最終話 ほう、始まりの終わりですか、何か逆な気もしますが。

 死の宣告を告げられたが、何を今更という感じで日々生活を送っております。ゴブリンのムラのみんなも私のカムドさんに対しての返事を理解してくれて、いつも通りに接してくれている。非常にありがたいことだ。それに甘えるように特にいつも通りに過ごさせてもらっている。一緒に狩りに出かける日もあれば、私達だけで狩りに行く日もあるし、みんなで食事をするときもあれば、私達だけで食事をする日もあったりと、本当に以前ここでお世話になっていた日々と変わらない生活を送っていた。



 退屈に見えるが退屈ではない充実した日々を送っていたが、ついにその日はやってきた。といっても、眠っていたらいきなりたまに見たりする周りが白い大理石のようなものでできた回廊の先にある部屋だった。あれ? 部屋? いつもは回廊だったけど、今回は部屋か、まあ、場所が微妙に変わっただけで特に変わったことはないか。部屋には見慣れた老人がのんびりとお茶を飲んでいた。



「アイスよ、久しぶりじゃな。どうじゃ? 元気でやっておったかの?」



「はい、お久しぶりです。マーブル達のおかげで日々充実した生活が送れましたので、元気に過ごすことができましたよ。」



「ふむ、その口ぶりからすると、お主の今の状態がどうなっているかわかっておるようじゃの。」



「ええ、いわゆる『お迎え』というやつですよね。」



「うむ、申し訳ないが、そういうことじゃな。」



「しかし、1年も経っていないのにお迎えが来るとは思いませんでしたよ。」



「うむ、ワシもまさか1年未満でこうなるとは思ってもみなかったわい。」



「へ? このお迎えって、アマさんの意志じゃないんですか?」



「そうじゃ。ワシの考えでは最低でも10年くらいはお主に活動してもらうと思っておったのじゃが、上からの指令での、急遽こうなってしまったのじゃよ。」



「上からの意志? アマさんって創造神ですよね?」



「確かにワシは創造神じゃ。お主に最初に会ったときに話したかもしれんが、ワシはあくまで創造神の一柱であり、その中でも身分がかなり低いのじゃ。それ故、上からの指示があった場合にはその指示通りにせんといかんのじゃよ。」



「なるほど。で、急遽お迎えが来たということは、私が何かやらかしたから?」



「そうじゃ、といっても、確かにやらかしはしたが、それはいい意味でのやらかしじゃよ。」



「いい意味でのやらかし?」



「うむ、今だから話すが、密かにお主にして欲しいことがあった故、この世界に転生させたのじゃ。」



「私にして欲しいこと?」



「うむ、もう隠さずに話すが、この世界では大いなる厄災によって滅びの時が近づいておるのじゃ。」



「厄災? って、この世界って滅びる運命にあるんですか?」



「正確に言うと、このまま放っておいた場合じゃがな。世界を創造するのは大変な作業でのう、大変な思いをして作った世界が、こちらの与り知らぬところで滅びなんて冗談じゃない。で、その滅ぶ原因となっているのが、大いなる厄災というものじゃ。」



「大いなる厄災?」



「そう、大いなる厄災じゃ。とはいえ、大規模の厄災は少ない。この世界の厄災が厄介なのは、厄災となる存在があまりにも多すぎるのじゃ。じゃから、その厄災、お主達は災厄と言っていたな、これからそれに統一するか、災厄を一つ一つ減らしていって欲しいのじゃよ。」



「なるほど、ここに転生してきた理由がわかりました。しかし、勇者とか召喚しているんでしょ? 彼らにやらせては?」



「お主も元の世界で小説を読んでいたからわかると思うが、いくら伸びしろがあるとはいえ、精神的に未熟な若者を呼んで、勇者だ何だとチヤホヤしてしまうとどうなるか想像がつくじゃろう?」



「まあ、確かにそうですね。私も15か16の時に転生したら、恐らく同じような状態になっていたでしょうね。」



「まあ、そういうことじゃ。勇者召喚なぞは、ワシではない他の創造神が指示したものじゃが、何度も失敗を繰り返しているくせに懲りずに召喚しておるのじゃ。そのせいで、災厄は減るどころか増える一方での、そんなときに食の神としてのんべんだらりとしていたワシに何とかして見ろと言われて、お主を召喚したのじゃ。一応あちらの世界の神とは話し合った結果じゃぞ。」



「うわあ、何で私だったので? 他にもっと相応しそうな人って大勢いるんじゃないかと。」



「うむ、確かにお主以上に相応しい人物は大勢おったがの、そやつらは条件に当てはまらなかったから、仕方なくというわけでもないが、お主が一番条件に合致した故にこちらに来てもらった、ということじゃ。」



