第72話 ほう、ようやく終了ですね。くっ。

 私とマーブル達はそれぞれのドラゴンと対峙していた。私はファイアドラゴンとアイスドラゴン、マーブルはポイズンドラゴン、ジェミニはアースドラゴンだ。正直言うと物足りない。マーブルもジェミニも恐らく同じように感じているだろう。あの白い大蜥蜴は得意げに結界のようなものを貼って私達が脱出できないようにしたつもりだろうが、何という身の程知らずだろうか。私はともかく、マーブルやジェミニの強さに全く気付いていない。まあ、いいか、さっさとやってしまおうかな。



 そんなことを考えていると、赤い大蜥蜴が偉そうに話してきた。



「人間ごときちっぽけな存在が、我だけでなくこやつと2体同時に相手をしようなどと身の程知らずが。ここまで来たということは腕にそれなりに自信があるのだろうが、・・・・・・・。」



 何か言っているが、どうせ大したことは言っていない。そんなことよりマーブルとジェミニはどう戦うのかな、くだらない話を聞いているよりそちらを観戦する方が有意義だ。とりあえずこいつらの話は無視して観戦しますかね。



 マーブルの方を見てみると、ポイズンドラゴンがいきなりブレスを吐いていた。毒のブレスってこの世界でも紫色なのね。マーブルは寝転がっていて意に介していない。一応風魔法で対応しているが全く問題になっていないのだろう。ブレスを吐き終わりマーブルの様子を見る毒々しい大蜥蜴。何かしたの?と言わんばかりに寝転がっているマーブルを見ていきり立つ。まあ、無理もないだろう。自慢げに吐いたブレスが通じないどころか何事もなかったように丸まって寝転がっている様子を見せているのだ。しかも子猫だ。うむ、見事に挑発されて我を忘れているな。流石はマーブル、私の自慢の猫。



 ポイズンドラゴンは怒りのあまりマーブルに突っ込んでいった。自慢の爪で辺り一帯をなぎ払おうと仕掛けてきたのに対して、マーブルは寝転がったまま飛爪を放つとドラゴンの腕ごと斬り飛ばした。その後面倒くさそうに起き上がると、マーブルは飛爪を次々と放ち、ポイズンドラゴンはバラバラに引き裂かれて何かの肉の塊になったあと、大きな魔石に変化してしまった。それを見届けたマーブルは何事もなかったように毛繕いを始めていた。



 一方ジェミニはというと、アースドラゴンという土色の大蜥蜴と真っ向勝負を演じていた。土色の大蜥蜴が尻尾で攻撃すると、それを迎撃するように突進をかましていた。普通なら圧倒的に小さいジェミニが吹き飛ばされるのだろうが、実際には思いっきりジェミニに跳ね返されていた。それを繰り返すこと幾たび、大蜥蜴は攻撃するたびに跳ね返され全身が動かなくなってきておりボロボロの状態になっていた。それを確認したジェミニは大蜥蜴に向かって行くが、それを待っていたかのように大蜥蜴が口を大きく開いた。ブレスを放とうとしていたのだ。しかし、ジェミニはそれも想定内といわんばかりに横方向にステップすると大蜥蜴の首めがけて突っ込む。大蜥蜴の最後のブレスは放たれることなく首をはねられ、数秒後には大きな魔石に変化していった。うんうん、お見事、ジェミニも流石だな。事が済んだジェミニも何事もなかったように毛繕いを始めた。ジェミニも毛繕いするんだね。



 マーブルとジェミニの毛繕いにホッコリしていたが、赤い大蜥蜴が怒鳴ってきた。ああ、ようやく長口上が終わったんだな、ということで2体の蜥蜴に視線を向ける。



「おい、我の話を聞いていたのか!!」



「あ、終わったんですね。そんなどうでもいい話聞いているわけないでしょう。そんな無駄なことするんだったら、私の可愛い猫達の勇姿を見ていた方がよほど有意義でしょうに。それもわからないほど頭悪いんですかね? 所詮は大きな蜥蜴さんですかね。」



「ほう、我らを大蜥蜴と言うか、いい度胸だ。」



 そう言うが速いか、白い蜥蜴が尻尾でなぎ払ってきた。これは丁度いい、恐らく白い蜥蜴の尾撃で赤い蜥蜴のところまで吹き飛ばして、赤い蜥蜴は爪でとどめを刺そうとしているな。予定としては赤いのから倒す予定だったからこれで楽ができるぞ。尾撃が来る前にバーニィを起動しておく。尾撃が来たのでそれに乗っかって赤い方へ突っ込む。赤い大蜥蜴は白い大蜥蜴の尾撃を利用して自分に向かってくるとは夢にも思わなかったらしく、驚きを隠せない状態だった。ふと我に返って自慢の爪でなぎ払おうとしていたが、もう遅い、これで赤いのは終わりだ。



