第73話 ほう、これはいいものですな、でも、名前がね、、、。

 ダークドラゴン(アルビノ種)を倒した後には、大きな魔石とその近くに宝箱があった。



「宝箱ですわ、セイラ、早速開けて下さいな。」



「承知いたしました。」



 セイラさんが宝箱を調べているが、特に罠などはなさそうだった。



「王女殿下。この箱には罠も鍵もありませんでした。」



「そう、ご苦労様、早速開けてみましょうか。」



「はい、王女殿下がお開け下さい。」



「わたくしが? いいんですの?」



「もちろんです。この魔物を倒したのは王女殿下なのですから。」



「アイスさん、わたくしが開けてもかまいませんの?」



「もちろんです、セイラさんが言っていたように、倒したのはアンジェリカさんです。少なくとも戦っていない私達には権利はありませんので。」



 そう言うと、アンジェリカさんが意を決して箱へ行き、箱を開けた。そこまで気合入れなくてもいいと思うのですが。まあ、ダンジョンのトリみたいなものですから、そうなるかもしれませんね。



「こ、これはもの凄いお宝ですわね、、、。」



 アンジェリカさんが箱から出したものは、いずれも武器だった。ちなみに出てきたのは槍と弓と杖だった。戦姫の3人のために用意されたようなものじゃないか。ということは、この箱は倒したメンバーに合わせて中身が変化するやつかな。とはいえ、ここは王宮のダンジョン。一般人が入れるような場所ではないから、こんなこと知っていてもあまり意味はないかな。さあ、鑑定鑑定、アマさん出番ですよ。



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「スパルタクスヌ」・・・ほう、これは紛れもない一品ものの槍じゃな。基本アダマンタイトでできておるが、いい具合にヒヒイロカネが含まれておるな。魔力を込めると攻撃力が飛躍的に上がるが、別に魔力を込めなくても十分すさまじい攻撃力を持っておるの。


「アルテミヌ」・・・スパルタクヌと同じ素材でできた弓じゃの。


「ハーデヌ」・・・スパルタクヌとアルテミヌと同じ素材でできている杖じゃ。


 お主、どう見ても胡散臭そうにしておるの。まあ、気持ちはわかるが。ちなみに、こんな名前になっておるのは、当人達が名前を出して欲しくないという希望に添ってそのような名前になっておるのでな。性能についてはぶっちゃけ当人達が使っている装備とほぼ同じじゃから、名前にさえ目をつぶれば十分以上に役に立ってくれるからの。あ、言い忘れておったが、あの箱が出てきた時点で装備者は決まっておるから他の者は使うことはできんぞい。まあ、お主らは必要なさそうじゃがな。大事に扱うのじゃぞ。


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 いや、凄いものだというのはわかるが、名前がひどいだろ!! 何だよ、「スパルタクヌ」って、「スパルタクス」じゃないんかい! どこかの国で作られるバッタモンみたいな名前しやがって! って、これわざとそういう風にしてあるとしか思えないんだが。名前も正式なら全部「ス」で終わる名前ばかりだし、これ逆に神様達が怒りそうなネーミングだよな。それとも逆に笑っているのかねぇ、だとしたら冗談がわかる神様ということになるけど、でも、本当にいいのか? これ、長い間言い伝えられる名前なんだぞ。それをバッタモンみたいな名前にして本当によかったのか? くれぐれも後で逆ギレなんかするなよ。



 しかし、これ正直にアンジェリカさん達に伝えた方がいいのだろうか。とはいえ、しっかりと命名されちゃっているもんなあ。まあ、モノは間違いなく神クラスなんだろうけどね。よし、腹は決めた。正直に伝えますか。



「ええと、アンジェリカさん。とりあえず鑑定をしてみましたが、ガッカリはしないで下さいね。」



「あの、アイスさん。これらの武器に何か問題がありますの?」



「いえ、武器の性能やレア度については間違いなく神級なんですが、何と言いますか、名前がですね。」



「名前、ですか。とりあえず名前を伺ってみないことには何とも申し上げられないのですが、、、。」



「ですよね。では、名前を言う前に、それらの武具は槍はアンジェリカさん、弓はセイラさん、杖はルカさんしか装備できません。これは私達の中だからというわけではなく、それぞれが専用装備となっておりますので、他の方は装備することが出来ません。レア度ですが、どれも神級です。・・・そして、名前なのですが、まず、アンジェリカさん専用の槍の名前なのですが、、、。」



「はい、名前ですね、一体どういう武器名なのでしょうか。」



「アンジェリカさんの槍の名前は『スパルタクヌ』です。」



「ほう、スパルタクヌですかって、ええーーっ? ヌですか? スではないのですか?」



「ええ、『スパルタクス』ではなく『スパルタクヌ』で間違いありません。」



「ひ、ひょっとして、私の弓の名前も?」



「もちろんです、ちなみにセイラさんの弓の名は『アルテミヌ』です。」



「ア、アルテミヌ?」



「そうです。あ、ルカさんの杖ですけどね「ハーデヌ」という名前です。」



「・・・できることなら聞きたくなかった。」



 やっぱりだよな。名前胡散臭いもん。とはいえ、こっちでもスパルタクスとかアルテミスとかハデスとかの神様や英雄の存在って知っているのかな。



「ちなみに、皆さん、スパルタクスやアルテミス、ハーデスといったお名前はご存じで?」



「ええ、もちろん。スパルタクスは槍神、アルテミスは弓神、ハーデスは魔術神と呼ばれた冒険者ですのよ。とはいえ、昔実在していたという話で、実際にお会いしたことはないのですが。」



