念願の猫との生活というものを叶えることが出来た。しかも、前世と違って本当の意味でずっと一緒に過ごせた。そして、スガープラントという大きな植物を一緒に引っこ抜いた縁でジェミニと出会うことが出来た。しかもわざわざ護衛としてこちらの仲間になってくれた。いや、家族になってくれた、という方が正しいかな。ジェミニが一緒になってくれたおかげで解体が楽になってさらに気軽に肉が食べられるようになった。その後、盗賊討伐に向かう途中でライムが声をかけてくれた。ライムが家族に加わったおかげで、解体した肉を綺麗な状態にできたことで、今まで食べられなかった部位を食べることができるようになった。みんなが一緒になってくれたおかげで、短い間だったにもかかわらず前世の生活よりも楽しく充実した日々を送ることができた。みんな、本当にありがとう。正直、みんなが死ぬ前で私はよかったと思っている。みんなが死んで悲しい思いをする前に死ねるのは私にとってはある意味幸せかもしれないのだから。」
マーブル達は震えて声も出ていない状態だった。正直私も泣きながら話していた。しかし、心の中では何か引っかかっていることがあった。『この世から一旦消える』、これが意味していることは何か?
時間が経過するごとにマーブル達は落ち着きを取り戻しつつあった。そしてマーブルとジェミニが何か話していた。
「ミャア、ミャアア。」
「ふむふむ、なるほどです。流石はマーブル殿ですね。確かにそれはいい手ですね。」
「ん? 2人ともどうしたの?」
「マーブル殿がですね、『この世から一旦消える』という部分が引っかかると。」
「なるほど、それは私も引っかかっていたね。それについて何か考えがあるとか?」
「マーブル殿が言うには、一旦消えるということは、またアイスさんが再び転生する、という線が濃厚で、その時にアマデウス様に言ってわたし達も一緒に連れて行ってもらおうという考えです。」
「うーん、向こうには向こうの都合もあるから何とも言えないけど、できることなら是非そうしたいよね。私も仮に転生できたら、みんなと一緒に過ごしたい。」
「ボクもあるじたちと一緒がいいー!」
「そうだね。落ち着いて考えたら、何か意味がありそうだね。恐らくアマさんが迎えに来ると思うから、その時に詳しい話を聞いてみますか。」
3人とも賛成してくれた。うん、このまま消滅してしまうならそれで構わないけど、再び転生、ということになったら、マーブル達と一緒でないとダメだ。これは譲れない。
「では、どうするか決まったところで、お迎えが来るまではここでのいつも通りの生活を送りましょうかね。」
「ミャッ!」
「はいです!」
「わかったー!」
いつも通りの生活を送ることを決めたわたし達は、ムラを出て狩りをしたり、夕食を作って食べた後は一旦ねぐらに戻って風呂と洗濯を済ませて、王宮のダンジョンで手に入れた希少な金属を倉庫の奥へと封印してこちらに戻ってからマーブル達と遊んで寝床に着いた。
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