「バーニィバンカー!!」



 氷の杭を赤い大蜥蜴の頭部に思いっきり打ち込む。白い方に戻らないといけないので、爆発は多めにしておく。哀れレッドドラゴン(w)は何もすることなく魔石に変化した。さて、残るのは白い大蜥蜴だけだ。これを残したのにはもちろん理由がある。普通にバンカーだけでも倒すのは簡単だが少し試したいことがあったのだ。



「くっ、いくら氷属性で攻撃したとはいえ、我の一族をこうもあっさりと倒してしまうとは、、、。」



「さてと、次はあなたの番ですね。覚悟はいいですか?」



「ふん、下等種風情がどこまで舐め腐った態度をとりおって。我に氷や水属性が通じるとは思うなよ。」



 何か言っているが、気にせず試したいことを試してみましょうか。試したいことというのは、水術があの氷の大蜥蜴に通じるかどうかです。普通なら通じないと思うかもしれないが、向こうは魔力で氷を生み出しているが、こちらは物理で氷を生成している。しかもこちらは密度を上げたり出来るので温度は自由自在だ。とはいえ、太陽レベルの温度なんてのは無理だけどね。では、実験開始といきましょうかね。



 まずは大蜥蜴の足下を凍らせる。お、凍ってきているな、白い蜥蜴が驚きを示す。



「な、何? 我の足下が凍ってきておるとは? しかし、この程度では我の動きは止めることはできぬぞ。」



「そうですか、頑張って下さいね。」



 白い大蜥蜴が凍るのを確認できたので気合を入れて凍らせていく。蜥蜴を取り巻いている氷がいい速度で上にせり上がっていく。もうすでに足は完全に氷に包まれており動けない状態になっていた。



「ば、馬鹿な、我は氷を自在に操るドラゴンだぞ。人間風情に負けるのはありえん!!」



「いや、どう見ても負けてるでしょ。流石は蜥蜴、頭はそれほどでもないかな。」



 相手を馬鹿にしているが、もちろん蜥蜴が馬鹿だとは思っていない。蜥蜴は蜥蜴なりに知恵があると私は思っている。しかし、こいつらは自分が偉いと思っているからその思い上がった精神が気に入らないのだ。



「どこまでも馬鹿にしおって、だが調子に乗るなよ人間風情が。我にはこれがある!」



 白い蜥蜴が口を大きく開いた。得意のブレスか咆哮かのどちらかだろうが、やはりこいつ馬鹿だな、自分で墓穴を掘ってるよ。折角なので口の中を凍らせてやりますか。



「グ、グググ、、、。」



 口の中を水術で凍らせると、ブレスを吐くどころではなく、苦しそうに呻いていた。



「やはり馬鹿は馬鹿ですねえ。水や氷が通用して足下が凍っている状態なのに、大口を開いてしまえば余計に凍ってしまうに決まっているでしょうに。そんなのも気付かないほど頭が良くないんですね。」



 哀れ白い大蜥蜴さんは、こちらに憤怒の視線を向けたまま全身が凍っていき、そのうち魔石に変化した。ちっ、肉でも何でもいいからドロップしてほしかったのに、何も出やしねえ。使えない蜥蜴だな。



 4体のドラゴンを倒すと、結界のようなものは消え去り、自由に動けるようになると、マーブルとジェミニがそれぞれ魔石を咥えながら一直線にこちらに向かって来た。私がそれを受け止め2人をモフモフする。うん、何て至福の感触。でも、魔石がぶつかって少し痛かったのは内緒だ。



 一連の戦闘を見ていた戦姫もだが、得意げにしていた自称セイントドラゴンもあっさりとした決着に唖然とする。



「ア、アイスさん達って、やはりとんでもないですわね。」



「はい、味方でつくづくよかったと思います。」



「、、、うん、絶対に敵に回せない。」



「ば、馬鹿な。我が同胞の精鋭達がこうもあっさりと、、、、。」



「我に戦闘能力がなくて助かったな。あんなの相手になんかできぬわ、、、。」



 パスタさんの存在忘れてた。敵対よりも美味しい作物の開発頼みますよ。



「さてと、残るはあなただけですが。」



「ぐ、ぐう。」



 ダークドラゴンさんが、少しびびっている。まずい、このままでは戦姫の華麗な連携が見られなくなる。


と、思ってこちらも少し焦ったが、ドラゴンとしてのプライドがそれを許さなかったのか、気を取り直してこちらに対峙してきた。



「向こうはやる気です。最後は戦姫の皆さんでトリを飾りましょう。」



「ええ、わかりました。わたくし達であのドラゴンを倒します!!」



「いつものように戦えば大丈夫です。では、ご武運を。」



「はい、行きますわ!!」



「人間どもよ、ドラゴンの意地を見せてやる。かかってくるがいい!!」



 こうして、ダークドラゴンと戦姫+ライムの戦いは始まった(多分出番はない、ごめんねライム)。



 まずはセイラさんが火属性魔法を付与した矢を放つ。ドラゴンの動きを鈍くする+アンジェリカさんが攻撃できるように牽制も兼ねた一撃だったが、予想以上に相手に効いたっぽい。その隙を逃さず追い打ちでルカさんが火魔法を放つ。セイラさんがダメージを与えた部分にしっかりと当てている。予想外のダメージにダークドラゴンが大きな隙を見せる。もちろん、それを見逃すほどアンジェリカさんは甘くない。愛用の槍でダメージを与えた部分を思いっきり突く。槍には聖属性が付与されており、ダークドラゴンの足が1本粉砕される。しかし、苦し紛れに放った尾撃がアンジェリカさんに当たりそうになる。流石にあれを喰らってはマズい、と思った刹那、オニキスが壁となってその尾撃を防いだ。オニキスは壁際まで吹き飛ばされてしまった。不吉な空気が出始めた。