「なるほど、実在していた英雄だったのですね。ですから、武器の名前を聞いてしまうと、ね。」



「そういうことですの。」



 なるほど、ここでは神様ではなく実在した名手の名前だったか。それだと神様の名前として認識している私よりもショックが大きいのでは? いくらチート性能とはいえ名前が名前だからなあ。あ、そうだ、こう考えれば大丈夫なんじゃないかな。



「確かに名前はショックかもしれませんが、性能は神級ですので、皆さんのお役に立つことは間違いないでしょう。それに、」



「それに?」



「こう考えてはどうでしょうか? 戦姫の皆さんは武器名を一々言って攻撃をする訳ではないのでしょう?」



「確かに武器名を一々言ったりはしませんわね。」



「はい、ですから、別に武器名を人に話す必要はないのでは? また、いくらかなりヤバイ性能でも、恐らく狙うときくらいはその武器に鑑定をかけて確認するでしょう。」



「なるほど、で、鑑定をかけずに狙ってくるような相手は基本的には問題にならないし、武器に鑑定をかけられても、武器の名前を見てガッカリして相手は手を引く、と?」



「そういうことです。その武器が原因で余計な邪魔者が増えないことは確かです。とりあえず、名前の件は置いといて、試しに装備してみませんか?」



「そうですわね、質は間違いないのですし、実際に持ってから感想を言った方がよさそうですわね。」



 残りの二人もうなずいて、改めてそれぞれ手に入れた武器を装備した。



「え? 何ですの? この槍は。握った感触といい、持ちやすさといい、重さといい、これが専用装備。」



「弓も凄いです。引きやすいし魔力も込めやすい。重さもあまり感じない。今までの弓ってなんだったのだろうってレベルで凄い。」



「・・・この杖も凄い。いくら魔力を込めても違和感がない。重さもそれほど重くないしむしろ軽い。」



 3人とも武器の性能については大満足といった感じだ。



「では、名前の件は目をつむっても大丈夫ですかね?」



「もちろん! これだけの性能なんですから、名前くらいは我慢しないと!!」



「うん、これからの冒険が楽しみになるよ。」



「これで、手加減する方が疲れる、といったことは恐らくなくなる。」



 では、武器の確認終了っと。いやあ、一時はどうなるかと思いましたよ。しかし、文字一つ変えるだけであそこまで胡散臭くなるとは、名前、恐るべしかな。



「アンジェリカさん、どうします? 当初の予定通り王宮へ戻りますか? それとも先を進んでみますか?」



「いえ、当初の予定通り戻ることにしましょう。あの素晴らしい武具を手に入れることができまして、嬉しさ半分、ショックが半分といったところで精神的疲労が限界ですの。」



「なるほど、承知しました。では戻ることにしましょう。魔方陣は、と、そこにありますね。では、いつもでしたらマーブル隊員にお願いするところですが、性能チェックも兼ねてルカ隊員にお願いしましょうか。両名ともそれでよろしいですか?」



 マーブルとルカさんが敬礼で応えた。



 全員が魔方陣に乗ったところでルカさんが魔方陣に魔力を込めていく。



「・・・何、これ? 魔力が消費している感覚が全く無いし、魔力がこんなに順調に魔方陣に伝わるなんて。」



 ルカさんが言っているように魔方陣に魔力がスムーズに動いている。あっという間に魔力で満ちた魔方陣が光り、そのすぐ後、私達は別の場所にいた。ダンジョンに出発する前に見た光景だった。衛兵達がこちらに気付く。



「ア、アンジェリーナ王女殿下とそのお供の方達、よくぞご無事でお戻りになりました。まずはお部屋に戻りまして、ごゆっくりお休み下さい。」



「ありがとう。しかしその前に戦利品の確認などを済ませたいのだけど。」



「申し訳ありません。そのことについては、国王陛下に拝謁されたとき、あるいはその後で行いますので、まずはお部屋でごゆっくりなさってください。」



「わかりましたわ、ありがとう。あなたも任務ご苦労様です。」



 とりあえず解散となり、私は部屋に戻ると、メイドが出迎えてくれた。何か泣きそうになっている。



「ア、アイスざーーん、よくぞごぶじでー。マーブルぢゃん達がいなくでー、さびじかっだんですー。」



 声を出した途端我慢できなかったのか、号泣混じりでこんなことを言ってきた。まあ、私も逆の立場だったらこうなっていたのは想像に難くない。流石にマーブル達も引いていた。うむ、参考にしておこう。



 散々泣いて落ち着いたのか、いつもの調子に戻ったメイドは改めて挨拶してきた。



「アイスさん、それにマーブルちゃん達、よくぞご無事で戻ってこられました。先程は大変取り乱してしまい申し訳ありませんでしたが、ご無事で何よりです。ところで、なにかご用意しましょうか? 遠慮なくおっしゃってください。」



 ここで別にいいよ、と言ってしまうと後が怖いので、とりあえず入浴の準備と何かの飲み物をお願いしておいた。メイドさんは嬉しそうにこちらを離れていった。



 用意してくれた果実汁などの飲み物をもらい、風呂に入ってサッパリすると眠くなってきたのでひとまず仮眠を取ることにした。マーブル達も眠かったらしく一緒になって仮眠を取る。うん、このモフモフたまりませんなあ。これだけでも転生させてもらってありがとう、と感謝の念が沸いてくる。



 では、軽く寝ますかね。



「では、おやすみ、マーブル、ジェミニ、ライム。」



「ミャウ。」



「アイスさん、おやすみです。」



「あるじー、おやすみー。」



 眠気も限界だったので寝付くのに時間はそうかからなかった。

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