「その条件については敢えて聞かないことにしますよ、何か精神衛生上よろしくなさそうなので、、、。」



「チッ」



「今舌打ちした!?」



「気のせいじゃ。で、話を戻すが、どういうわけか、お主は次々と災厄となるものを潰してきておっての、そのおかげでタンヌ王国辺りでは、災厄自体は残っておるが、世界が滅ぶ要因となるほどの存在がほぼ無くなってしまったのじゃ。」



「私はそこまで大それた事した覚えがないのですが、、、。肉が欲しくて殲滅したとか、どちらかというと、自分の欲望に忠実に動いただけなんですがね。」



「それでよいのじゃ。無闇矢鱈に使命だ何だと言って、周りに迷惑をかけてごり押しする必要は全く無いのじゃからのう。それでの、ワシはお主が10年くらいかけて解決できればなあ、と思っておったが、実際には1年足らずで達成してしまったのじゃ。」



「具体的には?」



「そうじゃな、まずはマーブルの事じゃ。」



「マーブル? あんなに可愛い猫が災厄?」



「そうじゃ。実は、あれ、お主が助けなかったら、あの地域一帯が何もない状態になる寸前だったのじゃ。ところが、お主が治療した上に懐かせてしまったおかげであの一帯は平穏無事になったというわけじゃ。」



「ということは、あの出会いは、私にとってもこの世界にとっても素晴らしい結果だったと。」



「というわけじゃな。その他にはプラチナオークの討伐、ブラックドラゴンのルーラー種、最近のものではタンヌ王国の粛正といったところかのう。いずれもお主が関わったことで好転したのじゃ。」



「なるほど。別段意識したわけではありませんが、結果的には良かったのですね。」



「そういうことじゃ。でだ、お主には新たに転生してもらい、災厄を減らして欲しいのじゃ。もちろん、ただでとは言わん、いくらかボーナスをつけるぞい。」



 また転生するのか、いい加減面倒だから断るとしますかね。



「えーっ、もうそういったものとは無縁でありたいので、お断り、、、」



「ちなみに、また転生してくれれば、マーブル達と一緒に活動できるぞ。」



「私とアマさんの仲じゃないですか、何を水くさい。私に任せて下さいよ。」



 しまった、マーブル達とまた一緒だと言われて思わず何も考えずに引き受けてしまった。



「ホッホッ、話が早くて助かるぞい。とはいえ、先程も言ったように別に使命をもってこなさなくともよい。お主の思うとおりに行動するが良いぞ。」



「なるほど、承知しました。で、今回も一市民として活動ですかね?」



「いや、今回は貴族の息子として転生してもらいたいそうじゃ。」



「貴族ですか、非常に面倒臭そうですね。しかし、何で貴族に?」



「次の転生先では、災厄の数もそうじゃが、範囲も広く分布しておってのう、更に緊急性が比較的高いものが揃っておってのう、一冒険者ではカバーしきれないそうじゃ。それで身分を貴族にして広範囲に対応できるようにするためだそうじゃ。」



「でも、それって、私がその貴族の跡取りなんかにならないといけないわけで、跡取りにならずに追い出されたりした場合はどうなるので?」



「ホッホッ、そのことについては全く心配しておらん。お主の好きにすればよいのじゃ。別に跡継ぎになる必要はないぞ。何にせよお主だったら何とかしそうじゃからのう。」



「・・・・。」



「まあ、そういうわけで、詳しい話は後でするとしようかのう、まずは短い期間とはいえご苦労だった。休憩がてら旅の話を聞かせてもらおうかのう。」



「その前に、マーブル達をここに呼んでくれませんか? 転生するにしても、マーブル達と一緒に話を聞きたいので。」



「しょうがないのう、では、あの子らを呼ぶか。」



 アマさんが何かを唱えると、マーブルとジェミニとライムがやってきた。



「ニャー!!」



「アイスさん!!」



「あるじー!!」



「マーブル、ジェミニ、ライム、いらっしゃい!!」



 マーブル達は私に飛びついてきた。私も嬉しさのあまりいつもより激しくモフった。それを見ていたアマさんは、こちらには聞こえないくらいの大きさでつぶやいた。



「やれやれ、これ、離ればなれにしたら、ワシら滅ぼされるんじゃね? 予定を変更して最初から一緒にしないとまずいのう、、、。」



 次の転生先もマーブル達が一緒ならきっと楽しいものになるだろう。別々だったら大いに暴れてやるとしますか。この世界のことなんて知ったことではないしね。

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