「オニキス!!!」



 アンジェリカさんが叫んだ。しかし、オニキスは潰れるどころか、全く問題ないと言わんばかりにその場でピョンピョン跳びはねていた。それを見て私達はホッと息をつく。



 ダークドラゴンは先程の一撃で大ダメージを受けていたが、ダメージは足一本だけで、その他は無傷である。よろよろと起き上がりながらもその戦意は未だ健在であったが、驚きは隠せていないようだった。



「くそ、何てことだ。我に聖属性で攻撃してくるとは。」



「申し訳ありませんが、あなたがダークドラゴンであるのは承知しておりましたの。あなたがセイントドラゴンなんて名乗られた時には笑いをこらえるのに必死でしたわよ。」



「な、何? 我がダークドラゴンだということを知っておっただと?」



「ええ、得意げに口上を述べておられましたが、あなたがダークドラゴンの特殊個体であることはすでに承知しておりましたわ。」



 アンジェリカさんが蔑むようにダークドラゴンに話をしていた。恐らくアンジェリカさんもわかっているのだろう。向こうがブレスを使ってくることを。ブレスを防ぐための対策として、セイラさんとルカさんが準備をする時間を稼いでいる。向こうは馬鹿だから、ブレスでいつでも逆転ができると思っているため、そういったことには気付く気配がない。しかし、それを言わずにそういった連携がとれるのはやはり見事としか言いようがない。これが長年で築かれた信頼関係というやつかな。私もマーブル達とそういった関係を築いていきたい。今でもマーブル達は私を信頼してくれているとは思うが、今以上の信頼関係を築きたいと改めて思った。



「フッ、ここまでダメージを受けたのは初めてだ、だが、これ以上ダメージを受けることはない。なぜなら我にはこれがあるからだ。さて、闇属性、防げるかな?」



 ドラゴンとしては、完全なタイミングでブレスを放てると思っていたのだろうが、戦姫は完全にそのタイミングをつかんでいた。ダークドラゴンはブレスを放とうと口を開けたときに火属性の矢をセイラさんがのど元に向かって放ち、それに呼応するかのようにルカさんが風魔法で火の範囲を広げるべく放つ。



 見事に口の中に火の塊が入り込み、ダークドラゴンはブレスどころではなくなっていた。思っても見なかった上、防御の薄い部分に受けた攻撃だ。苦しさでのたうち回っていた。間髪入れずにアンジェリカさんが詠唱を始める。



『天の神々よ、我が呼びかけに応え、その力を示し給うことを願う!!』



 アンジェリカさんの体が光り始めたことに気付いたダークドラゴンだったが、先程受けたダメージが大きすぎて動きもままらななかった。その間にもアンジェリカさんのまとっている光が強くなっていく。ダメージをこらえながら最期の一撃といわんばかりにブレスを放とうとしていたダークドラゴンだったが、アンジェリカさんの詠唱準備が終わる方が早かった。



「『天の神々よ、今こそその力で敵を滅せよ。』ジャッジメント!!」



「qあwせdrftgyふじこ!!!」



 何か訳のわからないことを叫びつつ、巨大な雷を喰らって全身が黒焦げになったと思ったら、大きな魔石に変化していた。しかし、ほとんどがブレスを使おうとして墓穴を掘った結果になったな。ドラゴンの種族がそうであるのか、ここのドラゴンがダンジョン産なのかはわからないけど。



「や、やりましたわ。」



「王女殿下、お見事です。」



「流石、お見事。」



 ドラゴンを倒してホッとしていたアンジェリカさんだったが、ふと思い出したかのようにオニキスの所に駆けていった。



「オニキス、大丈夫ですの? 怪我はありませんの?」



 大事そうに抱えてオニキスに語りかけていた。オニキスは「ピー!」と元気よく答えていた。



「わたくしを護ってくれたのは嬉しかったですが、無理をしてわたくしを心配させないで下さいね。」



「ピー!!」



 こんな2人のやりとりに周りはほっこりしていた。さてと、無事戦闘も終了しましたね。では号令をかけないとね。



「みなさん、お疲れ様でした。これで大蜥蜴殲滅作戦を終了いたします。」



 みんなが敬礼を持って答えた(もちろん約1名を除く)。その1名はぽかーんとしていた。



 あ、宝箱発見。さてと、中身は、と。

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